巫女の過去(side ステラ→エマ)

 どうやら、エルシィの付き人はコロニア家の人間を嫌っているようだ。

 不思議に思ったステラは、少し探りを入れてみる事にした。


「コロニア家の人達に、何か思う事でもあるですか??」

「はい……。あまりこのような場所で話す内容でもないのですが、十三年程前に、王家に関係する方が暗殺されるという事件がありまして」

「う、うん……」


 ステラは胸のあたりを両手を抑え、コクコクと頷く。

 王族が暗殺されるなんて、そうそう無いはずなので、もしかするとこの少年はステラのことを言っているのかもしれない。

 おそらくその事件後にステラの身体の時間が巻き戻って、今生きられていられるわけなのだが、その辺りの事情は知らなそうだ。


「実行犯が特定されたまではいいのですが、逮捕の前に殺されてしまったそうです」

「……」

「口封じされたのっ!?」


 黙り込むステラとは逆に、レイチェルは好奇心を抑えられないようだ。目を輝かせ、付き人の方に身を乗り出している。


「私も口封じされたのではないかと思っています。実行犯を殺したのが、コロニアの息がかかった人間かもしれないとのことだったので、なおさら……」

「コロニア家ですかっ」

「そうです。聞くところによると、コロニア家のパーヴァ様も侍女選出試験をお受けになられるとのこと。エルシィ様とあの家の方が関わり合いを持つかもしれないと思うと、心配でならないんです」

「うん」


 付き人の話から想像するに、ステラを殺した犯人はコロニア家の人間なのかもしれない。

 今更恨んだりはしないけれど、何となく因縁のようなものを感じてしまう。

 モシャクシャした気持ちのまま付き人の目を見上げると、彼もまたステラを見ていた。

 

「付き人さん、実技試験の中に”戦闘”があったんですが、内容を教えてもらっていいですか?? パーヴァさんに勝ちたいです」

「ええ、勿論お話します。少し複雑なのですが――」


 エルシィの付き人は丁寧な口調で内容についての説明をする。


 試験科目の一つ”戦闘”では、主に人間を警護する能力をみられるのだそうだ。

 受験生一人につき、城付きのメイドが20人割り当てられ、目的地まで無事に送らなければならない。その間、他の受験生にメイドを奪われたり、リタイアさせられたらポイント(メイド一人につき1ポイント)が減り、逆にメイドを奪ったらポイントが増える(メイド一人につき1ポイント)。

 そして、受験生本人がリタイアまたは戦闘不能になったら、ポイントはゼロになるとのことだった。


 付き人の話を聞きながら、ステラは考える。


(メイドさんを奪い合うのかぁ。生徒会長のお姉さんを勝たせるためには、私の持ち点20ポイントをあげることを前提にしないと……。あとは、他の受験生を奇襲きしゅうして、全員リタイアに追い込むのが確実なのかな?? ”警護する能力をみられる”って部分も、ちゃんと考えなきゃ。ミレーネさんはメイドさんを守る行動に徹するのが良いの?)


 受けたことの無い試験なのでどのような行動が正解なのかは分からないが、取りあえずミレーネを勝利させ、パーヴァ・コロニアを倒してしまいたい。


◇◇◇


 エマは商店街の入り口に立ち、通り過ぎる人々の顔を確認し続ける。

 学校に行ったステラの代わりに、帝国から来た女性――ロカ・レスリムの生活に必要な物を買いに来たのだが、何故か途中ではぐれてしまった。

 こういう時はむやみに歩き回らず、相手に探してもらうほうが良いだろうから、さっきからここでジッとしている。


(何度も生まれ変わったのに、人と行動を共にするのは苦手なまま……)


 成長の無い自分に呆れ、逆側を向く。

 はからずも、視界の中に”知恵ある神”の巨像が入った。

 あれはエマのの記憶にもあるものだ。造られてから何百年も経つというのにまだそこに有り続けるのは、この国の主神だからに他ならない。

 見ているうちに、ジワジワと胸の中に痛みが広がる。


(この国は、ステラ様を何度も裏切ってきた……。誰よりも優しいあの方を)


 エマは生まれ変わる前、ステラに命を救われた。


 本当の意味で幼い頃、エマはおのれの体内で暴れ回るエーテルに、日々苦しめられていた。

 ヒトの身体は、本来であれば多量のエーテルを保有出来ないようになっている。

 数値の目安としては、MP10,000までが健常な範囲と言われていて、それを超える量を持って生まれた者は、5歳まで生きられないとされていた。

 運悪く11,340ものMPを保有して生まれてしまったエマは、更に運が悪いことに、何故か5歳まで生き永らえた。

 しかし身体の状態は最悪で、日夜内側から身体を食らわれるかのような苦痛に耐えなければならなかった。あふれ出たエーテルは両親に大怪我を負わせ、彼等はエマに対する悪感情が抑えきれないようだった。


 このような日々に両親は嫌気が差したのだろう、エマは6歳を迎える前に捨てられてしまった。


(でも、あの美しい方に拾ってもらった……)


 多量のエーテルというのは、神の目にもつきやすかったようだ。

 見学に来たステラの前世――アンラ・マンユに治療をほどこされ、体内を流れるエーテルを調整された。しかも、彼の信徒の中から無害な人物を選び、エマをその人の養女にさせたのだった。


(あの方のお陰で、ようやく自分が人の形をしていると分かった。親に捨てられた悲しみも、二度と会えないかもしれない存在を待つ辛さも。あの時に救われなかったら、分からなかった。感謝しても、しきれない……。だけど、ステラ様をあの方と重ね過ぎたら、負担になってしまう)


 感傷に浸るエマの前に、誰かが立った。


「あなた、今一人のようね」


 確認しなくても、声で分かる――この人物はパーヴァ・コロニア。今世での自分の義姉だ。

 もしかしたら、エマを探していたのかもしれない。



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