追加参戦

 グウェルは他の生徒に呼ばれ、後方の席へと歩いて行った

 その背中を眺めながら、ステラは考える。


 この国では、どのくらいの人間が自分の出自について知っているのだろうか?


 実の姉であるエルシィやその付き人。近衛師団などなど。王室に近そうな人々は誰もがその辺りの情報を持っていないようだった。

 だとすれば、相当狭い範囲の人間しかステラと王室についての関係を知らないのかもしれない。


(……でも、私。エルシィさんと二度も旅行に行ったわけだから、今までにかなり身辺調査されてるよね。それでも何も騒ぎにならなかったんなら、今回の侍女選出試験の調査も大丈夫そう??)


 きっと調べを進めても、”情報が空白になっている”か、”うまく誤魔化されている”とかなんだろう。

 喜んでいいのか、残念なのか、良く分からない……。


 軽くため息をついてから自習室を出ようとすると、入口からレイチェルが顔を覗かせていた。


「あれ? レイチェルさん。どうしたですか?」

「どうって、ステラと生徒会長が親しげに話しているから、ついつい観察しちゃったんだよ!」

「別に親しくなんてしてないですけども」

「あの人と話すだけでも、相当凄いことなんだから! 生徒会長は大抵の生徒を見下してるからね!」

「ただ単に頼み事されたっただけです。ギブアンドテイク? な関係なんですよ」

「ほぅほぅ。詳しく教えてもらおうか!」

「う、うん……」


 ステラは勢いに押し切られる形で頷いてしまった。


 しかしながら、生徒会長本人が居る自習室の前で話し込むのもアレなので、二人で食堂へと移動する。


 テーブル席に着くまでにおおよその事を説明し終えると、レイチェルは元気よく片手を挙げた。


「あたしも参加してみたいっ!」

「えぇ!? エルシィさんの侍女になりたいなら、個別に申し込んだ方がいいかもですよ」

「そうじゃないよ! また、ステラと協力して戦いたいんだ! それにホラ。自分で言うのも変だけど、あたしって、それなりに服装のセンス良いと思うし! 役立つよ!」

「たしかに、お洒落なんです」


 ステラは改めて向かい側に座る少女を観察してみる。

 ワンピース型の制服をショートパンツスタイルに改造し、ネクタイを変わったアレンジで結んでいるだけなのだが、とても可愛いし、カッコよくもある。

 普段着姿を思い出しても、適当な服装の時など一度もなかったかもしれない。

 【ファッションセンス】という不可解な科目にも対応出来そうだ。

 

 侍女選出試験では筆記試験の各教科と、実技試験の中の戦闘にだけ力を入れようかと考えていたが、レイチェルが居たら心強いだろうし、きっと試験自体を楽しめる。


「レイチェルさんが良いなら、協力してほしいです!」

「もっちろん! 皆と一緒に頑張るよっ!」


 ステラはメモ帳を取り出し、レイチェルの個人情報を書いてもらう。

 侍女選出試験に出願する際に、助っ人のメンバーのプロフィールも書く必要があるのだ。


「――よしっ! 書けたよ。あとは何すればいい?? 過去問とかあるならやるよ!」

「過去問……。あるのかなぁ」


 レイチェルに具体的な事を伝えたくても、この試験についての情報を殆ど持っていない。

 グウェルにもう一度会いに行き、試験問題についての詳細な内容を聞いたほうがいいかもしれない。そう思い始めた時、食堂の入口付近にちょうど良い人間――エルシィの付き人を見つける。


「おはようなんですっ!!」

「ステラ、どうしたのっ!?」


 動揺するレイチェルを気にせずに、ブンブンと手を振ると、向こうもステラに気が付き、綺麗なお辞儀をしてから、近寄って来る。


「おはようございます。お二人とも、一時限目は何もとっておられないのですね」

「そうです!」

「朝はだるいからね~」


 ステラ達がそれぞれ返事を返せば、少年は「失礼します」と行儀よく言い、空いている席に座った。


「ステラ・マクスウェルさんにお伝えしなければならないことがありましたので、探し回っていたのです」

「私にですか? 何だろ??」

「貴女はヴァルドナ帝国に対して、多大な貢献をなさり、ゴンチャロフ・ニコライ・アレクサンデルヴィッチ皇帝陛下からの褒美ほうびを受け取ることとなっていたはずです」

「うん」

「昨日その授与式が執り行われ、ガーラヘル王国の外交官がステラ・マクスウェルさんの代理として出席しました。『直ぐにでもこちらに送り届けたい』とのことでしたが、『褒美の品々が痛まぬよう慎重に運ぶように』と伝えておきました」

「あ! その事ですか!」


 レイチェルが歓声をあげるので、少々恥ずかしくなってくるが、ゴンチャロフ皇帝から貰う予定の”初霜のリンゴ”が届くのは、素直に楽しみだ。

 クリスへの借金返済に使えるし、来月からの分は色んなアイテム作成に使える。

 つい、ニコニコとしてしまうステラに対し、エルシィの付き人は控えめな笑みを浮かべる。


「私が話したいことは以上になります。お二人の会話を邪魔してはいけませんので、教室に戻らせていただきますね」

「あ! 待ってくださいです!」

「どうなさいましたか??」

「えっと……、エルシィさんの侍女選出試験に、付き人さんも関わってたりしないですか?」

「……その試験には様々な形で関わらせていただいております。それがステラ・マクスウェルさんに何の――。あっ!! 分かりました」


 普段から冷静沈着な少年の顔が妙に楽し気なものへと変わる。


「ステラさんはエルシィ様の侍女になろうとお考えなのですね! 願ってもないことです! 何でも協力しますから、コロニア家の方に勝って下さい!」


 またコロニア家が出てきてしまった。

 なんだかプレッシャーがかかってきたのを感じ、ステラは眉根を寄せた。






 


 

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