失意の帰国

 アジ・ダハーカがステラに告げたのは、絶望的な言葉だった。

 せめて後10センチは慎重を伸ばしたいと願っていたというのに、『成長を諦めた方がいい』だなんて、何かの間違いだと思いたい。


「アジさん……。それって、何か根拠があって言っているですか?」

「根拠か。……今までのお主の成長速度が根拠といえば根拠となるが」

「私の成長が遅いのが、根拠?」

「うむ。お主の成長が遅いのは、その脆弱ぜいじゃくさゆえだと思っておった。しかし、現時点でのお主のステータスを見て、考えが変わった。お主は再び神格性を備え|《そなえ》始めているのだろう。これから徐々に――いや、もう既に、成長が止まっているのかもしれん」

「ガーーーーン……。ショックが大きいんです」

「そのステータスさえなければ、そのうち成長するだろうと思っていただろうがな」


 正直、相棒の話は小難しくて、よく理解出来なかった。

 しかしながら、”成長が止まっている”という一点に限っては、シッカリと伝わった。


 ステラは力無く床に座り込み、自動筆記帳をジトリと眺める。


「やっぱり、このステータスはおかしいです」

「そうだな」

「”サポートジョブ2:常闇を統べし者 Lv1”……。サポートジョブが2つ付いているステータスなんて、初めてみたですよ」


 手帳のページをペラペラとめくり、他の人間のステータスを参照してみるも、自分のものよりも変なステータスは見当たらない。

 他人と違うということは、こんなにも不安になるものなのかと、気が遠くなってしまう。


「あの……。このデータも、アジさんの力で隠してほしいです。バレたら、実験体にされちゃうかも。……あわわ」

「了解だ」


 こんなステータスを他の人に見られたなら、今度こそ何を言われるか分かったものではない。一般人のように偽装し、そこそこに平穏な生活を送り続けたい。


「しかし、ステラよ。おかしいのはサポートジョブだけではないぞ。MPなぞ、規格外もよいところだ」

「うぅ。本当だ……。しかも何故かAGIが減ってるです」

「なにっ!? お主、ここ最近魔導具や他人の力を借り過ぎて、筋肉量が減ったのではないか?」

「そういう事になりそうです!!」

「AGIは放置だな! あとは、アビリティの中の【時空魔法】、【怠惰】、【悪夢】、【魔法創造】をなんとかせねばならん。これらを書き換えるだけで、儂のMPはスッカラカンになるだろう」

「アジさんが頑張ってくれなきゃ、私が怖い人達に目を付けられちゃうですよっ」

「分かっておる。分かっておる」


 1人と1匹でコソコソと打ち合わせをしていると、同じ車両にエルシィが入って来た。


「あら、ステラさん!?」

「うわわっ!」

「そのような場所に座ってはいけませんわ! こちらに来て、帝都の方々にお別れの挨拶をいたしましょう!」

「……ふぁい」


 そういえば、たくさんの人々が自分達を見送りに来てくれていたのだった。

 自分の身がヤバイ状態になっているので、それどころでもないのだが、別れ際に手を振るぐらいはするべきなんだろう。

 重い足取りで、エルシィが座るテーブルセットまで歩き、彼女の向かい側の椅子に腰かける。


「ステラさん? 何故小刻みに震えていらっしゃるの?」

「……このまま一生成長出来なきゃ、周りの人達にガッカリされるかもって考えて……。ハッ!? 何でもないんです! 今の話は忘れて下さい!」

「流石はステラさん。充分お強いのに、これ以上の成長を望むだなんて。とても向上心がおありなのですのね」


 ついつい不安な気持ちが口から出てしまったが、エルシィはうまい具合に”ステラが能力的な成長について悩んでいる”と解釈してくれたようだ。

 失言したお陰なのか、少し鬱々とした気持ちが解消され、窓の外を見る。


 列車が動き出したからということもあり、ホームに居る人々は一斉に手を振ってくれる。そんな彼等を見ていると自然と笑顔が戻り、窓を開け、手を振り返す。


「ハードな旅だったですけど、色んな出会いがあったです。エルシィさん。今回は行楽こうらくに誘ってくれてありがとうでした」

「ええ。私にとっても実り多き旅でしたわ。ステラさんの活躍を拝見出来ただけではなく、諸外国の情勢についてより深く知れました。おまけに、某国テミセ・ヤの弱味も握れましたしね――あっ!」


 満足そうに笑っていたエルシィは、急に表情を変え、両手をポムッと打った。

 何事かと様子を見ていると、彼女は上着のポケットから紙きれを取り出す。

 彼女の持ち物にしては、ヨレヨレになっているので、何だかおかしな感じだ。


「エディさんから、お手紙を預かっていたのでした。あやうく忘れてしまうところでしたわ」

「私あてなんですか?」

「ええ。ステラさんはあの方に頼み事をしたのでは?」

「おっ! あの件ですか。あー……、見返りとして、ジェレミーさんにお願いをしなきゃならないんだった」


 帰国早々、ジェレミーと交渉しなければならなくなったと、ステラはゲンナリしたのだった。


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