ただの水が未知の素材に変化した!
ステラは金剛杵を岩の上に置いた後、ビーカーの場所へと戻る。
僅かな間離れただけだというのに、ビーカーの表面にはたくさんの霜がくっ付き、底に水がたまっていた。
半分ほどが凍り付いているのだが、分析するのには問題ないだろう。
水蒸気の収集がうまくいったことにニンマリしながらポケットからハンカチを取り出し、ビーカーの周りを囲む。こうしてしまえば、冷気を感じ辛く、寒さに弱いステラでもなんとか持ち上げられた。
この水はレイフィールド上空にあった雲なので、普通に考えたなら、ただの水でしかない。しかし、マクスウェル家の文献には、こういう古い魔法の影響下にあった素材が、不思議な性質を帯びるという事例も多数載っていた。
だから、今回も可能性が無いわけではない。
「良い結果が出ますようにっ。【アナライズ】!」
ステラがビーカー無いの水に分析魔法をかけると、いつものように空中にデーターが表示された。
名称: 異界の水
効能: 触れた人、または物のエーテルの流動を阻害する。そして心身、物質、または混合物の純度を上げる。
効果時間: 10秒
「異界の……水?」
思わず声に出してしまう。
こんなアイテム名は素材図鑑でも、オスト・オルペジアの資料にも載っていなかった。下手をすると、今ステラが入手したモノは新発見の素材になるのかもしれない。
沸き上がる高揚感にプルプル震えながら、”効能”の方もじっくりと読んでみる。
内容的には、戦闘に使用したなら相手の魔法やアビリティを妨害出来そうだし、アイテム製作においても、高難度レシピに使えそうな感じだ。
「ふあぁ……。これは良い物をゲットしちゃったかも」
ホクホクした気持ちになり、【異界の水】をもう少し集めて行くことにする。
一応素材を複製出来るのだが、現物をたくさん持ち帰った方が達成感が味わえそうな気がするのだ。
(帝国に来る前は、素材のことなんか何にも考えてなかったのに、【初霜のリンゴ】と【異界の水】をゲットしちゃった。たまに遠くに出かけると良いことがいっぱいあるなぁ)
これからは定期的に旅に出た方がいいかもしれない。
◇
次の日の昼頃、ステラ達は帰国の為、帝都シュプトリー中央駅へとやって来た。
もう少し滞在したいところなのだが、魔法学校の長期休暇が明日で終わるため、今日あたりに帰らないと少々やばいのだ。
昨日アジ・ダハーカに聞いたとおり、ゴンチャロフ皇帝から様々な報酬を与えられることになったので、もう少し滞在したいところなのが、学生の身分だと難しい。仕方が無しに、ガーラヘル王国の外交官に代理を頼むことになった。
その事についてエルシィと話しながら駅舎へ入ると、多くの帝都民でごった返していた。
最初、彼等はそれぞれの用を足す為、駅に来ているのだと思った。
しかし、すぐにそうではないと分からされる――彼等はステラ達に気が付くやいなや、大きな歓声を上げたからだ。
「レイフィールドに雨をもたらした方だ!」
「あのトンガリ帽子の子がウチの国を救った」
「皇帝陛下ですら成し遂げられなかった事を一夜にして――」
「ガーラヘル王国の魔法学校の生徒らしい」
「小さい子だ」
一部不快な言葉もあるが、彼等が話題にしているのはステラみたいだ。
急激に恥ずかしくなったステラは、トンガリ帽子をぐいぐいと下に引っ張り、顔を隠す。
「うぅ。何で顔バレしてるんだろう……」
「あら? 朝の新聞やテレビをご覧になっていらっしゃらないのね?」
「……寝坊しちゃったので、何も見てないです」
「ふふっ。それでは教えて差し上げなければいけませんわね。ステラさんは帝国を救った英雄として報道されているのですわ! 友人として、とても誇らしく思います」
「え、英雄……? えぇー!?」
自分が知らない間に、随分古風で
思い返せば、昨日、オムライスを食べている最中に、変なオッサンからカメラを向けられていた。まさかあれが新聞やテレビ放送に使われてしまったのだろうか?
憤りと恥ずかしさで頬が熱くなる。
「うぐぐ……。人の写真使うなら、一言くらい断りがあっても良い気がするです。ふんだっ!」
「――すまないな。私が許可を出したのだ」
「へ?」
ちょうどホームに出たところに、ゴンチャロフ皇帝が居た。
傍にはインドラも居て、
この二人が揃ってここにいるのは、自分達を見送るためなんだろう。
「ゴンチャロフさん。今回はご褒美に色んな物をくれるって聞いたです。有難うございますですっ」
勢いよく頭を下げれば、手で制される。
「礼を言わねばならぬのは、こちらの方だ。ステラ・マクスウェルよ、こたびは助かった。そなたの偉業を華々しい式典でねぎらいたかったのだが、学業を優先するとのこと。年長者として、尊重しないわけにはいかない」
「本当は式典に出たかったのですが、学生だと、あんまり自由がないですので……。すいませんです」
「いいのだ。いいのだ」
長々と続く誉め言葉に、ステラはひたすら恐縮したのだった。
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