防音室がなければ作ればいい

 レイフィールドの名士の家に到着すると直ぐに、アジ・ダハーカが戻って来て、先ほどのモンスターとのやり取りを教えてくれた。

 どうやらモンスターはユミルの仲間の召喚獣だったらしく、弱体化中の相棒はかなり手こずったらしい。

 ギリギリ勝利し、獲得したのは一枚の紙。ちゃぐちゃになったソレはエマのスキルで修復された。

 書かれている内容を読み、ステラの心臓はかなり冷えた。


 なんと、ステラの血の繋がらない親族エディ・マクスウェルの殺害計画だったのだ。エディとの会話を聞かれた上でユミルに殺そうと判断されたのだとしたら、自分の言動に責任を感じずにいられない。


 そんなこんなでステラはアジ・ダハーカとエマ、そして雷神インドラを連れてエルシィの付き人の部屋に押し入った。彼が防御魔法に優れているのを思い出したので、頼る事にしたのだ。


「失礼するですっ!!」

「うわぁっ!! ステラ・マクスウェルさん!? と、他の方々も居ますね。どうしたんですか?」

「防音効果のある障壁を張ってほしいです! それと、貴方に話しておきたいことがあるです」

「……内密の話をしたいという事なのですね。少し待っていてください」


 流石は王族の付き人をやっているだけあって、空気を読む事に長けているようだ。緊張の面持ちで障壁を展開していき、防音性に優れた空間を作り上げる。


 即席の防音室を作ってもらったのは、ユミルのスキル【ビッグイヤーズ】に対抗する為だ。彼がどの程度の音を拾えるのか定かではないが、やらないよりはずっとマシだろう。


「これで何を話しても、聞かれないと思います。えっと……。大勢で立たれていると落ち着かないので、ソファに座ってもらえますか。お茶を淹れてきますから」

「え、お茶?? あー、……はい」


 育ちの良すぎる人間は自分のペースを崩したくないらしい。

 ステラとしては彼を交えて直ぐにでも話し合いたかったので、肩透かしをくらった感覚だ。

 しかし、喉が渇いたのも事実。取りあえず頷き、ソファの上にピョンと飛び乗る。

 他の面々も腰を下ろした後、ステラは話を切り出す。


「さっきも話ましたが、ユミルさんの他にたくさん間者がいそうなのが、厄介な感じなんです」

「うむうむ。一体何人いるのか……。ステラよ、何故ユミルを駅で抹殺しなかったのだ。そこで逃してしまったゆえ、奴が牙を研ぐのに充分な時間を与えることとなったのだぞ」

「うー、大技を使われたら、エルシィさんを巻き込んじゃうかと思ったですよ」


 相棒が責めるような事を言うため、だんだん自分の判断に自信がなくなってくる。

 たしかに、フリータイムの間にユミルはステラ達を陥れる為に準備しているに違いない。

 つい神妙な表情になってしまったステラだったが、いきなりバシンと背中を叩かれ、悲鳴を上げた。


「うにゃっ!? 何するですか!」

「なーに、心配することは無い! こっちにはアレがあるんだからな!」


 インドラはステラを叩いた方の手でグッと拳を握ってみせる。

 何か打開策があるのか知らないけれど、背中が軽く痛んだのに腹が立ち、ステラはジトリと彼を睨む。


「アレって何なんですかよぉ」

「金剛杵だ! アレを封じていた場所に今から連れていくよ。アンラ・マンユ――いや、ステラ。あんたはそこで金剛杵を元の姿に戻せ!」

「元の姿?」

「ああ・ブラウンダイアモンドから取り出すんだ。そしてさらなる活性化を。あいつは自分から漏れたエーテルを取り戻しにかかるだろう!」

「そっか……。エーテルだまりを金剛杵に吸収させたら、今後【アナザーユニバース】の発動がなくなるかもしれないってことですか」

「俺はそう思ってる! 少なくとも、術を乱発するような事はなくなるんじゃないか!?」


 金剛杵の本来の持ち主であるインドラが言うのだから、信じないわけにはいかない。術とエーテルを繋ぐルートが不明だとしても、供給源を断ち切れば良いというのも納得しやすく、すぐに行動したくなるくらいだ。


「【アナザーユニバース】が使えなくしたら、こっちに勝機がありそうなんです! あっちが準備を終わるまで、待っててやるなんてする必要ないですし、行っちゃいましょう!」


 ステラが宣言すれば、その場にいた2人と1匹はそれぞれのやり方で同意した。

 そこでもう一人の存在を思い出す。

 エルシィの付き人はドアの傍に立ち、神妙な顔をしていた。


「今の話、ザックリと聞かせてもらっていました。際どい話だったから、私に障壁を張らせたのですね」

「そうなんです」

「ユミル・ウスタール……。昔と今の顔が違っているのではないかと、とある筋から聞いていて、少し怪しんでいました。まさか間者だったとは」

「私達、やらなきゃいけない事が出来たです。だから、貴方にエルシィさんを、守ってほしいです。無事にガーラヘルに帰ってほしい」

「勿論、命をかけてでもお守りするつもりです! あの方は私に任せて、ステラさんはやるべきことをやって下さいませ!」

「うん、頑張るです!!」


 目的が合致したときの仲間意識とは凄いものである。

 ステラは彼と硬く握手を交わした。


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