厄介な過去

 熱い焼肉に舌をやられたのか、インドラは恨みがましい目でステラを見る。


「アヂィ!! こっちの情報は秘密とは言ってなかった!」

「口止めし損ねたですー」

「まったく! あんたって昔っから力で黙らせようとするよなぁ」

「うぐぐ……!」


 記憶の無い部分まで責められては分が悪い。

 なんと言い返したものかと考えている間に、ゴンチャロフ皇帝に割り込まれてしまった。


「雷神インドラよ。ひとつ聞いておきたいことがあるのだが」

「俺が知っている範囲の事だったら、なんでも答えてやるよ!」

「有難い言葉だ。では遠慮なく質問させていただこう」

「ああ」

「貴方は転生してから……というか、ここ一年程の間にレイフィールドには行っただろうか?」

「行った。病院から退院してから、直ぐに向かって……、先月の中頃まで滞在したんだ」

「神の目から見て、あの都市をどう思われた? 貴方の伝説と被るところはあったか?」

「伝説……? 悪い! 興味ないから俺について書かれた伝説を覚えてない。『レイフィールドをどう思うか』……という質問も良く分からない!」

「質問が悪かったか。しかしどう聞いたものか……。調査団は皆消え失せるし、都市に住む者の話によると、『雨が降らない以外は何の異常もない』とのことだ。貴方があの都市で何を見たか、感じたか、知りたかったのだ」

「そーいう事か! ちょっと待ってくれ、あんたに関係ありそうなのは……と」


 二人の話にステラは違和感を覚える。

 そのモヤモヤを言葉にするのは難しかったが、取りあえず口が動くまま話してみる。


「ゴンチャロフ皇帝さんの話は何か変です」

「ぬ? なにゆえだ」

「元から街に住んでいる人には危害が加えられず、調査団は狙われたわけですが、外部から来た人間という意味ではインドラさんも同じですよね。しかもインドラさんは今は弱くなってて……、無事なのはなんでだろ??」

「……うむ。思うに、”調査団が何か危険な存在と遭遇したため、殺された”か、さもなければ、”調査団がピンポイントで狙われた”か、のどちらかだろう。彼等も手練れだったゆえ、1人も逃げられなかったのには理由がありそうなものだが」

「レベル80~100くらいの人達を派遣したって言ってたですよね。準備も無く全員をやっつけるなんて、想像が難しいです」


「――いや、やっつけられたんじゃなくて、あれは転送されたんだ」


 インドラの言葉を直ぐに理解出来た者は少ないだろう。

 多くの人間は目を瞬かせ、考える素振りをしている。


 当の雷神はというと、ステラの目をジッと覗き込む。

 まるでステラ自身にこの件が関係あるとでも言いたいかのようだ。


「あんた、【アナザーユニバース】という術を知っているか?」

「私に聞いてるですか?」

「そうか、記憶が無いんだったな。だが、あんたのお供達は心当たりがありそうだ」


 インドラが言う通り、アジ・ダハーカもエマもひどく驚いた顔をしている。

 小さなドラゴンの方は、その後すぐに不快感をにじませ、慎重に探りを入れ始めた。


「雷神よ。その術は儂の主、アンラ・マンユが転生前に封じたはず。まさかとは思うが、この帝国の地で使われたとでも申すか?」

「申す! というか、俺はこの目で見たんだよ。レイフィールド上空に【アナザーユニバース】が発動するのを。雲も鳥も吸い込まれていたんだ。恐らくだが、あんた達が言う調査団とやらも、この世界ではないどこかに送られたんだ」


 彼等の話にイマイチついていけないが、アンラ・マンユが自分の前世の名だというのは分かる。

 生まれ変わる前の自分は【アナザーユニバーズ】という術を創り、何らかの事情で封印したらしい。だが、何故今レイフィールドの地で使われたんだろう。

 勿論自分がやったのではないので、他の人間が行使したわけだが、何の意図があったのか?


「神が創造した術……、エーテルの量がたくさん必要。調達はどこから……?」


 落ち着かない様子のエマは、震えるような声で疑問を口にする。

 その問いにはインドラが答えた。


「以前俺はレイフィールドに金剛杵を埋めていたんだけど、その辺りには武器から漏れたエーテルがあつまり、それなりに大きなエーテルだまりが出来ていた。術者はそれを何らかの方法で増幅し、術に使用したんじゃないのか?」


 厳しい表情でインドラの話を聞いていたゴンチャロフ皇帝が、近くの小屋の外壁を強く叩く。


「そうか……。やはりこれは我が国に対する明確な敵対行為なのだな。降雨量を減らして我国の国力を低下させ、帝都内での工作活動でデマを流し、強者をおびき寄せどこか別の場所に転送する……。姑息な真似を!!」


 憎しみに満ちた言葉を聞きながら、ステラ自身も焦燥感に駆られた。

 以前自分が編み出した術が悪用されてしまっているのだ。

 これを放置しておくわけにはいかない。


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