法に頼っても解決できない事もある
「へぇ? つまり、君のお婆さんは僕の妹に嫌がらせをするだけでなく、おかしなアイテムを使って呪おうをしたわけだ?」
地下に響くのはヒンヤリとした義兄の声だ。
それに対峙するブリジッドは、ムキになったように荒々しい。
「違うよ! 何度言ったら分かるの! アレムカ婆ちゃんは自分の呪いをお客ちゃんにうつして、そっちでどうにかしてもらいたかっただけ!」
「そっちの事情なんてどうでもいいよ。常識の無い女だね」
「私達じゃどうしようもなかったんだから、しょうがないじゃん!」
「どこまで身勝手なんだか……」
(うぅ……。ブリジッドさんが来た所為で、夕飯後にやろうと思ってたことが出来なさそう)
ステラはガックリと項垂れる。
夕食時にブリジッドが大騒ぎしてくれたお陰で、ここ最近のトラブルの全がジェレミーの知るところとなった。
であれば普通、ブリジッドだけが件の地下牢に閉じ込めれそうなものなのに、どういうわけかステラまで入れられている。
「ジェレミーさん。どうして私まで閉じ込めるですか? 私は被害者なのに、何か変ですっ」
「この女が来なかったら、ダイアモンドの事を僕に話す気なかったでしょ? ちょっと寂しさ感じちゃったんだよね」
「そんなしょーもない理由で閉じ込めたですか!? 横暴なんです!」
恨みがましい目でジェレミーを見上げてみるも、楽し気にされるだけだ。
「さて、ブリジッドさん。君が警察に行く? それともお婆さんを差し出す?」
「ちょっと待ってよ……。アレムカ婆ちゃんの呪いはまだ解除されてない! ってことは、お客ちゃんは呪われてないんじゃないの? それにポーションへの細工も未遂だったと聞くし……、お客ちゃんには何も悪いことしてないよ! たぶん」
「残念ながら、この国は悪事を計画しただけで罪に問えるんだよね」
「嘘……。厳しくない?」
「それに、これからステラの身に何かが起こるかもしれないし、君達がやらかした事を無かったことには出来ないな」
「そんな……」
ジェレミーが言うように、これからステラの身に呪いが降りかかる可能性もあるのだ。作るアイテム全てに【感電】の効果が付与されるだなんて、考えただけでもゾッとする。
折角アイテム販売が順調なのに、そんな形で水を差されたくはない。
ステラの弱った姿を見たからなのかジェレミーは同情気味の表情になった。
「この女の話によると、件のブラウンダイアモンドはレイフィールドで採れたということだったね。君、もしかして呪いについて調べる為に、帝国に行こうとしていたの?」
「うん」
「そっか。そうならそうと、ちゃんと言ってくれたらいいのに。てっきり、第一王女と遊びたいだけかと思ったから止めたんだよ」
「別に遊ぶだけでも――」
「――ああ、でも、ガーラヘル王国内でも出来る事が色々あるよね?」
遮られるような形で言われ、ステラは眉を寄せる。
自分に気に入らないことでも、全部聞いてほしいものである。
「この国で出来ることって何ですか!?」
「法律関係の処理だね。アレムカ氏の件は僕に任せてよ」
「む? それでもいいですけども……」
ジェレミーの態度にはちょっと腹が立つけれども、法律なんて聞くだけでめんどくさいので、ここは任せてしまうことにした。
◇
それから3日間程の間に、義兄は次々と問題事に対応してくれた。
まず一つ目はブラウンダイアモンドについてのアレムカとの契約だ。
幸いにもこの国には『未成年やペットが保護者の同意無しに結んだ契約は無効と出来る』という法律があるらしい。未成年とペットを同列に扱っている点はモヤモヤするけれど、今回はこの法律のお陰で、おかしな契約を無かったことに出来た。
次にアレムカ自身についてだが、彼女はステラに対して嫌がらせをしようとする以前に、他のアイテム士にも同様の行為を行っていた。
したがって、業務妨害罪に問えるかもしれないとのことだった。
【感電】の効果が付与されたポーションを無差別にばら撒いた件が、テロ行為になるかどうかについてはこれから調べが始まる。
ステラ1人だったなら、こんなに早く処理できなかっただろうし、余計な気遣いをしてしまう所為で手ぬるくなったかもしれない。
そう思えばジェレミーに知られたのは良かったと思える。
しかし……、それだけやっても、全てが解決しなかったのである。
ステラは恐る恐るベッドの下を覗き込み、深いため息をつく。
「ストーキングが続く……」
暗がりの中でチラチラと輝くのは、巨大なブラウンダイアモンドの塊だ。以前は見えなかったはずのプラズマが鉱石の内部に走るようになり、なんだか危険な物体に変わってきたように見える。
アレムカとの契約を無効にし、一度はブリジッドに預けたというのに、どうしてステラの元に戻ってくるのだろうか。
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