危険なアビリティ
決闘後、
ステラ達は来た時と同じようにコリンの父が運転する魔導車で王都の中心部に戻る。
先ほど決闘に勝利したわけだが、商業学校側のリーダー、カーラウニがまともに話せる状態ではないため、彼の回復を待ってから再び会うことにしたのだ。
当初の約束の通り、ステラのアイテム作りに協力してくれたらいいのだが……。
(あとは妖精の大麦で作ったビールがあればいいし、是非カーラウニさんに作ってもらいたいんです。うまく話がまとまってほしいなぁ)
ステラは居眠りをするアジ・ダハーカを抱えながらつらつらと今後の事を考える。妖精の国から持ち帰ったレシピでアイテムを作ったなら、ヴァンパイア全体が今よりも暮らしやすくなるはずなのだ。
「ねぇ」
隣に座るフランチェスカに唐突に声をかけられ、ステラはビクリと体を揺らす。
彼女は決闘の後からずっとステラにもの言いたげな視線を投げ続けていたので、何を言われるのかと内心ヒヤヒヤしていた。
「な、なんですか?」
「遺跡の地下で聞いたお前の秘密……、黙っておくべきかしら?」
「えっと……。さっきのことは……。私自身良く分かってないです。でも、平和に暮らし続けるには皆に知られない方がいいかもですね」
「それはそう。ヒトは自分と違う存在を受け入れないもの」
「……うん」
正直なところ、ことの重大さを良く理解していなかったりする。
アジ・ダハーカやエマによればステラの前世は邪神らしい。
ガーラヘル王国の大半の国民が崇めるのはその対極と言える神なので、邪神というのはあまり好まれない存在なのだ。支持しているのは、フランチェスカ等ヴァンパイアくらいに思える。
やはりここは隠しておくのが無難なのかもしれない。
「エマさんの目論見は失敗に終わったし、私はこれからも平凡な人間のままです」
「そんなこともないぞ」
「む。アジさん起きてたですか」
「うむ」
寝ているとばかり思っていたアジ・ダハーカがいつの間にか目を開けていた。
「決闘後、フィールドのアチラコチラを見回っていたのだが、遺跡内の一部の術は発動してしまっていた。お主が前世でかけた術の内、3割程度は解除されたと考えていいだろうな。巫女の執念は恐ろしいものよ」
「なぁ!?」
てっきり遺跡に仕込まれた術の発動を防いだとばかり思っていただけに、相棒の発言は衝撃的だ。慌てふためきながら自分自身に【ディープ・アナライズ】を使用する。
【ジョブ】アイテム士 L v57
【サポートジョブ】魔法使い L v41
【パラメータ】 STR:21 DEX:572 VIT:37(+100) AGI:69 INT:391(+100) MND:410(+100) HP:1,210 MP:38,660
【アビリティ】効能倍加、効能反転、効果移動、エーテル抽出、エーテル添加、変質/攻撃魔法Ⅲ、治癒魔法Ⅳ、防御魔法Ⅳ、生産魔法Ⅵ、分析魔法Ⅵ/怠惰、悪夢
【ウィークポイント】冷属性、時間逆行
「え、MPがかなり増えてるんです……」
「元が膨大だから、このくらい増えるのは普通だな」
「普通って、なんか変ですよ!」
「このくらいで驚くのは早い。アビリティの最後二つを良く確認するのだ」
「怠惰と悪夢……? こ、これは??」
初めて目にするアビリティに、面食らう。
こんなスキルは学校の授業でも習わなかった。
効果をアジ・ダハーカに聞こうと思ったが、意外なところから説明された。
「ヴァンパイアの言い伝えによると、【怠惰】と【悪夢】というのは邪神様固有のアビリティみたい。【怠惰】の方は対象のスピードを二分の一まで落とすだけじゃなて、戦闘意欲をも失わせる。そして【悪夢】は対象の正気を失わせると聞いたことがあるわ」
「どっちもやべー感じのスキルなんです……」
「もっと強力なワザも持っているはずだけれど、わたくし達が巫女を止めたから解除されなかったのね」
「残念そうに言わないでほしいんです」
「ぷぷ……」
ステラは改めて大きなため息をついた。
今までも普通じゃないMP量などを隠す為にアジ・ダハーカに細工してもらっていたのだが、これからは念入りに隠す必要がありそうだ。
邪神しか持ちえないアビリティを自分が持っているのを見使ったら、どんな迫害を受けるか分かったもんじゃない。
念のために車内でこの会話を聞いていた者が居ないか見回してみるが、誰も彼も熟睡していた。たぶん決闘で疲れ切ったんだろう。
「アジさん。家に帰ったらあの術をお願いなんです。あと、もう少し前世とかの話を聞かせてください」
「うむ。しかしな、ステラよ。その前にお主には大いなる壁が待ち受けているようだぞ」
「壁?」
アジ・ダハーカと話をしている間に、魔法学校前に魔導車が停車していた。
門扉の方を向くと誰かが寄りかかり、コチラを見ているようだ。その人物の足元から顔まで視線を上げていき、悲鳴を漏らす。
家に居るはずの義兄が満面の笑みでステラを見つめているのだ。
「あばばば……。ジェレミーさん、国営放送を観てたですか……」
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