始祖の死体の利用法
向かう先を決めた直後、靴底がやたらと熱く感じられた。
不思議に思いつつその場から離れると、フランチェスカが息を飲んだ。
彼女が見ているのは、今までステラが立っていた部分だ。振り返って確認すると、何故か空気が歪んで見える。
「地面の温度が急上昇してます?」
「温度が上がったと? むぅ……。またもやこの遺跡の機構に働きかけておる者が居るな……」
「アジさん。知ってることがあったら教えるです」
「エーテルを特定の場所に集めるために、磁界を調節する仕組みがあるのだ。一定時間、地面の下に埋められた磁石を高温にするというものでな……」
「つまり、誰かがここにエーテルを集めようとしてるですか?」
「うむ。お主が潰したエーテルだまりを、恐らく生贄や、他から持って来たエーテルを使って復活させようと目論んでいるのだろう」
「生贄……?」
随分と不穏な話だ。
怪訝に思いつつも魔法で水を出し、地面に撒くと、湯気が立ち昇る地面は北の方へと続いている。
やっぱり北に何かがあると思った方が良さそうに思える。
妙な胸騒ぎからモニターを見てみたが、コリンとワトは健在だ。
彼等が生贄じゃなかったのに安心を覚えるが、北に行って確かめる必要があるような気がしてならない。
「北に急ごうです!」
「そうね」
競歩並みのスピードで通路を突っ切り、荘厳な柱が建ち並ぶ北エリアまで来ると、一際大きな空間にたどり着いた。
中央には祭壇のようになっており、古びた棺桶と杯が置かれている。
「どうして棺桶があるですか?」
「ちょっと待って! 近くで見たいわ!」
隣に居たフランチェスカが急に大声を上げ、祭壇にヒラリと飛び乗る。
「この家紋。ウチのよ!」
「フランチェスカさんの家族の遺体が中に……?」
「たぶん……始祖様のだわ」
「ヴァンパイアの始祖が生贄だと!? フランチェスカよ、その棺桶をそこからどかすのだ!――うぐぅ!?」
「アジさん!?」
小さなドラゴンがフラリと落下すると同時に、祭壇の上のフランチェスカも倒れた。近くに転がるアジ・ダハーカに駆け寄ったステラは、背後から男の声を聞く。
「勝手なことせーへんでくれへん?」
「カーラウニさん!」
ローブ姿の小柄な人間を担いだ青年――カーラウニが、逆側の通路から現れた。
どういうわけか、以前見たときよりも筋肉量が大きく増加している。
それを見て、察した。
彼はヴァンパイアの始祖の力を解放したのだ。
そう、ちょうど以前フランチェスカの兄がしてみせたように。
「エマさんを助けるために、自分で死にかけたですか?」
「そうやで? えらい厳重に黒巫女を閉じ込めてたやろ? 軟弱なワイへの嫌がらせかいな」
「普通そこまでしますか?」
「ぜ~んぶ、アンタの為やん。てか、いつまで人間のフリしてんねん」
「人間の……フリ?」
「アンタが――いや、貴女がワイ等の神様なんやろ? 助けてくれや、以前のように。大いなる力を分けてくれよ!!!」
「何言ってんのか、全然分かんない……」
「あぁ~、やっぱ神様ちゅーもんはツレナイもんなんやな~。哀れな民へ試練を課したいんやろか? 苦しむ姿をご覧になりたいんやね!」
「意味わかんないことばっか言うなです! カーラウニさんは頭が変になったので、退場してもらわないとですよ!」
混乱気味に言い返すと、ステラの語気の強さからなのか、アジ・ダハーカが目を覚ました。
「――転生は……お主自身が決めたことだ……」
「……は?」
身近な存在の相棒が酷く遠い存在に思えてきた。
改めて疑問に思う。彼はいつも随分長いことステラと共にあったかのような言い方をする。一体いつから自分と一緒にいたのだろうか?
「生まれる前から、私とアジさんは一緒だった?」
「……そうだ」
思考が停止したステラに、誰かが近づいて来た。そして、小さな両手を伸ばす。
「この世界を……全て……愛しいアナタの手中に……」
エマの顔を見返せば、これ以上ないほどに幸せな表情でステラの目を見つめている。彼女がステラを通して別の誰かを見ているのは明らかだ。
それなのに、彼女の眼差しから目を反らす事が出来なくなる……。
――――ズガァァン!!!
祭壇の上から唐突に爆音が聞こえてきた。
呆然とそちらを向いてみれば、いつのまにかフランチェスカが復活し、ヴァンパイアの始祖の棺桶を蹴り転がしていた。
「えええ!? その棺桶は大事な物だったはずじゃあ!?」
「もう、どうでもいいわよ! シッカリしなさいよ、リーダー! おかしな話に惑わされるな!」
「あ……うう……。でも……」
「今日ここには決闘で来てるの! お前が神かどうかなんか知らない! だけど……、情けない姿を晒すんじゃない!」
「……む」
今のステラははたから見ると結構ダメダメな感じなんだろうか。
再びエマの目を見ると、そこに映ったステラは非常に弱々しく、一つのチームをまとめていい存在ではなかった。
「はぅ!? ダメダメ! こんなんじゃ駄目なんです!」
「……神様?」
「エマさんは敵! カーラウニさんは敵なんです!」
「そん……な……」
半泣き状態のエマに心が痛むが、これは司法省に管理される厳正な決闘の場だ。
泣き落としは無視しなければならない。
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