炎を制する(SIDE コリン→ステラ)

 商業学校側に簡単な魔法を使うものがいるようで、風の魔法で空気を操り、炎は異様な勢いで威力を増す。

 人数差と使用されるアイテムの量で、これだけ苦戦を強いられるのかと内心舌打ちしまくっている。


 大して時間が経過していないというのに、コリンやワト達の周囲は火の海と化し、全員分の足場を維持するだけのために水の魔法を使用しなければならない。


 MP量が激減していくし、肉体的にもきつい。

 空気中から酸素が無くなっていき、高い気温の中を更に火で炙られる。状況のまずさにどんどん追い込まれていくような感覚になる。


(早くなんとかしないと……。そうだ、【ダメージペースト】を利用したら……。いや、駄目だ。あれは……)


 必然的に捨て身の行動が必要になるし、最も近くに居るたった一人にしかダメージを与えられない。

 女達の中にはそれなりに動きが良い者が居るため、下手をすると一気に劣勢に追い込まれるだろう。


 彼女達の扱うガソリンを凍らせようかとも考えたものの、軽油と異なり、マイナス50度以下まで気温を下げなければならないことから、MP効率が悪すぎる。

 酸欠で回りの悪くなった頭で思考を巡らしていると、不意にモーター音のようなものが耳に届いた。


 上空を見上げれば、いつの間にやら白い鳥が一羽旋回していた。


(鳥……。いや、あれはステラちゃんが持って来たドローンだ)


 コリンは自分のポケットを上から触れる。

 ここで女達を食い止めるのは彼女にとってメリットになるはずだ。

 負けられない戦いなのだともう一度自分に言い聞かせ、ブンブンと頭をふる。

 

(――あの人達の攻撃を逆手にとろう)


 商業学校の面々の方を観察すれば、彼女達は燃える範囲が広がる程に後退していく。恐らくこの火の海にコリン達を残し、時間経過による戦闘不能を狙うつもりなんだろう。

 コリンの胸のうちに、このまま逃してたまるかという想いが沸き上がった。


「害虫を逃したら……、負ける要素になるかもしれない。ここで全員消してやる……」

「ああ、そうだな」

「ワト。あとどのくらい耐えれそうかな?」

「長くはもちそうにない。酸素とMPの残量的に、1分がせいぜいだ」

「そっか」


 ポケットから取り出した薬剤を勢いよく飲み干す。

 このアイテムは身体をむしばむ効果があるようだが、幸いコリンはステラのポーションを毎日のように飲んでいるため、何ともなかった。


 握りしめた拳の中にエーテルを集約させる。

 残りのMP的に一度の失敗も許されない。


「【百雷】!!」


 アイテムの効果で増幅された雷の魔法が、女達と彼等の荷車を襲う。

 商業学校側の魔法使いが瞬時にバリアを張り、彼女達自身がダメージを食らうことはなかったようだが、荷車の方は大破していた。

 当然そこに積まれていた大量の火炎瓶も全て粉砕され、内臓されていた大量のガソリンが地面にまき散らされていた。


「あの位置からこれ程の威力の魔法を使うとか!」

「いや、アイツが飲んだ薬がやばい……と思う」

「逃げよう!」


 慌てふためく女達をコリンは見据え、追い打ちをかける。


「火はこうやって扱うんだよ! 【光焔】!!」


 右の手から放たれた巨大な炎がガソリンに引火し、大爆発を起こす。

 魔法使いの女が再びバリアを張ったようだが、殆ど意味をなさなかった。

 あれだけ居た女達は1人残らず地面に倒れ伏している。


「やったか……」

「意外と苦戦したね」

「2対6だったからな。こっちは3人も庇い続けてたし」

「うん」


 何とか切り抜けられたことに安堵するが、危機的な状況からは抜けられていない。周囲が燃えているため、消火活動が必要なのだ。


「さぁ、もう一頑張りしようか!」


 コリンは空を見上げ、にかっと笑った。


◆◆◆


 ステラ達はエーテルだまりを潰しつつ、北を目指している。

 商業学校の少女達やエマの行く手を阻むために通路を閉鎖したり、深い溝を作ったりしているため、そこまで速く移動出来ているわけではない。


「お前の学校の男達、商業学校の女共に勝てたみたいよ」

「本当ですか!?」


 4カ所目のエーテルだまりを取りこんだ後、フランチェスカが口にしたのは嬉しい報告だった。

 移動しながらドローンを使って地上の様子を観察していたのだが、自分の役割を果たす為に、モニターをフランチェスカに預けていたのだ。

 勝敗の結果が気になってたまらなかったので、彼等の勝利に胸が軽くなる感覚になった。


「でも、コリンさん達はこの5カ月程でかなり強くなりましたし、納得の結果ではあります」

「うむ。アヤツ等の内何人かは魔法省からスカウトが行くかもしれんな」

「卒業しないで就職しちゃうこともあるですかね?」

「あり得るだろう。というかお主の義兄がそうではないか。あの男のようなキャリアも最近では増えてきているらしい」

「ふむぅ」


 TV局のカメラが回る地上戦は、活躍をバッチリ撮ってもらえるので、メリットが大きいんだろう。


 ステラとアジ・ダハーカの話に少しだけ微笑んだフランチェスカは、直ぐに表情を引き締め、地図を広げた。


「残るはカーラウニただ1人よ。このまま地下に居続けるか、地上に出るかを決めた方がいい」

「うん! 地上はドローンの観察でだいたい見れましたけど、カーラウニさんは居ませんでした。偶然なのかもしれませんが、地下の方が見て回れていない場所が広いですよね」


 北にはエーテルだまりのポイントもあるので、行かない理由はない。

 そこには他に何があるのか? カーラウニが居ないか?

 確かめてみてもいいだろう。


「北側に行く予定は変わりません!」

「分かったわ」「了解だぞ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る