圧力をかける王女様

 友人達が朝からマクスウェル家に集まり、ダイニングルームでは自己紹介やら、朝食に対する感想やらで賑やかになった。

 胃もたれ気味のステラだったが、彼女達との絡みからついつい食が進み、胃薬を調合した。


 朝食後、一同は居間に移動し、過去の決闘動画の視聴にとりかかった。

 レイチェルは目をキラキラさせながら猛者達の大技に目を奪われ、エルシィやフランチェスカは何やら真剣な面持ちでメモを取っている。

 ステラは真面目な二人をジッと観察する。


(フランチェスカさんは従兄弟さんとの戦いだから、気合入っているなぁ。エルシィさんが真剣なのはちょっと謎かも。何でメモまで取ってるんだろ?)


 何となく嫌な予感がして、ステラは本人に聞いてみることにした。

 

「エルシィさんも決闘の予定があるですか? すっごく真剣な顔なんです」

「え? 私も来週ステラさん達と参戦しますし、情報を仕入れませんと」

「むむ……。メンバーはもう足りているのですが……」


 決闘については、今日エルシィに話したばかりなのに、すっかり参加する気になっているらしい。好戦的な性格なのは百も承知だけれど、無駄に危険な目には合わせたくない。


「エルシィさんの貴重なお休みを、私なんかの為に使ったら駄目です!」

「ステラさんの経験を私も共有したいのですわ!」

「ふぁ……」

「フランチェスカさん、レイチェルさん! 私と交代してくださらない!?」

「何故わたくしが?」「お断りー!!」

「くぅ……っ!」


 即答するフランチェスカとレイチェルに対し、エルシィは悔し気にハンカチを噛んだ。

 可哀そうだけど、諦めてもらうしかない。

 そう考えていたのだが、間の悪いことに、エルシィの餌食としてちょうど良い人物がノコノコと居間に入って来てしまった。


「お邪魔しまーす!! ステラちゃんのお家ってさー、古さと新しさがちょうど良く混ざってて、居心地いいなー!」

「いらっしゃいませ~」


 コリンと良くつるんでいる男子生徒が、仲間より一足早くマクスウェル家を訪れたのだ。彼を見たエルシィの目は不穏な光をたたえる。

 綺麗な所作で立ち上がると、ツカツカと男子生徒の前まで歩いて行き、威圧的に見下ろした。


「ねぇ、貴方。来週の決闘。私と交替してくださらない?」

「うぁ? 何で王女殿下までこの家に居るの? 決闘の話をした時に名前が出なかったのにさ」

「私とステラさんの仲なのだから、当然ですのよ」

「あー……、悪いけど交替は無しで。俺、ステラちゃんと一緒に戦うの好きなんだ。一戦ごとにモリっと強くなるしな」

「ふぅん。貴方のお父様は確か、王宮の庭師をしてらっしゃったわね? 職を失ってもいいのかしら?」

「な、なにぃ!? 汚いぞ!」


 男子生徒はエルシィに食ってかかろうとしたが、エルシィの付き人がそれを阻む。


「申し訳ありません。身分差の前には貴方は無力すぎるので、ここは諦めましょう……っ」

「はぁー? ありえね~~!」


 男子生徒は付き人に押し出されるようにしてドアの外に連行され、居間に残るエルシィは高笑いしたのだった。



 多少のごたごたが有ったものの、コリンなど残りの面々も集まり、情報共有を始めた。


「今テレビ画面に映してるのはテラファー遺跡群の決闘場です。これ、クリスさんに貸してもらった戦闘動画の中でも、比較的フィールド全体が確認しやすいです。アジさんが詳細を説明してくれるです」


 ステラの言葉を受けたアジ・ダハーカは一つ頷き、テラファー遺跡群について話し始めた。


「テラファー遺跡群の地下には絶えずエーテルが噴き出すスポットがある。そのエーテルは竪穴を通じて地下の遺跡内や、地上を浮遊しておってな、特殊な磁場の上に一定時間吸い寄せられていた」

「それが”エーテルだまり”になるですか。ってことは、”エーテルだまり”が出来る場所はある程度割り出せるってことです?」

「さよう。後で場所を教えるぞ」

「助かるです!」

「だが、範囲は地上だけではなく、地下の遺跡内にまで及ぶ。広すぎるがゆえ、この人員で全てを抑えるのは難しいはずだ」

「むー」


 動画では、一定間隔で大魔法が使われている。

 それはすなわち、”エーテルだまり”を利用したことを意味する。

 ”エーテルだまり”を発見したなら、相手に使われる前に消さなければならないわけなのだが、たいていの人間はこの量のエーテル全てを体内に蓄積できない。


 魔法を一切使用しない状態で【アナライズ】をかけた際に分析されるMP値が各人の許容範囲で、大きなエーテルを取り込むには、まず自身のMPを減らす必要がある。しかし、減らしたとしても”エーテルだまり”のエネルギー全てを取りこむのは難しい。


 だから、大魔法を使用して、その場のエーテルを全て消費するのが無難だ。

 

 と、考えるのが普通だろう。

 だが、ステラの場合、普通の人間よりもエーテル許容量が大きい。

 ”エーテルだまり”の出現場所に目途を付け、そこへの移動中にMPを大きく減らす。そして”エーテルだまり”を発見したら完全に体内に取り込めれば、大魔法を使用することで相手に居場所を伝えずに済む。


 ステラは一応リーダーなので戦闘不能に陥れないわけだが、フィールドギミックを潰すのには一番適している。


 そのことをしどろもどろに説明すれば、居間に居る面々はそれぞれ考え込んだのだった。


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