笛の音(SIDE ステラ→エルシィ)

 ゴーレムが放つビームを交わしながらレイチェルの今までの行動を聞く。

 深夜目を覚ました彼女は、室内からステラとアジ・ダハーカが消えてしまった事に気が付いた。暫く待っても戻らないため、『これは変だ』と、探してくれたらしい。

 この馬は野原で見つけ、レイチェルに乗ってほしそうにまとわりついてきたのだとか。

 こっそり分析魔法で調べてみると、水棲馬だったので、本当は乗ってはいけない存在だと思われる。しかし、大いなる脅威の前ではそちらへの恐怖は霞んでしまう……。


「このビームはおそらくMPを消費しているです。このまま無駄撃ちさせ続けたらな、ゴーレムさんのMPはスッカラカンになるですよ」

「オーケー! 避けきってみせるよ!」


 グンッと馬の速度が上がり、ステラは悲鳴を上げてタテガミを握りしめた。


◇◇◇


 エルシィは目の前で横笛を吹く男の演奏を止めるべく、隙だらけに見える胴体を狙う。モータルウォーターの採水場の通路を歩きながら想定していたのだが、この笛の音が、スルーアやモンスターを狂わせてしまっていたように思えてならない。


(あのゴーレムに私の攻撃は効かなかった……。だったら、大元の原因と思われるあの笛を破壊するのがステラさんを助ける近道のハズよ!!)


 そうは思えど、エルシィの攻撃はことごとく避けられる。

 簡単に破壊出来るとの想定が覆され、焦りが募る。


 今彼と対峙するのは、エルシィのみではない。ステラの相棒も絶え間なく彼に攻撃してくれている。だというのに、楽器を演奏する人間にただの一撃もダメージを負わせられないとは……。


「王女よ。ここは儂に任せて、ステラに加勢してやってくれんか」

「いえ! あの笛を何とかしなければ、この先が心配ですの! 想像では、笛の音でいくらでも仲間を呼べるはず!」

「しかしな……」

「ステラさんは十二分に強いですわ! きっとお一人でゴーレムを倒せてしまうと思いますの!」

「確かにステラは才能に溢れておる。しかし、お主はアヤツの戦闘力を買いかぶりすぎだ」

「……」


 このドラゴンとステラの関係性が良く分からない。

 ペットという立場でありながら、事あるごとに保護者面をするのは、何故なのだろう。

 思わず眉間にシワを寄せてしまうが、今はソレを深く考えている時でもない。

 優先すべきは王配オベロンへの対処だ。


(おそらく、彼の弱点はあの胸に埋まった石よね……。だったら……)


 エルシィは思案を巡らせ、手の平の上に魔法でプラズマのボールを出現させた。


「ねぇ、貴方。人間の魔法を増幅する能力がおありでしたわね?」

「ん? そうだな」

「ではこれの威力を引き上げて、オベロンさんの胸に撃ち込んで下さいませ!!」

「いいだろう」


 小さなドラゴンの方へプラズマのボールを放り投げれば、彼の頭上でうまいこと止まり、バリバリと音を立てながら巨大化されていく。

 十分すぎる程の大きさになると、エルシィの願望通り、そのボールはオベロンの胸へ高速で飛ぶ。


 当然ながらエルシィ達の会話はオベロンにも届いており、口の端を上げた彼は笛に添えられていた右手をドラゴンへと向けた。

 プラズマは彼の手に吸収されるかのようにみるみる縮む。


(いい感じだわ!)


 エルシィはがら空きになった男の懐に【瞬間接近】で飛び込み、その胸にレイピアの切っ先を突き立てようとした。

 すると、弱点であるのを裏付けるように、オベロンは笛の先でレイピアを受け止める。

 正面から向かい合うことになった男の目を見上げ、エルシィはニヤリと笑った。


「ふふん! 思考の浅い男性は嫌いですのよ!」


 そう言った後、瞬時にレイピアを横に薙ぎ払い、長い脚を活かして笛を蹴り上げた。クルリ、クルリと回転しながら落下する笛をキャッチし、後方へ大きく飛びのく。


「意外に面倒くさい相手だな」


 苛立たし気に前髪をかき上げるオベロンに対し、高笑いしてやりたいのをこらえるのが大変だ。


「王女よ、よくやった。お主は地上へ行くのだ」

「ええ! ここはお任せしましたわ!」


 アビリティを利用してゴーレムが開けた大穴から抜け出せば、巨大なゴーレムと、馬に乗ったステラとレイチェルが見えた。無事な姿にホッとする。


(レイチェルさんが来てくれたのね。良かった……)


 ドラゴンに対してはステラを信用すると言ったが、心配ではあったのだ。



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