素早い野人とトロい売店係
ステラの挑発に
間近で見る彼は、乱れまくった黒髪や日に焼けた肌など、野性味溢れる容姿をしている。何よりも印象的なのはその目だ。異様な輝きを放っている。
彼は学校のルールガン無視でステラの命を奪おうとしているかもしれない。
彼が放った矢が飛んでくる。
とんでもない速度のはずのソレは、ステラにはスローモーションがかって見えた。
(こ、こんなに速いの!?)
ポカンと口を開けるステラの肩に重みが加わり、同時に顔の真横から衝撃派のようなモノが放たれた。衝撃派はステラの肩まで飛んできてくれたアジ・ダハーカのブレスだ。
おかげで矢は軌道が逸れ、ステラの後方の柱に突き刺さった。
「お主等、ボサッとするな!」
「ふわぁぁ……、しゅごい……」
「アジちゃん、そうだよね! ごめんね!」
チャストラは
人外と戦闘を行うかのような気分だ。
その様子にレイチェルは馬鹿にされていると思ったんだろう。いきなりキレた。
怒りの形相でモーニングスターの柄に付いている鉄球を身体の横でブンッと回す。
「こんの……野猿が……っ!
静止する間も無く、その鉄球はチャストラが居る枝に向かって飛んで行った。
同時に鎖が櫓の柱を激しく打ち据え、悲惨な音をたてる。
「あばばば! 倒壊しちゃいます! レイチェルさん、外に出ましょう! 危険なんです!」
「あっ。ごめーん!!」
レイチェルはステラを小脇に抱えて手すりを超え、外に飛び出た。
折れかかっていた櫓の柱がボッキリといったのは、チャストラが屋根の上に着地したからだった。
物の破損など彼にとっては些細なことのようで、続け様に容赦なくボウガンでステラ達を撃ってくる。
ステラを草むらに落としたレイチェルは、盾を構えて、矢を防ぐ。
チャストラがアジ・ダハーカの襲撃を受けつつも割と正確に矢を放ってくるのは、彼のDEXがそれなりに高いからだ。
(ぐぅぅ……。DEXがそこそこ高いから、当たったらクリティカルを貰う可能性があるなぁ)
「とにかく、アイツに攻撃させる暇を与えないように、こっちからガンガン攻めてやんよ! 攻撃こそ最大の防御ってね!」
レイチェルのジョブは聖騎士だったはずだが、彼女なりの理論で戦法を考えているようだ。ステラを大きめな石の影に運び、更に石に盾を立てかけると、再び鉄球でチャストラを狙った。
ステラは盾の上から恐る恐る顔を出して様子を観察する。
アジ・ダハーカとレイチェル。二人の攻撃をもってしても、チャストラは超人的な動きで完璧にかわし切る。木から木へ、そしてアジ・ダハーカらからレイチェルへ、足場にする先をどんどん変える。【身体強化】しているのだとしても、余りにも分が悪い。
(あの人の動きを止めないと……)
少し思案した後に、ポケットから小瓶を取り出し、蓋を開ける。
そして魔法を使用し、手の平の上にバスケットボール大の水球を出現させた。小瓶から加えるのは”ピリピリの水”だ。新たな魔法と組み合わせ、チャストラの動きを阻害したい。
そうしている間にチャストラが上空から降って来て、ハンドアックスをステラ目掛けて無造作にぶん投げた。首を飛ばされずに済んだのは、ちょうど地面に置いていた小瓶を拾ったタイミングだったからだ。身をかがめていなかったなら、今頃この世から旅立っていたかもしれない……。
あまりの恐怖に集中力が微妙に切れ、水球の五分の一程が手の平からボタボタと零れてしまった。
「おめぇ、悪い事企んでるっぺ! 邪悪な奴だっぺ!」
彼の聞きなれない方言にも圧倒される。
「こ、こわ……」
「可愛いステラを適当に殺そうとすんなぁぁ!!」
レイチェルはモーニングスターのトゲトゲな先端部で、チャストラの頭を殴ろうとするも、やはりなんなく避けられてしまった。
彼に翻弄されて消耗したくはない。ステラは心を落ち着かせてから、水球に”ピリピリの水”を混ぜ、新たな魔法【雲水】を使用した。水球から大量の蒸気が立ち上がり、雲を形成する。
次に【春風】をチャストラを中心として起こし、狭い範囲で空気を回転させる。雲を空気の流れに巻き込ませれば、円柱状の
状況を察したアジ・ダハーカはチャストラから離れ、レイチェルは引き続き鉄球を放ち続ける。ステラのアイテムにより徐々に動きが悪くなっていくチャストラは、ついにレイチェルの鉄球を食らい、地面に墜落した。
「このどチビめ! オラをアイテム使って麻痺させたんだべ!?」
「ふふーん。チャストラさん、ここで退場願いますです。【効能倍加】!」
「ウゲゲゲゲ! 痺れるっぺー!」
地面の上をのた打ち回る彼の姿に満足し、ステラは上空に居る運営側のドローンに合図を送った。
チャストラは体内のエーテルを自分の肉体の強化に回しているタイプだ。よって、自然回復力も常人よりも遥かに高いだろう。
さっさと救護班に場外に運んでもらうに限る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます