傭兵VS傭兵
少年が操るレイピアが、二閃、三閃と繰り出される。
雷のエレメントの力を帯びたレイピアは激しい音をたて、エルシィの銀糸を焼き、制服の裾を焦がす。
彼の剣裁きには迷いが無い。遠慮の無い姿勢がエルシィには心地よく、一層バトルにのめり込ませた。
そうして10分程剣を交わらせた後、チャンスが訪れる。
傭兵少年の必殺技らしき五連突きを素早く交わした時、次の動きが読めてしまったのだ。剣先からヒラリと身をかわし、ちょうど目の前にある少年の手首を掴み、バランスを崩させた。
「もらいましたわ!」
「げ……」
殊更に自らの内側に流れるエーテルを意識し、ダンッと少年の鳩尾に左手を叩きつけた。放つのは炎の魔法。
「吹っ飛びなさい! 【
「ぐあ……ぁ……っ!!!」
エルシィの手の平から放たれた魔法は周囲を
砂埃が舞い上がっているため、彼がどうなっているのかはここからは確認出来ない。
呼吸を整えながらそちらに近寄ると、少年は倒れた木の上に折り重なるようにして、気を失っていた。肺が上下しているので、心肺停止状態ではない。
少し緊張が解けた所で、後ろからクリスの声が聞こえてきた。
「漸く片付いたかー」
「もしかして、私に気を遣って、手を出さずにいてくれましたの?」
「先に役割分担決めてたし?」
彼がさっきまで戦っていた場所に目をやると、同じ学校の制服を着た四人の生徒達が伸びていた。
クリスは殺傷力高めの銃器をドローンに仕込んでいたけれど、四人の命は大丈夫なのだろうか?
無言で四人の方を見つめ続けるエルシィの気持ちを、クリスは汲んだようだ。
「あいつ等無駄なあがきはしなかったから、大した怪我にはなってない。俺達がここを離れたら救護班が回収に来て、フィールド外に連れ出すだろ」
「え、ええ……。これで相手陣営は45人になりましたのね」
「まーね。分かったなら、どんどん進もうぜ」
「了解ですわ!」
その後も相手陣営側の2グループと戦闘した。際どい場面がありつつも勝利を収め、ひたすら北側へと押し進む。
戦闘の間、ステラが生み出したと思わしき雲が幾つも南から北へと流れていったので、マロウが操る植物からの被害は皆無になっている。
この分だと、マロウのMPは結構減っているだろう。
そう思ったのだが……。
「園芸係と飼育係の本陣が見えてきた」
クリスの言葉の通り、ここから70mほど離れた場所に葉っぱで覆われた
(私とクリスさんで15人倒した……。あそこに居るのはマロウさん含めて10人程居るのかしら。ということは、ステラさんの方に半数程向かわせたという事?)
ここには居ない小さな少女が心配になってくると、タイミング良く、クリスがモニターを空中に浮かび上がらせた。
画面にはステラが分析したであろう、マロウのステータスが表示される。
【名前】マロウ・ステファノ
【ジョブ】グリーンハンド L v50
【サポートジョブ】ナシ
【パラメータ】 STR:97 DEX:438 VIT:60(+80) AGI:78 INT:132(+80) MND:224(+85) HP:1,961 MP:6,540
【アビリティ】強制成長、変異、自己修復、敵対者攻撃、異種族寄生栽培
「「異種族寄生栽培……」」
エルシィとクリスの声がハモる。
アビリティ名から察するに、人間等の肉体に植物を寄生させる感じだろうか。
だとしたらあまりにもエグい
自分の頭から赤いチューリップが生えてくる様をイメージしたエルシィは、ブルリと頭を振るった。
「一度ドローンに偵察させてみっかな。人間が行くと苗床にされちまいそうだし」
「それが良さそうですわね」
クリスは大型のドローンを分解し、小さめなサイズの二つのドローンに分けた。
その間、エルシィはマロウの様子を観察する。
どうも彼女が手にするガラス玉の中に、小さな人影が見えるような気がしてならないのだ。
コッソリと【春風】を起こし、彼女が居る方向から、こちらへ空気の流れを作った。風が運んできてくれた彼女達の会話に、耳を澄ます。
「……たったこれしきでMP切れをおこすなんて、脆弱な妖精だ。妖精族は人間よりもMPが多いのはなかったのか? 早く回復して植物で王女と赤毛を攻撃しろ」
「酷いよぉ……。もう疲れた。限界なんだよ~~」
エルシィは会話の内容を理解し、目を見開く。
先ほど自分たちを苦しめていた植物を操っていたのは、マロウではなく、777番目のクローバーの方だったのだ。つまり、ステラの雲との攻防で、マロウは一切MPが削られてない。
「今の話……」
クリスの耳にも会話が届いたんだろう。眉根を寄せ、北の
「ええ。マロウさんはまだまだ全力で戦える状態です。無策であそこに飛び込んでは自殺行為と言えますわよ」
「ちっ。厄介だな」
(マロウ・ステファノさん。なんて卑劣な
残り時間は約2時間。
ここからどう攻めていくべきか……。
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