売店係の分析(SIDE エルシィ)

 ステラが生み出したと思わしき雲は北へと移動する。

 あの後に続いたなら、マロウ・ステファノのアビリティによる妨害を除けられるだろう。エルシィはクリスと頷き合い、雲を追いかける。


「ぐぁぁぁ!? 雨を浴びたら皮膚が壊死する!」

「ヒールしろよ!」

「ってか。快晴なのに、何で雨が!?」


 前方から悲鳴染みた怒声が聞こえてきた。

 恐らく園芸係&飼育係の連合団がこちらに向かって来ていて、運悪く雨の餌食になってしまったんだろう。


「私達の様子を見に来た者達でしょうね」

「3人以上はいそう。こっちから仕掛けてやるかな」


 クリスはそう言うと、複数体のドローンを瞬時に【分解】し、さらに、彼が携えていたライフルも込みで、新たな個体を組み立てた。【アセンブル】というアビリティを使用したのだろうが、機械オンチのエルシィには神業のように見える。

 出来上がったのは八つの回転翼を搭載する大型ドローンだ。


 それはクリスの操作で上昇し、雲が留まる方へと向かった。


「あの機械で何をなさるおつもりですの?」

「アサルトライフルで銃撃するつもり。アンタはお姫様なわけだし、つゆ払いってね」

「魔法での攻撃ではないのですのね……」

「ドローンに遠隔で魔法使わせると、MP効率が悪いし」


 先日聞いた話だと、ドローン自体がクリスのMPから動力を得ているらしいので、更に魔法は使えない感じなんだろう。

 エルシィは勝手に納得し、頷いておく。


「ドローンに銃撃されたなら、向こうの奴等はドローンに注目するはず。その間にアンタがご自慢の素早さで連中を薙ぎ払えばいいんでね?」

「承知いたしましたわ!」


 クリスと話しているうちに、発砲音と複数人の怒声が聞こえてきた。

 音から判断するに、彼等はすぐ近くに居る。

 二人でなるべく足音を消して、近くのやぶの陰に隠れた。


 藪から顔を覗かせ、様子を確認してみれば、男子生徒達5人がそれぞれ木の後ろに隠れて、ドローンを迎撃していた。

 エルシィは目をこらして彼等の顔を確認する。


(園芸係や飼育係ではない生徒が混ざっているようね。きっと傭兵だわ)


 この日の為に、エルシィは二つの係に所属する生徒達50人分のステータスを暗記していた。しかし傭兵については事前に情報が無いので確認しようがない。

 どのようにして力量を見極めようかと考えを巡らせた時、目の前に唐突にモニターが現れた。これも確かクリスの能力だったはずだ。


「これは、モニター? どうなさいましたの?」

「ステラが傭兵のステータスを分析してくれたんだ。アンタも見とけば?」


 狐に包まれたような気分になる。

 ステラは今、南側の本陣に居るのに、何故傭兵相手に分析魔法を使用出来ているのか。


「ま、まさか、ステラさんはモニターごしに【アナライズ】を使用したわけではありませんわよね?」

「そのまさか。コツを教えてみたら、あいつサクッと習得しやがった。12歳のくせに生意気だ。でもあいつの膨大なMPを都合よく使えてラッキーではある」

「……」


 少々混乱する。

 クリスの先日の話にもあったように、エルシィが把握しているステラのステータスは、やはり出鱈目でたらめだということなんだろう。

 以前ステラの義兄ジェレミーに、彼女の正しいステータスを提示するように求めたものの、未だにノラリクラリとかわされていて、確かめようがない。このモヤモヤをどう解消すべきか。

 この際クリスに探りを入れた方がいいのだろうか?


「ステラの事より、今はあいつ等をどうるすかだなー」

「そ、そうですわね」


 見透かされるようなタイミングの言葉に、エルシィはドキリとした。

 自分を恥じながらモニター内の情報に目を通す。

 傭兵はジェレミーの下位互換なのが見て取れた。つまり自分とかなり似たステータスだ。

 これならなんとか勝てる気がする。


「私が傭兵のお相手を致します。クリスさんは他の四人を」

「りょーかい」


 モニターには他の四人のステータスも次々に表示されている。

 ステラのフォローもあることだし、クリス一人で対応出来るだろう。


 【身体強化】を自らの肉体にかけた後、【瞬間接近】で一気に距離を詰める。

 相手は上空のドローンに気を取られていたが、異様な気配に気が付いたらしく、エルシィが至近距離に出現すると、素早く振り返った。

 しかし、それでも行動が遅すぎた。


 エルシィは鞘に入ったままのレイピアを振り、少年のこめかみを強打した。

 彼は立っている場所が悪かった。近距離にある木の幹に顔半分がめり込み、顔面が苦悶の表情に歪む。


「ガッ……ハ……」


 急所を付かれ、まっすぐに立つのですら難しいはずが、彼は即座に【疾風】でエルシィの身体を押し返そうとした。

 集中せずに打った魔法にノックバックされるエルシィではなかったが、第二打の勢いは削がれる。

 流石は傭兵として採用されるだけあって、戦い慣れしている感じだ。

 鞘に入ったままの剣で戦っていい相手ではないのだ。


「……成果報酬なんで、勝たせてもらいます。悪く思わないで下さい……」

「望むところですわ!」


 エルシィも、傭兵少年も【属性付与】でそれぞれのエレメントを身体に纏わせた。

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