いよいよ開戦!
金曜日から月曜日までの四日間はステラにとって、かなりハードだった。
まずは、ジェレミーへの対応だ。
金曜に義兄との約束よりも、クリスとの打ち合わせと特訓を優先させて帰りが遅くなったので、延々と小言を食らった。追加の罰は夜間の監視期間を二週間上乗せされ、さらに兄孝行として、一カ月間の肩もみを約束させられた。
土日はアジ・ダハーカと共に新たな魔法の習得の為の訓練と、売店係+αとの打ち合わせ。それに加えて、大量にアイテムを作った。
月曜日には更に多忙で、戦場として使われる、王都西側のトラロジェル山を下見しただけでなく、マロウ・ステファノをはじめ、自動筆記帳から漏れていた生徒達のステータスデータをチマチマと集めて回った。
この四日間の準備のおかげで、ステラは模擬戦争を前に、疲労困憊になってしまった……。
◇
そして迎えた火曜日当日。
ステラ達売店係+αは、陽がまだ東側にある時刻に、戦場の南側にある陣地に集結している。この短い間に、コリン達によって組み上げられた
この位置からは、北側にある園芸係と飼育係の連合団の陣地は全く見えはしない。向こうの雰囲気はどんなだろうか?
ちなみにこちら側は少々ピリピリしている。
ステラもそうなのだが、模擬戦争を初めて経験する者が多いので、緊張しているのだ。
大将としては、気持ちを和らげるべきなのだろう。しかし、口下手なステラは何を言って良いか分からず、喋る代わりにポーション等のアイテムと皆に配って歩いた。
最後にエルシィに手渡すと、とても嬉しそうな反応をもらった。
「有難うございます。これを見たなら、ステラさんを思い出して、モチベーションを保てそうですわ」
「見るだけでは駄目なのです。使ってもらう為に作りましたので」
「では、ちゃんと飲みますわね」
「ほい」
この話っぷりだと、以前ステラがプレゼントしたポーションも飲んでいなさそうだ。育ちの良い人の考える事は良く分からない。
「そろそろ模擬戦争が始まる頃合いですわ」
「五分前ですね。……顔色の悪い人たちがいますけど、大丈夫なのかな」
「あれだけ打ち合わせたのですから、きっとうまくいくでしょう。私も、いち早く園芸係長さんのバッジを奪取してみせます。期待しておいてくれて構いませんわ」
「期待してますっ」
自信たっぷりな人と話すといいものだ。
ステラはエルシィにニヘラッと顔を崩してから、離れた。
(大将のバッジ……。ちゃんと守り抜かないとなぁ)
エルシィの言葉から、リボンのど真ん中に付けている赤いバッジが気になってくる。これを戦闘時間である3時間キープし続けなければならない。
ステラはもう一度、この模擬戦争のルールを思い浮かべる。
勝利を収める方法は三つだ。
①相手陣営の大将のバッジを奪う事②相手陣営の全員を戦闘不能状態にする事③制限時間終了後、戦闘可能な者の割合が相手陣営よりも大きい事
これらのうちどれかを達成しなければならない。
ちなみに戦闘の様子は空撮され、校内に放送される。
スポーツ観戦のノリで生徒達は楽しむのだけど、映される側はあまり歓迎出来ない。無様な姿を映像として残されてしまっては、就職活動に響く恐れがあるからだ……。
ポーションを配り終えたステラがジッと懐中時計を見ていると、コリンが近づいて来た。今日はコリン達6名に本陣の周囲100m程の警備にあたってもらう予定なのだが、何か問題でも起こったのだろうか?
「あのさ、ステラちゃん。僕の所為でこんな事になっちゃってごめんね。もし負けたら、園芸係のステファノ先輩にはウチから金を払うから」
模擬戦争の準備に集中してしまい、そもそもの目的を忘れかけていた。
負けたら園芸係の畑から取った”妖精の大麦”の料金だけでなく、囚われの妖精の身柄を引き渡さなければならない。777番目のクローバーの天真爛漫な姿を思い出すと、闘志が沸いてくる。
「マロウ・ステファノさんには、銅貨一枚たりとも、妖精の羽根一枚たりとも渡さないんです! 今日は絶対に勝つんです!」
コリンへの返事は、そのまま全員への鼓舞のようになった。
アチコチから「オー!」だとか「勝つぞー!」等の雄叫びが上がる。
気持ちが一つにまとまったところで、ドラを打つ音と拡声器からのキーンという音が鳴り響いた。続いて運営のアナウンスが聞こえてくる。
”それでは模擬戦争のスタートです!!”
それを合図として、本陣に残る者達は周囲を警戒し、敵陣に攻め入る者達は木々の間に駆けて行った。
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