福戸橋

渡邊朱倫

ラーメンいくおに群がる人々

 「大蒜にんにくマシマシ、脂無し、野菜普通、お待たせ。」

 私がバイトに来ている店は、そういう店なのだ。ふくえん駅傍の「ラーメンいくお」。店長はひしぎりいく、23 歳。豚のバラ肉や背脂を存分に堪能させるラーメン屋にしては、細身で色白だ。

 その嫁も店を切り盛りしている。ひしぎりわか、25 歳。理科大卒。衛生管理に厳しいお人で、ラーメンの笊や寸胴は毎日若菜さんが自作の洗剤で丁寧に洗っている。

 そんな店での私の担当は大蒜の皮剥きだ。

 仕事の前に爪を切って先をやすりで丸め、若菜さん特製の石鹸で念入りに手を洗い、勝手口の方で大蒜の皮を剥く。大蒜の鱗片本体に爪痕を着けたらその部分を抉らされ、一個当たり一円給料を引かれる。剥いた大蒜をフードプロセッサにかけて微塵切りにし、お客の要望に応じて供する。

 五時過ぎ、一時間に二便の電車が戸手に停まると、降りた客の内十人位がカウンタ席しかないうちの店になだれ込む。半分位が高校生、もう半分が背広のサラリーマン。

 偶に「今日はちゃんいる?」なんて態々わざわざ大声で尋ねる奴がいる。大変嫌らしい下心が透けて見える。この店はラーメン屋だよ、水商売の店じゃねえんだよ。

 一度、若菜さんにああいう女誑しを追っ払ってくれと泣きついた日があったけど、「あれは愛嬌よ。あゝいうのもうちのラーメンを食べたいんだから、拒んじゃラーメン屋なんてやっていけないわよ」なんておっしゃった。

 ラーメン屋のかたぎなのか知らないが、胡散臭いこと極まりない。美人なのに口説かれない若菜さんが羨ましい。人妻だからかも知れないけど。

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