White Suns War -科学と化学を駆使するバトルファンタジーとヒューマンドラマ、時々恋愛。
サエグサナツキ(七種夏生)
prologue
「遺言を、義弟に」
もし、君がこれを聴いているのなら、義弟にこの言葉を伝えて欲しい。
俺はあと数分で、死んでしまうから。
*
東京・戦場の街の中心部、煌びやかな装飾が施された地下の一室で、俺は銃口を突き付けられていた。
正面を向くと、上品なグレーのストラップスーツに身を包んだ細身の男の姿が見えた。歳は中年期程度だろうか、華奢な体躯は彼を小さく見せた。
「残念だよ、夕季くん」
男が言った。
俺と目が合うと、彼は困ったような苦虫を噛み潰したような表情になった。
なぜそのような表情になったかわからず、俺はただ真っ直ぐに彼を見つめる。無抵抗を示すように、何も持っていない手を両手の上に掲げて。
「君の弟は、朝季くんは十六歳だったかな?」
「血は繋がっていません、義弟です……知っているでしょうそのくらい、年齢も能力も全て。この六年間徹底的に、管理してきたんだから」
俺の言葉に彼は僅かに笑みを浮かべた。
やはりわからない、なぜ悲しそうな顔をするのか。
その表情の裏の、真実が……
「……っ」
抵抗してみようと掌に空気銃を作り出した途端、後頭部に強い衝撃が走った。
融合、生成……ダメだ、間に合わない。
赤が見える、自分の血の色。
あぁ、そうか、これが死か。
死ぬのか、俺。
わかってたけど、覚悟してたけど……本当に死ぬんだな、今日。
馬鹿なことしたかな、他に方法があっただろう。いやこれがやはり最善か?
何がいけなかったんだろう、どこで間違えたんだろう。
大人しくしていれば生きれた、
傍観者でいられたならとても、楽しい街だったのに。
血で湿った掌でネームプレートを握りしめる。銀の冷たい感触が伝わって、少しだけ涙が出た。
『大丈夫だよ』
薄れゆく意識の中で、微かな声を聞いた。
九年前に聞いた、田舎町の小さな少女の声。
『お兄さんはすごい人だから、大丈夫』
すごいってなに? って、聞き返す余裕もなくて。涙で滲んだ視界から見える海の青さがとてつもなく綺麗で、それ以上の会話を繋ぐ事ができなかった。
ごめんね、約束を破って。だけど代わりに、だから、義弟が君を守るよ。
この物語はきっと、君にとって残酷なものになる。
大丈夫、君だって立派だ。
すごい人だから……
だからどうか、この惨状を止めて……戦場の街を終わらせて、
スカイツリーにでも登って一緒に、朝日でも見てくれたらいいな。
遺言を託します、君に。
義弟へ、最期の言葉を。
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