White Suns War -科学と化学を駆使するバトルファンタジーとヒューマンドラマ、時々恋愛。

サエグサナツキ(七種夏生)

prologue

「遺言を、義弟に」



 もし、君がこれを聴いているのなら、義弟にこの言葉を伝えて欲しい。

 俺はあと数分で、死んでしまうから。




 東京・戦場の街の中心部、煌びやかな装飾が施された地下の一室で、俺は銃口を突き付けられていた。

 正面を向くと、上品なグレーのストラップスーツに身を包んだ細身の男の姿が見えた。歳は中年期程度だろうか、華奢な体躯は彼を小さく見せた。


「残念だよ、夕季くん」


 男が言った。

 俺と目が合うと、彼は困ったような苦虫を噛み潰したような表情になった。

 なぜそのような表情になったかわからず、俺はただ真っ直ぐに彼を見つめる。無抵抗を示すように、何も持っていない手を両手の上に掲げて。


「君の弟は、朝季くんは十六歳だったかな?」

「血は繋がっていません、義弟です……知っているでしょうそのくらい、年齢も能力も全て。この六年間徹底的に、管理してきたんだから」


 俺の言葉に彼は僅かに笑みを浮かべた。

 やはりわからない、なぜ悲しそうな顔をするのか。

 その表情の裏の、真実が……


「……っ」


 抵抗してみようと掌に空気銃を作り出した途端、後頭部に強い衝撃が走った。

 融合、生成……ダメだ、間に合わない。


 赤が見える、自分の血の色。

 あぁ、そうか、これが死か。

 死ぬのか、俺。

 わかってたけど、覚悟してたけど……本当に死ぬんだな、今日。

 馬鹿なことしたかな、他に方法があっただろう。いやこれがやはり最善か?

 何がいけなかったんだろう、どこで間違えたんだろう。

 大人しくしていれば生きれた、

 傍観者でいられたならとても、楽しい街だったのに。


 血で湿った掌でネームプレートを握りしめる。銀の冷たい感触が伝わって、少しだけ涙が出た。


『大丈夫だよ』


 薄れゆく意識の中で、微かな声を聞いた。

 九年前に聞いた、田舎町の小さな少女の声。


『お兄さんはすごい人だから、大丈夫』


 すごいってなに? って、聞き返す余裕もなくて。涙で滲んだ視界から見える海の青さがとてつもなく綺麗で、それ以上の会話を繋ぐ事ができなかった。

 ごめんね、約束を破って。だけど代わりに、だから、義弟が君を守るよ。

 この物語はきっと、君にとって残酷なものになる。

 大丈夫、君だって立派だ。

 すごい人だから……


 だからどうか、この惨状を止めて……戦場の街を終わらせて、

 スカイツリーにでも登って一緒に、朝日でも見てくれたらいいな。



 遺言を託します、君に。


 義弟へ、最期の言葉を。

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