第229話 文化の巨人逝く

足利天晴→足利義晴

三条西卿、逍遙院→三条西実条


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1538年(天文7年)1月


- 加賀(石川南部) 金沢城(仮)予定地 公務の館 ー


 加賀での拠点を富樫館から金沢城(仮)予定地内に建てた館に移した。記録的な大雪で人目が無いのを良いことにゴーレムをフル稼働させての鉄筋コンクリート建。

 一応、外壁はモルタルで内壁は木板で偽装してる。廊下は板張りだが、部屋の床は寒さ対策も兼ねてすべて畳。あと耐久試験や寒暖差による室温の変化などのデータを取るため、ここの執務室には2メートル×4メートルの巨大なガラスの窓が設置されている。


「ガラスに関してはここまで来たというべきか」


 ちらりと窓の外に目を向ける。麓から上がって来れないように設置されたネズミ返しならぬ侵入者返しの出っ張りが若干無粋だと思うけど、眼下に広がる白銀の世界は絶景である。ちなみに館は、山の中腹に迫り出すように設置された、武者返しのような二段階傾斜を備えた高さ10メートルほどのコンクリートの崖の上に建っている。

 加賀は後に50万石(ちなみに加賀100万石というのは、加賀、越中(富山)、能登(石川県北部、能登半島)を併せたものをいうらしい)に成長する土地だし、越中や越後(新潟本州部分)侵攻のための補給の中継地になる予定なので港や街道、倉庫街は特に入念に整備しているのだ。

 ちなみに能登の畠山氏は、御伽衆の調査では降伏か徹底抗戦かで家中が真っ二つになっている。これは、元就さまが足利天晴さんの要請で管領になった時、管領に見合う家格にするため一時的ではあったが畠山一族である畠山長経の養子になっていたことが原因。

 一時的とはいえ畠山一族だったと元就さまにすり寄りたい一派と、名を騙った成り上がり者は許さんという一派との内輪もめをやっている。なので、放置することが決定しているのだ。

 長らく加賀と越中で一向宗が跳梁跋扈していて、外敵からの脅威に曝されてなかったから、色々ヤバいモノを抱えているんだよね。現当主の畠山義総は文化や商業の保護を厚く行う名君らしいけどそれなりにプライドは高そうだ。



 今回は久しぶりに、レアリティの期待値を上げるためにガチャ箱に館の建設中に出た廃材をせっせと流し込む作業を行う。最近のガチャ箱さんは、かなりグルメになられたようで、その辺に転がっているようなものではピクリともしないのが悩みの種だ。

 あ、種というと最近のガチャ品で嬉しかったのは「SR温州蜜柑の木」が出たこと。しかも20個ほど実が付いた状態で!蜜柑自体は既に三世紀頃には日本に伝播しているけど、小さくて房毎に種があって、酸味が強い小蜜柑・・・いまだと盛んに栽培されている紀伊(和歌山から三重南部)の名を取って紀州蜜柑と呼ばれる品種。そこに相対する甘くて大きくて種の無い温州蜜柑の出現である。歓喜の舞を踊ったのは言うまでもない。なお、後日、朝倉氏の方々にもお裾分けしたのだが不評だった。種なしだからというのが理由らしいけど勿体ないよね。




「イッツ、ガチャターイム!何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 怪しいリズムを口ずさみながら俺はガチャ箱のボタンを押す。


 SSR 金と銀と真珠の磬子けいすセット


 ・・・神様が何かぶっ込んできた。正確には蓮の花が掘られた口径が60センチの金色の磬子に天上の雲の柄が刺繍された丸座布団。柄が銀色のリン棒に黒檀のリン棒置き。右手に真珠を持った白龍がうねるように彫り込まれた朱塗りの丸金台という豪華いや悪趣味いや下品な仏具が鎮座している。


 きーーーーーんんんんんんん


 誘惑に耐えきれず。リン棒で磬子を叩くと、銅や青銅や鉄では出せない甲高い澄んだ高音があたりに鳴り響く。これ金メッキじゃないな18金か?24金・・純金だと洒落にならないお宝になるけどそれはないだろう。ないよね?


 カンカン


 床の間に置いてある小狸の茶釜が乾いた音を鳴り響かせる。


「首領。三条西卿より文を預かってまいりました」


 服部半蔵くんが床の間の掛け軸の裏から現れる。摂津(兵庫南東部から大阪北中部)大坂城に出向いた世鬼近矩くん。あ、三条西卿というのは逍遙院さんのことね。後土御門天皇、後柏原天皇、後奈良天皇の三人に仕えた公卿にして戦国時代中期において超人的な活躍をした文化人。なにより毛利氏と朝廷・・・公家や公卿との間に入って調停役を熟してくれた大恩人でもある。俺も随分可愛がってもらった。


「・・・逍遙院殿が逝かれたのか」


 文を読むことなく断定したことに服部半蔵くんが一瞬驚いたような顔をするが、史実で病気で亡くなった人は多少時期がズレたとしてもその運命から逃れる事は稀なんだよね。


「葬式関係は逍遙院殿に所縁のある二尊院に譲るが、お別れの会は臥茶七曜が仕切る。そのように心得て動くように」


「はっ。お別れの会ですか?」


 服部半蔵くんは少し首を傾げる。


「逍遙院殿を多くの人に偲んでもらうための催し物だよ。宗教的なものじゃないから派手にやろうか?百か日法要の前後を狙うなら4月ぐらいだな・・・」


 雪に閉ざされた加賀で、春まで無条件にすることが出来た。まずは香典を1,000貫文ほど包むことの指示を出すことから始めようか。

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磬子・・・読経中にごいーんと鳴らすアレ

お別れの会で使用予定

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