第225話 この紋所が目に入らぬか(相手が知らないと滑る案件)
今川元親→今川義元
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「是非とも我らに合力願います」
そう言って吉良持広さんと阿部定吉さんが頭を下げる。松平氏の残党が俺に対して行った請願。予想通りというか、三河(愛知東部)岡崎城の奪還に毛利氏として合力して欲しいというものだった。で、毛利氏の合力に対し松平氏が払う対価は、同盟国として以降、毛利氏の起こす戦に対し三河勢として合力するというもの。はっきり言って全然釣り合ってない。多分俺が、対価なしで今川元親くんを支援したことを知って、ダメ元で頼みに来たのだろう。
「お断りします。毛利が斯波や織田に敵対してまで、松平に合力することはありません」
俺は事前に毛利氏の上訴部で取り決めしていたことを告げる。
「今川には合力して、我等に合力しないというのは納得できませんぞ」
阿部定吉さんは目を吊り上げ唾を飛ばしながら非難してくる。
「
どん!と刀を床に打ち付けて激怒して見せると、すぐに阿部定吉さんは静かになった。
それにしても懐かしいな。最初は俺が今川氏親さんに刀を献上して、お礼として火縄銃を貰って、以降、年賀の挨拶と称してお互い贈り物をしあって誼を深めてきたんだよね。
「ああ、信じておらんな?これが今川と
俺は、懐から赤鳥紋が描かれた薬入れ、いわゆる印籠を取り出して二人に見せる。
赤鳥紋は、今から150年前に今川範国が「赤い鳥と共に戦うべし」というお告げを聞いて使い始めた今川氏の替紋の一つ・・・らしい。
そのことを今川氏輝さんが手紙で教えてくれたと言ったら、吉良持広さんもそれを知っていて肯定してくれた。さすが今川氏の本家筋の人だけある。
なお、近々で今川で赤鳥紋が使われたのは、今川元親くんが初陣の際に使った馬印らしい。後から御伽衆の一人に聞いた話だけどね。
「それにな。毛利での報酬は、誰の例外もなく挙げた手柄の大きさに関わらず銭よ。あの北畠も土地は毛利に差し出して今は銭働き。土地が下賜されることはない。まあ、銭があれば土地を買って家を建てることはできるが、それが精々よ」
下手な希望を引き摺らないようきっぱりと止めの言葉を告げる。まあ、従属したときに武家としてある程度の収入があれば、毛利氏での給料査定はそれなりに考慮される。
例えば今、遠江(静岡大井川以西)で頑張っている今川元親くんが、現状のまま毛利氏に従属したとして、今抱えている家臣団を全員銭で抱えた上で今川館を借用したとしよう。
恐らく10年程、遠江で地方行政官として毛利氏の元で働けば、借用した今川館は余裕で買い戻せるだろう。まあ、今川元親くんと太原崇孚さんは敵対勢力と隣り合う最前線で扱き使うつもりだから10年もかからないだろうけどね。
希望を打ち砕かれ肩を落とす二人と全く理解してない小狸くんの対照的な姿がある意味喜劇だった。
なお武士の情けとして、毛利氏に仕官するつもりなら使えと三人分の紹介状を書いて渡しておいた。
「ガチャターイム!何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」
怪しいリズムを口ずさみながら俺はガチャ箱のボタンを押す。
ガガゴトンという音がして出てきたのは・・・
R 酢酸ナトリウムを利用した繰り返し使える懐炉
ええっと・・・やけに説明臭いのは商標的な配慮か似たようなものを量産させるための優しさか?
ただ、温石という石を火鉢などで温めて布に包むだけで十分に実用的な携帯用防寒具があるのに懐炉がドロップしたということは・・・もしかして今年の冬は滅茶苦茶寒くなるということだろうか?
「え、もしかして一酸化炭素中毒対策をしろってことか?」
ふと、そんなことに思いが至る。木炭の粉末にナスの茎の灰や麻殻や桐灰を混ぜ込む灰式懐炉でも、白金を触媒にベンジンが気化する際の酸化発熱を利用する白金触媒式懐炉でも、鉄粉の酸化作用を利用した懐炉でもなく、吸熱させることで何度でも利用が可能な酢酸ナトリウムを利用した懐炉が出てきたのがその理由だ。(根拠のない推測)
なにしろ、今回の越前での道路工事は物量によるごり押しだ。作業員の宿舎も、壁も屋根も鉄骨を柱にコンクリートブロックを積み上げただけの、ただ寝るためだけの一室四畳半の長屋だ。
工事区域が北に移動すれば、建物は道路に敷き詰める礫にするため取り壊す予定で、構造そのものは簡単というよりかなり手抜きの物件だ。
しかしそうか。部屋が狭いから、ちょっとした創意工夫で簡単に密閉空間が作れるよね。文書による注意喚起は当然として、宿舎の基本設計も見直す必要もあるな。
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