第21章 室町幕府の終焉と中部騒乱編

第201話 (史実的な意味で)剣豪将軍(になる予定の子供)誕生

1536年(天文5年)5月


- 山城(京都府南部)二条城 (足利義晴の居城) -


「嫡男、菊幢丸さまのご誕生おめでとうございます」


 足利義晴さんの嫡男である菊幢丸くんの百日祝いの言葉を述べて俺は頭を下げる。そして目の前にはもの凄く不機嫌な顔をした足利義晴さんがいる。

 細川晴元の脅威をほぼ粉砕したときから駄々下がりだった足利義晴さんの毛利氏に対する友好度が、嫡男である菊幢丸くんの誕生で底が抜けたらしい。

 まあ、担がれる神輿生活が長かったせいで人間不信になっている可能性はあるな。共闘を持ちかけたときから毛利氏に対する友好度なんてなかったのかもしれない。さらに嫡男が生まれたことで、自分の首がいつでも挿げ替えられてしまうという妄想を拗らせたのかもしれない。

 実際、菊幢丸くんは足利義晴さんと正室の間に生まれた男子としては足利義尚以来71年ぶり。摂関家の娘を母に持つ初めての男子だ。利用価値としては足利義晴さんよりも遥かに高いんだよね。


「うむ。嬉しく思う。ところで畝方殿」


 足利義晴さんがそれとなく周囲に視線を向けると、幕府の側近の人たちが音もなく部屋から出ていく。


「例の件についてじゃが・・・」


 人払いが済んだのを確認して、足利義晴さんは表情を変え、現在毛利氏と足利氏の間で火種になりつつある話題をぶっこんでくる。それは西日本にあった公方御料(足利氏直轄の荘園)の返還と毛利領での段銭(田んぼにかかる税)、棟別銭(家にかかる税)、関銭(関税)、抽分銭(明との貿易を認めるための手数料)の要求だ。

 まあ、幕府衰退の原因が本来得られるはずだった税収がまともに徴収できなかったことだから、状況が落ち着けば幕府の既得権益を返せという話になるのは当然と言えば当然という話だ。

 ただ、毛利氏からすると公方御料だった土地は足利幕府から奪ったモノではないし(三代足利義満のころには関東のごく一部にまで減少していた)、税金の徴収権は既に形骸化して久しい。

 明との貿易に至っては、毛利氏が臣従させた大内氏の先代である大内義興さんが上洛して得た特権だ。幕府からそれらの権益を寄こせと言われても到底承服できるものではなかった。


「京より西の地は、幕府が毛利に与えたモノではなく、毛利が力で得た地です。流石に条件的に受けることは難しいかと・・・」


「そうは言うがの?ここだけの話、足利も子供が生まれて懐の事情が苦しいのだ」


 なんか身も蓋もないぶっちゃけたことを言い出す。幕府というより自分の懐が厳しいとか、さっきの不機嫌顔をあれこれ深読みした自分が馬鹿みたいじゃないか・・・まあ、俺は毛利氏でも重臣と呼ばれる立場にある人間だけど、足利義晴さんにとっては妊活を指導して嫡男を授けた仙人さま。毛利氏に思うことがあっても、公私は分け、人払いした後に気さくにぶっちゃけてきても不思議ではないか。


「それに其方、山科内蔵頭の荘園に手を差し伸べたであろう?近衛卿義父どのの機嫌が悪くて敵わん」


「山科内蔵頭さまとは先代である山科権大納言さまが薬師寺復興の音頭を取ったときからの縁がありまして」


「なん、だと・・・」


 足利義晴さんががっくりと項垂れる。ちなみに権大納言さまというのは山科言継さんの父親の山科言綱さんのこと。司箭院興仙さんの紹介で知り合って、毛利氏が四国に侵攻したとき土着していた公家大名である一条氏や西園寺氏の本家筋に圧力をかけてもらったのだ。

 代わりに大和(奈良)薬師寺の復興のためにかなりの資金を援助したよ。もっともその時に出来た縁がもとで大和や紀伊(和歌山、三重南部)の宗教界がスムーズに毛利氏の傘下に収まったんだよね。


「山城の国で毛利を使いたいなら山科内蔵頭さまを通してください。山科内蔵頭さまの面子は潰したくないので」


 そういうと足利義晴さんは「そうか諦めるしか・・・」と呟く。官位的には足利義晴さんは山科言継さんよりも上だが、その権力を持ってどうこうできるか?といえば無理だろう。だから、こちらをチラチラ見るのはやめて欲しい・・・


「いらない権力闘争を避けたいのは理解いたしました。裏からこそっと話をするぐらいしか出来ませんが、それでもよろしければ・・・」


 一変して足利義晴さんの顔が光り輝く。あーうん。会談のときに丸め込まれないよう尼子経久さんを助っ人につけようか・・・



ー 山城(京都府南部) 施薬院 -


 足利義晴さんとの会談内容を手紙にしたためて上層部に報告し、尼子経久さんに山科言継さんの助っ人の件を打診した俺はガチャ箱の前に座る。ほいほいと、ほいほいと、ほいほいと司箭院興仙さんから上がってきた台湾での活動報告書のうち清書が済んだものを放り込んでいく。


「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 怪しいリズムを口ずさみながら俺はガチャ箱のボタンを押す。


 がしゃん。ぽん。


 SR 空のスクロール×10


「なんだ?この産廃っぽいのは・・・レアリティがSRというのも面妖な」


 思わず眉根が寄ってしまうが、事前のレアリティアップの補助券だと割り切り、アイテムボックスに放り込む。


『空のスクロールにスキルがコピーできる指南書があります。コピーしますか?(Y/N)』


 なんだと・・・(天丼)

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