第200話 台湾の落としどころ

毛利義元→史実での元就の嫡男 毛利隆元


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1536年(天文5年)4月


 ー 山城(京都府南部) 施薬院 -


「ということでな。台湾ダイオワンでは毛利軍は天空から青緑の雷光で破壊をもたらす悪鬼羅刹と恐れられ、その影響力は台湾の半分に迫る勢いじゃ」


 ことんと手に持っていた湯飲みを床に置き、司箭院興仙さんは悪い顔で嗤う。


「これに唐芋サツマイモとキャッサバ芋の収獲による食糧事情の改善とそれによって出来る酒があれば数年で台湾を統一できるじゃろう」


 司箭院興仙さんはそう付け加える。


「なるほど。なら太宰少弐(毛利義元)さまに戦と統治の実地研修を積ませる良い機会ですね」


「たしか台湾は南蛮からの脅威に備えるための最前線とか言っとらんかったか?そんなところに毛利の跡取りを出してええのか?」


 器用に右の眉だけを跳ね上げて司箭院興仙さんは訝しげに尋ねる。


「明日提案して明後日出発はありえません。審議されて決定して準備を整えて、1年や2年はかかるでしょう。それまでに土台をしっかり固めておけばいいのです」


 笑いながら司箭院興仙さんにそう説明する。まあ、史実でポルトガルの船が日本に漂着するのは1543年。さらにオランダが台湾を植民地にするのは1624年。接触するにしても7年も先の話で時間は十分にある。なので、それまでに台湾を欧州列強から日本・・・いや東アジアから守る為の最強の矛と盾にするつもりだ。それなりの投資と住民に教育を施して毛利領と同様に発展させる予定でもある。

 あと、史実でも日本が統一されたあとに時代に取り残された脳筋さんたちが、生きる場所を求めて傭兵として南方に進出する。その受け皿をいまから作っておくのもいいだろう。


「そういうもんか」


 司箭院興仙さんは覇気が無いのーみたいな目でこちらを見ているけど、一応、元就さまの補佐をするというのは神様のオーダーなんだよね・・・今更な気もするけど。


「そうそう。これを渡しとく」


 そう言って司箭院興仙さんは懐から一冊の本を取り出す。


「台湾で大陸の仙人に教わった式神のやり方を書いた教本じゃ」


「え?本で覚えることができるのですか」


 思わず聞き返す。


「覚えられるじゃろ。多分。ん?なんで本にしようと思ったんじゃ?」


 司箭院興仙さんはことんと首を傾げる。うーん実に可愛くない。


「ありがとうございます。精進します」


 とはいえ貴重な仙術の指南書である。恭しく頭を下げ、「式神のやり方」と書かれた本を頭の上にかざす。


「ああ、欧仙が真っ新なカラクリ人形ごーれむに技術を覚えさせるときに巻物を使うじゃろ?あれの影響じゃな」


 司箭院興仙さんの言葉に何となく納得してしまう。スキルスクロールなら簡単に覚えられるだろう。まあ無いもの強請りだが。


「とりあえず、内閣と御屋形さまに太宰少弐さまの台湾派遣の稟議を上げましょう。文官の追加や武官の入れ替えも必要になるでしょう」


 早速机に向かい、稟議を出す前の根回しのための文を書く。


「儂は、京を観光中の曹景休と合流し、一緒に飯でも食うてこようかの」


 司箭院興仙さんは、ちらちらとワザとらしく視線を送ってくる。曹景休さんというと「式神のやり方」の共同著者の人か・・・


「曹殿、物凄い蟒蛇だったりとかしませんよね?」


 俺は中空に手を伸ばし、アイテムボックスと念じてからアイテムボックスの中にある茶巾袋を取り出して、司箭院興仙さんに渡す。


「おお、これは確か10文黄銅貨に100文朧銀おぼろぎん貨じゃったな。もう流通させとるのか?」


 司箭院興仙さんは、じゃらじゃらと既存の文銅貨に最近流通に乗せた10文黄銅貨、100文朧銀おぼろぎん貨、額にして三貫文分の銭が入っているのを確認する。


「はい。まだ領内と施薬院の麓でのみで流通する私鋳銭止まりですが、湊の工事に従事している者と国境での商取引している者を中心にばら撒いてます」


 敵対する隣国勢力に対して経済侵略していることを暗に示すように悪い顔をして見せる。近江(滋賀)の制圧が農繁期に武による力押しだったのと、東の隣国である美濃(岐阜南部)で起こった水害の影響で美濃では春先までには種の分まで食べつくしたこともあって追加で米・・・陸稲を筆頭とした蕎麦や粟や稗といった穀物の種に加工した芋類がよく売れたのだ。

 俺も七曜を動かして食料と恩を売りそこそこ稼がせて貰った。金が足りないという美濃の国人にも近江の毛利領に攻め込まないことを条件に安い金利で貸し付けた。これで当面の敵は越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)は一乗谷城の朝倉氏と近江小谷城の浅井氏だけになる。これで一息付けるというものである。


ー 数日後 -


 毛利義元くんの台湾赴任計画は稟議を上げる前に延期となり、それまでの繋ぎとして元就さまの次男である毛利少靖次郎くんが齢10才にして元服し、毛利元春と名乗り台湾に向かうことになった。

 海をはるかに越えた地を統治する以上、トップはお飾りでも毛利宗家の直系男子がいいということで、毛利元春くんに白羽の矢が立ったのだ。


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この章完結

次章 室町幕府の終焉と中部騒乱(仮)

史実通りの事件が起きて物語は後半戦に突入します

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