第191話 小山田虎親、ライフル銃の真実を知って壊れる

更新再開


1536年(天文5年)1月


- 摂津(兵庫南東部から大阪北中部) 大坂城 -


 元就さまの三男である少輔四郎くんが新年の挨拶のときにお披露目された。史実と違うのは正室である妙さまの子供だという事かな。

 また俺の三男の六七郎と四男の八九郎。それと甘草定純さんと梅のあいだに三男の三郎。服部半蔵くんと霞のあいだに次女のかえで。今川近時くん(二代目貫蔵)と杏のあいだに長男の一太。世鬼近矩くん(二代目煙蔵)と桜のあいだに長男の白丸。周藤九太くんと鈴蘭のあいだに三女のおたま。戸次鑑近くんとひなげしのあいだに千歳姫が生まれたことも報告される。

 尼子詮久くんところの子供は来月の初め頃だろうという報告が上がって来ていて、石見(島根西部)と出雲(島根東部)では祭りの準備が始まっているという。


 新年の方針会議が始まった。外交に関しては現在交戦中の越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)の朝倉氏、北近江(滋賀北半分)の浅井氏とは停戦交渉もせずに放置。

 出鼻をくじかれたことで兵糧を浪費せず収穫も行えた朝倉氏はともかく農繁期のあいだ戦をして収穫もままならない浅井氏では六角氏の残党を抱えたこともあって食料状況が急速に悪化しているのだ放置するに限る。美濃(岐阜南部)の土岐氏は昨夏の内乱で外交どころではない。こちらも放置。

 尾張(愛知西部)の斯波氏は三河(愛知東部)の情報提供で関係が親密という程度には深まったので、安心して三河に進むよう相互不可侵の条約を2年毎に更新する条約を締結する。

 伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)の北畠氏とは元就さまの義娘と北畠晴具さんの間で婚姻が結ばれたことで同盟が締結された。これは2年後の従属を視野に入れての同盟を結んだ。

 他の勢力からは、今川氏と武田氏から新年の挨拶と称したご機嫌伺いの使者が来ている。いま毛利氏と遠交近攻という兵法が実行できるのはこの勢力だけだ。当主とその側近に伝手があるのも大きい。

 また内政については畿内近江(滋賀)から九州薩摩(鹿児島西部)に至る街道整備を中心に今回の上洛で新たに毛利領となった地域の復興が行われることになった。

 あと検地と道路整備。ついでに区画整理に近隣の住民を賦役ではなく金と朝晩の食事を付けて雇うことにする。同時に鋤とか鍬とか、千歯扱きとかの農業便利道具を売る。そうやってバラ撒いた金を回収するのだ。また住民が持つ悪銭や撰銭も銅銭の残った面積を基準にして4分3以上なら1枚と半分残っていれば2枚で1枚。それ以下なら1文分の重さで1枚といったレートで取り引きしていく。刀や防具を一定数供出した村には徴兵免除の書状を与え、水路の整備や井戸を掘って手押しポンプを設置するという優遇措置を行う。余計な武力も削げて一石二鳥だ。


「畝方さま。武田家家臣の小山田出羽守殿が面会を求めております」


 ふと、外の廊下から声がする。


「判った。会うから通して」


 そう言うと気配が消え、暫くするとどすどすと足音が聞こえてくる。


「畝方殿。久しぶりだな」


 大坂城に武田氏の名代として新年の挨拶に来た小山田虎親がジト目で部屋に入ってくる。なお小山田虎親は俺と同じ世界からの転生仲間でもある。


「小山田殿。久しぶりだな。甲斐(山梨)の泥かぶれはどうなってる?」


 俺の問いに小山田虎親は僅かに右の眉を上げる。器用だな・・・


「被害者は物凄い勢いで減ってるよ。お前が指摘した地域の水源は水路はコンクリで護岸して田んぼは全部埋めて畑にした。こればっかりは強権が発動できる権力様様だな」


 小山田虎親は鼻で笑う。原因となる宿主の巻貝ごと絶滅させる方法を取ったか・・・まあ武田氏は関東一円に勢力を広げたことで、甲斐で無理に米作する必要が無くなった。しかもソバや小麦なんなら唐芋サツマイモやジャガイモといった水耕に頼らない主食の生産が可能だしな。


「しかしなんだ。毛利が大筒を運用してるのは知っていたが、火縄銃をすっ飛ばしてライフル銃を運用してるとは思わなかったぞ?」


 小山田虎親はジト目を深める。どうやら腕のいい諜報員を抱えているらしい。


「北条が没落したとき小太郎の伝手で更に風魔を何人か雇ったんだよ」


 どうやら今川で諜報活動を担当している諜報員の一人が松平軍に紛れて情報収集のために尾張の守山城に来てたらしい。そこで乾いた破裂音に弓矢の射程を越える飛距離。そして破格の破壊力のある武器が使用されたという報告を小山田虎親に上げたのだ。

 で、この報告を聞いた小山田虎親は「乾いた破裂音に弓矢の射程を越える飛距離。そして破格の破壊力のある武器」が火縄銃より性能が高い銃であることに思い至ったという。まぁ、破裂音と長射程の武器というだけでも小山田虎親なら銃の存在を疑うか。


「で、どうやって手に入れた?ガチャか?」


 小山田虎親も俺のガチャのことを知っている人間の一人なのでずばり指摘してくる。


「狙撃眼鏡付き35式改狙撃銃って名付けてる」


 俺は意味ありげに笑ってアイテムボックスから一丁のスコープの付いたライフル銃を取り出す。


「狙撃銃?しかも狙撃眼鏡スコープ付き?相変わらずお前のガチャはインチキ胡散臭いチート能力だな」


 小山田虎親が呆れたようなため息をつく。


「まあ、確かに能力的にチートだが、装備として戦場に投入するのは当分無理だな。実包銃の10倍のコストがかかるんだぞ」


 俺は力強く断言する。機密保持を徹底させるために今までの製造は鍛冶ゴーレムしか行っていない。戦力になる程の数を用意するには、毛利領内にいる鍛冶ゴーレムをすべて製造に割り振っても数年単位の話になる。とてもじゃないが他の部署を説得できない。というか実包銃でさえ今回の上洛の関係でほとんど予算がついてないんだよね。


「ちょっと待て。毛利では既に実包銃を配備しているのか?というか鉄砲伝来は7年後の1543年だろ」


 小山田虎親が目玉を大きく見開いて驚いている。


「おいおい。大筒を運用してるんだ。銃も運用してない訳がないだろ。まあ、銃そのものは存在を徹底的に隠蔽したからほとんど情報が漏れてないけど」


「え?」


「それに、1543年に種子島に伝来したのは西欧の当時の新型であって、火縄銃自体はそれより前から中国にもあって日本にも何丁かあるぞ」


 実際、俺が最初に手に入れた火縄銃は今川氏親さんから贈られた四方鉄砲だ。


「なんてことだ・・・」


 小山田虎親はガックリと肩を落とし、「はあ」とか「ふう」とか盛大にため息をついていたが、やがてポツポツと話し始める。どうやら彼は俺と再会して毛利氏の情報を積極的に集めたそうだ。そして毛利氏が既に大筒を使っていたことを知る。

 さらに情報を集めて大筒は使われているが火縄銃のようなモノは使われた形跡がないことを知る。(まあ鉄砲の使用に関しては九州制圧時に徹底的に痕跡を消したから当然)

 そこから大筒はガチャからの複製したものだと推測したらしい。(実際には1332年に中国で造られた青銅製の火砲を鉄で再現したもの)なら火縄銃と火薬が日本に伝来したら速攻で鑑定して構造を把握して自国で大量生産し毛利氏に対抗すると計画したらしい。

 もし俺が鉄砲伝来より先に火縄銃を手に入れれば、速攻で戦場に投入するだろうから、風魔を使って奪うか、見せてもらうついでに鑑定しようと皮算用も弾いていた。そして、守山城の戦いで火縄銃が使われたらしいという情報を手に入れる。即座に主である武田信虎と謀って新年の挨拶を装って乗り込んできたというのだ。


「このライフル銃だが、俺が火縄銃を手に入れて金と技術とチートな知識で1年365日24時間(物理的な作業は全部ゴーレムに丸投げしたが)研究開発して去年完成させた銃だ。当然のことだが扱える人間を育成し部隊の運用方法も研究してる」


「それが?」


 小山田虎親は「だから何が言いたい」って顔をする。


「お前の能力で銃が造れるようになったとしてどうやって運用させるんだ?弾や火薬はどうやって揃えるんだ?」


 たしかに銃は他の武術と違って熟達するのに時間はかからないけど、それでも戦力として運用するには今日渡して明日使えるもでもないんだよね。


「言われてみればそうである」


 小山田虎親の顔が悟りを開いた修行僧のようになっていた。

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