第146話 海雲さんと悪い話

- 摂津(兵庫南東部から大阪北中部) 堺の港 -


「欧仙殿は奇々怪々過ぎます」


 境港では、三好元長さん出家して名を改めた三好海雲さんが出迎えてくれた。そうそう。細川晴元(もう「くん」付けない)と三好海雲さんで興した堺幕府(仮)だけど、担ぎ出された足利義維さんが阿波(徳島)に逃げたことで一応消滅したんだ。

 で、三好海雲さんが摂津を取り戻したことで復活させるかな?と思ったけど、そうはならなかった。組織の長と軍を差配する人間はいても、組織を仕切っていたのは細川晴元なので、彼が抜けたことで組織として成り立たなくなったのだ。

 なにより、軍を仕切る三好氏も一枚岩出ないことが露呈しており、三好海雲さんは早急に一族の引き締めを行う必要があったからだ。


「さて、海雲さまはそれがしに何を所望でしょうか?」


 海雲は諱じゃないからそう呼んでもセーフ。


「さすが欧仙殿は話が早くて助かる」


 三好海雲さんは嗤う。この悪い笑いは金策かな?夏前の一向一揆で発生した人手不足をウチの千歯扱きを大量に買うことで緩和させることが出来たとはいえ懐は寒いハズだ。


「今年の東はチョットした冷夏でな。米が1.6倍で売れてる。一枚噛まんか?」


 そういって三好海雲さんは『角盤』と『角盤』に随伴してきた2隻の宇夜弁うやつべ級の『赤龍』と『蒼龍』を見る。ちなみに、宇夜弁うやつべ級というのはキャラック船のことで、現在10隻ほどが就航。さらに小型のキャラック船市杵島いちきしま級に至っては20隻ほどが西日本の沿岸を航行している。将来的には角盤級1宇夜弁級2市杵島級4の7隻で艦隊を組む予定だ。


過所船旗かしょせんきはないのです?」


 過所船旗とは、船首とかに掲げて「地元の水軍に通行料を払ってます」を証明する旗差しだ。


「紀伊(和歌山、三重南部)の水軍には雑賀一向衆が噛んでる。大坂本願寺を落とした三好に過所船旗かしょせんきなど出さんよ」


 三好海雲さんは自嘲気味に笑うが、ああそうか、雑賀の一部は一向衆か。一向宗か・・・一向ふふふふ


「ど、どうした欧仙殿。黒い靄が、くっ」


 三好海雲さんが唸る。


「ええ、売って来ましょう。輸送と手間賃は然るべきところから頂きますから、ええ。心配無料もとい無用ですです」


 俺はニッコリ笑って三好海雲さんの依頼を承諾した。


 - 紀伊半島沖 -


「左舷。関船2隻小早15艘。距離3000」


『角盤』のメインマストで周辺の監視をしてた船員が叫ぶ。


「一方的かな?」


「まー余裕でしょう」


 俺の言葉に、隣りにいた『角盤』の艦長を務める龍造寺周家さんが答える。


「余裕か・・・」


「はい。『三国崩し改』の射程なら一方的です」


『角盤』の実戦投入は初めてのハズだが、龍造寺周家さんが大きく胸を張る。どうやら自信があるようだ。


「じゃあ、戦闘旗を掲げようか」


「了解です。戦闘旗掲げろ」


 龍造寺周家さんが叫ぶのと同時に『角盤』のメインマストに縦3m横6mの黒地に、S字を描く二本の鎌と白い頭蓋骨がシンボルとして染め抜かれた旗が掲げられる。時代を200年ほど先取っているが、どこからどう見ても立派な海賊旗である。


「かっけー」


 近くにいた島津貴久くん島津又四郎くん兄弟が感嘆の声を上げる。目なんてキラキラだ。


「海上での白兵戦は無いが、その後の拠点制圧にはひと働きして貰うから、準備よろしくな」


「「はい」」


 兄弟の声がハモる。あれ?もしかして又四郎くんにとって初陣だよね?身体は鍛え上げているから12歳にしては体格は出来ているが。


「なあ貴久。これは又四郎の初陣かな?」


「うーん。どちらかといえば実戦練習でありましょう」


「そうです師匠。これは兵としての実地地訓練です」


 俺の問いに島津貴久くんと島津又四郎くんははっきりと否定する旨の答えを返す。まあ、本人がそうだと言うならいいだろう。


「判った。今回の訓練の結果次第では、御屋形様にお願いし、来年に俺が烏帽子親となってやろう」


 俺は景気つけに発破をかける。


「それは誠ですか!」


 島津又四郎くんのテンションが爆上がりである。おっと変なフラグは立てたらいかんな。


 そして程なく『三国崩し改』の射程に関船2隻小早15艘が入ってくる。


「左舷のみ・・・放て!」


 龍造寺周家さんが近くにあった鉄の筒に向かって、号令を下すと、『角盤』の右舷が火を噴く。その音を追いかけるように『赤龍』と『蒼龍』からも咆哮が上がる。当然のことだが、『赤龍』と『蒼龍』にも1門少ないが『三国崩し改』は搭載されているのだ。


 どぱん。

  がかっ。

     どぱん。  がかっ。

 どがっ。     どぱん。                      どぱっ。


 次々と水柱が上がり、粉々になった小早の破片と人だった何かが空中に巻き上げられる。なにか一発、とんでもなくハズレたのがあったな。


『弾込め完了しました』


 鉄の筒から声が返ってくる。


「放て!」


 龍造寺周家さんが再び号令を下す。再び轟音が鳴り響きわたり辺りを支配する。


 どぱん。     がかっ。   

     どぱん。  がかっ。

 どがっ。     どぱん。                           どぱっ。


 次々と水柱が上がり、粉々になった小早の破片と人だった何かが空中に巻き上げられる。そし外した奴は楽しい楽しい再特訓だな。

 そして、3隻7門の『三国崩し改』。2射するだけで船は散り散りに逃げだすのであった。

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