第128話 関東享禄の内乱

- 土佐(高知) 山路城 -


「でな、武田が江戸城を落としたことで南から攻められる心配がなくなった古河公方と山内上杉が内輪で大喧嘩よ」


 司箭院興仙さんが呵々と笑う。俺は話が長くなるのを察し、大豆コーヒーの準備を始める。石見(島根西部)で大豆コーヒーを流行らせて随分経つが愛好者はあまり増えていない。まあ、大豆を焦がしてお湯に溶いて抽出した苦い液体だもんな・・・


 今回の古河公方でのお家騒動は、1528年(享禄1年)に古河公方の足利高基の嫡男である足利亀若丸が元服し足利晴氏を名乗ったことを機に父親である足利高基との間で始まったという。

 既に実弟である足利晴直(上杉憲寛)が元服し山内上杉氏の養嗣子になって関東管領職に就いて焦っていたのが原因なのかどうかは知らない。

 武田信虎が江戸城を占領して暫くして、足利晴氏が父親である足利高基の住む下総(千葉北部、茨城南西部、埼玉東辺、東京東辺)の古河城を攻撃する。

 この攻撃は完全な不意打ちであり、足利高基は下野(栃木)の小山政長を頼って祇園城へと落ち延びたという。


 それと時を同じくして山内上杉氏で起こったのが、先代の関東管領である上杉憲房の嫡男である上杉五郎を支持する成田氏を筆頭とする一派による上杉憲寛の追放だ。先に述べたように、上杉憲寛は当時子供がいなかった上杉憲房の養嗣子となって山内上杉氏に入ったのだが、その上杉憲房に嫡男の上杉五郎が生まれた。本来なら、上杉憲寛は養嗣子を解消して足利氏に戻るはずだったのだが、養嗣子を解消する前に上杉憲房が急死してしまう。

 上杉憲寛は幼い上杉五郎の代わりとして関東管領の職に就くのだが、それが成田氏を筆頭とした上杉五郎派には気に入らなかったのだろう。今回の追放劇となった。

 前年に、山内上杉氏として父の足利高基や兄の足利晴氏と敵対していた上杉憲寛にしてみれば泣きっ面にハチの出来事である。実家に戻ることも出来ず、上総(千葉中部)の宮原に真里谷信政を頼って落ち延びたという。


「これに乗っかったのが、小弓公方である足利義明じゃ」


 司箭院興仙さんは話を続ける。この山内上杉氏のお家騒動に、小弓公方である足利義明が介入してきたという。ちなみに小弓公方というのは本人の自称らしい。

 足利義明にしてみれば、実の兄であり不倶戴天の敵である足利高基と袂を別けて自分に味方してくれた可愛い甥っ子の追放劇には我慢できなかったようで、即座に軍を起こし山内上杉氏の拠点である菅谷館を攻め、上杉五郎とその一派を追放してしまう。

 で、この動きに喜んだのが足利晴氏。渡りに舟とばかりに菅谷館にいた足利義明を討伐。足利義明は自刃して果てたという。

 何というか、物凄い勢力のドミノ倒しである。まあ、北条という南からの脅威があったからこその均衡だったので仕方ないと言えばそれまでなのだが・・・

 頭領である上杉五郎が行方不明になった山内上杉氏の領土は、北は越後(新潟本州部)の長尾氏に南は甲斐(山梨)の武田氏と扇谷上杉氏によって切り取られていった。

 そして後顧の憂いのなくなった足利晴氏は、祇園城に落ち延びた父親である足利高基の身柄の引き渡しを求めて小山氏との対立を深めているという。


「このお家騒動に刺激されたのが常盤(茨城の大部分)の佐竹じゃな」


 ずそそと大豆コーヒーを啜る司箭院興仙さん。


 現在、常陸で一大勢力である佐竹の頭領は佐竹義篤。流行かな?足利晴氏、上杉憲房、上杉五郎に続き、彼もまた若くして家を継いでいる。元就さまの一族もそうだな。で、その若さ故に周りの年寄りにいいように操られ、それを見た身内が反発したり自身が暴発して戦争を呼ぶ。

 佐竹氏では佐竹義篤と弟の宇留野義元の間が拗れた。宇留野義元が部垂城を攻撃して落としてしまう。それに呼応して常盤の北にある陸奥(青森、岩手、宮城、福島、秋田北東部)の国人である岩城由隆と南の常盤南部の国人である江戸通泰が歩調を合わせて佐竹領内に攻め込んできた。弱り目に祟り目なのか、三氏による共同歩調なのか、常陸は混乱に陥った。

 この混乱に佐竹義篤が頼ったのが日本のハクスブルグ家※1もとい戦国のビックダディ。いやハーレム王いや梁川の種馬である伊達稙宗(かの独眼竜伊達政宗の曾祖父にあたる御仁)。

 彼の伝手を使い、北の岩城由隆、南の江戸通泰と和議を結ぶと、宇留野義元を攻めた。

 途中、空気を読まず反旗を翻した佐竹一族の高久義貞を討ち滅ぼすと、庶兄の今宮永義と共に宇留野義元を降伏させる。

 大雨降って地固まるだろうか?常陸は一気に安定する。


 まあなんだ、簡単に言うと武蔵の北半分が古河公方と扇谷上杉氏、武田氏によって分割され、上野が長尾氏と武田氏と扇谷上杉氏によって分割。

 常盤が佐竹義篤によって安定化したという話である。

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