第118話 宇都宮氏の臣従
「(河野)太郎殿、来島城に逃げちゃたの?」
苦虫を纏めて噛み潰したような顔をして、上陸作戦が失敗したことを村上義雅くんが報告してくれる。「河野太郎って与党の政治家かよ」と心の中で盛大に突っ込みながら聞いてみると、なんでも、意気揚々と船団率いて港山城まで進軍したけど、一足違いで守るハズだった河野通直さんが来島村上氏の頭領である村上康吉さんと一緒に来島村上氏の本拠地である来島城に遁走したらしい。
これは洒落にならない。
「で、殿 (まだ屋形号の許可はおりていない)は一旦作戦の中止を指示したと・・・うん」
来島城来島全土を要塞化した堅牢な砦だから、すぐに救援する必要は無いと判断したわけね。しかしそうなると四国侵出が大きく遅れるなあ。
こんこん、がたん
掛け軸から音が響き、世鬼煙蔵さんが姿を現す。突然のことに村上義雅くんのあごが盛大に下がっている。忍者のカラクリ屋敷の仕組みを見るのは・・・まあ初めてか。
「首領。宇都宮清綱が毛利への臣従を承諾しました。明後日には広島城に宇都宮の使者が来ます」
村上義雅くんを無視して世鬼煙蔵さんが報告事項を告げる。ふむ。四国で最初に時勢を読んだのは宇都宮氏か。宇都宮氏が拠点にしている地蔵ヶ嶽(大洲)城は、伊予(愛媛)の南北を結ぶ大洲街道と宇和島街道を結び、西には土佐(高知)を結ぶ街道が、東には八幡浜の港を擁する伊予の交通の要にある城だ。もっとも、北に河野氏、南に西園寺氏、東は海を隔てて毛利氏、西に山を隔てて土佐一条氏が存在するという割とスリリングな場所の国人でもある。
「しかし村上殿。よかったですな」
俺の言葉に目が点になっている村上義雅くん。
「宇都宮が臣従したことで毛利は安全に八幡浜に上陸ができ、そこから北へ河野を攻めることが出来る」
村上義雅くんの顔がぱっと輝く。
「煙蔵は西園寺と一条に使者を出すので用意をお願いします。俺は殿に進言してきます。村上殿は出撃の準備を」
「「承知しました」」
世鬼煙蔵さんと村上義雅くんがさっと立ち上がり部屋を出ていく。うむ。よかった。このまま掛け軸のどんでん返しを追及されなかった。どんでん返しは気のせいだと突っぱねることにしよう・・・
足早に広島城へと登城し、元就さまとの謁見を希望。僅かな時間を待っただけで謁見にこぎつけた俺は、静かに元就さまに頭を下げる。
「御伽衆から連絡がありました。伊予の宇都宮がこちらに臣従するそうです」
ゆっくりと頭を上げる。
「それは重畳。で、お前のことだ何をする?」
元就さまが目をすっと細める。この辺はすっかりお見通しである。
「この際です。宇都宮領から四国に上陸し、河野家臣を〆つつ西園寺と一条を黙らせようかと」
「利点は?」
「伊予別子に巨大な銅山があります」
元就さまは俺の言葉を吟味するかのように考えこむ。
「お前が言ったように薩摩には金山があった。伊予の銅山もあるのだろう。いいだろう手紙はすぐに用意しよう。3000あれば足りるか?」
「はい。そうそう
村上義雅くんのフォローをお目買いする。
「失態は河野と来島の村上だが、そうだな。考慮しよう。あとは希望を募ることにしようか」
元就さまは「ふむ」と唸る。
「御意。では」
俺は行動すべく席を立った。
- ☆ -
三日とせず伊予侵攻作戦の準備が整った。まあ、村上義雅くんが湯築城への後詰めのために用意した物資の諸々が、ほぼほぼ流用できたのが大きいかったんだけどね。
「此度の遠征の総大将を務める井原常陸介です」
紅蠍型兜に紅緋色威鎧という、どこぞの仮面の改造人間が主役であるヒーローモノに出てくる悪の組織の大幹部みたいな風貌の井原元師さんが頭を下げる。
だめだヤバイ。ヤバすぎる。いつみても井原元師さんのヨ〇イ元帥姿は腹筋への破壊力があり過ぎる。笑うのは俺だけというのもキツイ。
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
そういって頭を下げるのは村上義雅くんと島津貴久くん。少し遅れて乃美賢勝さんと肝付兼興さんも頭を下げる。ちなみに井原元師さんには俺が、村上義雅くんには乃美賢勝さんが、島津貴久くんには肝付兼興さんが副官として補佐する事になっている。
「今回は地蔵ヶ嶽(大洲)城を起点に北へ、湯築城からは東へ讃岐(香川)に到達します」
「い、伊予を縦断するおつもりですか?」
乃美賢勝さんが顔を引き攣らせる。うん?無謀なこと言ってるかな?
「兵站は瀬戸内水軍に差配させるし、なんなら西海水軍も動かしますよ」
そういうと乃美賢勝さんは安堵のため息を漏らした。いや、腹が減っては戦は出来ないから、兵站は万全に整えるよ。
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