第103話 阿輸迦(アソカ)作戦 大友義鑑、本拠地を落とされたことを知る
1528年(大永8年)6月
- 豊後(大分南部) 西山城 -
「反省会を行います」
俺が宣言すると、今川貫蔵さんと日祖徹男と
なお、この三人はこの度の戦で畝方が投入した兵、艦、技術の責任者である。
「夜明け前の一番暗い時間帯での上陸作戦は、事前の訓練のお陰で問題はなかったのですが、手の内がバレたので今後はもっと早く展開できないといけません」
「いまのところ小舟を甲板から海面まで降ろすまでの時間を短縮するぐらいしかないな」
今川貫蔵さんの指摘に俺はそう返す。
「喫水線の低い船は用意できないアルか?」
「上部が重い船はちょっとした波で転覆しやすくなります。かと言って上陸用だけに平らな船を用意するのは違うような気がします」
橙月姫さんの問いに日祖徹男が返す。
「手口がバレたのです上陸用の小早を随伴させるのは?」
「移動する距離が短いなら手ではあるな」
日祖徹男の問いに今川貫蔵さんが返す。
「なあなあ、首領さん。新兵器の投入機会はないアルか?」
橙月姫さんが上目遣いに聞いてくる。「ないなのかあるなのかハッキリしろ」というお約束が喉まで出かかるがなんとか堪える。ちなみに、今川貫蔵さんの影響か、彼女も俺のことを首領呼びする。
なお新兵器というのは、今川修理大夫(氏親)さんから貰った緩発式火縄銃を、バネ仕掛けで素早く着火させる瞬発式火縄銃。いごよさん(1543年)に伝来する南蛮の新式火縄銃に近い銃。火皿と着火部分の改良だけだったんだけど、ずいぶん時間がかかった。とりあえず10丁ほど持ってきている。
あと、1332年に中国で発明されたという直径10センチほどの丸い石を打ち出すための青銅鋳造の火砲を鉄で再現した火砲が1門。これは
「鉄砲と火砲は、城を取り返しに戻ってきた大友の隊に使う予定なので出番はあると言っておきます」
「ああ、出番は用意されているアルか。ならいいアルよ」
橙月姫さんはにへらと笑う。間違いなくマッドな科学者の顔だ。触らぬが吉だろうな。
- 豊前(福岡北東部から大分北部)香春岳城 -
- 三人称 -
香春岳城を包囲していた大友義鑑は、予想以上に早く大内義隆軍が兵5000を率いて姿を現したことに驚愕していた。
「長増よ。こうも早く大内本隊が来るのは、流石に想定外なのだが?」
額に三日月状の傷を残した大友義鑑は隣に立っていた吉岡長増をジロリと半眼で睨む。ふたりは、大内義隆がほぼ1年をかけて筑前の主要幹線道路を整備していたことを知らない。
大内義隆自身「領地を豊かにするには田んぼと道を整備せよ」というのを人質だったときの畝方領で学んでいて、それを実行したに過ぎないのだが・・・
「修理大夫さま一大事にございます。西山城が、毛利軍に占領されました!」
「「「「はあ?」」」」
陣幕内に飛び込んできた伝令兵の言葉に、大友義鑑以下、陣内の武将の間に間抜けな声が響く。
「勘違いでしたでは済まないぞ!」
加判衆である臼杵長景が叫んだあと大きく咳き込む。同じ加判衆の斎藤長実が「大丈夫か」と臼杵長景の背をさする。
「俄かには信じられん」
大友義鑑は渋い顔をする。
「なら、
臼杵長景が咳き込みながら手を挙げる。
「おい。毛利の兵は?」という臼杵長景の問いに「およそ3000」と伝令兵はおどおどしながら答える。
「ふざける、げほげほげほ」
臼杵長景は大声で叫んで更に大きく咳き込む。
「ふん長景。兵3000を率いて毛利を名乗る海賊を討て」
大友義鑑の言葉に臼杵長景は「はっ」と短く応えて陣幕を出ていく。
「父上」
臼杵長景の嫡男である臼杵鑑続が心配そうに声を掛ける。
「おお太郎か。これより兵3000を率いて西山に戻るぞ」
「西山に?」
「西山が、毛利を名乗る海賊に占拠されたらしい」
「それは誠ですか?」
臼杵鑑続は顔をしかめるが、それを見て臼杵長景は笑う。同僚である斎藤長実から、こういう顔が親子ともどもよく似ているという話を思い出したからだ。
「まあ海賊などすぐに蹴散らして帰ってくるわ」
かっかっかっと笑いながら臼杵長景は臼杵鑑続をつれて自分の陣に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます