第71話官位を貰う

 三好元長さん。現管領である細川高国の対抗勢力のトップ。というより、戦国時代に数ヵ国を領有し足利将軍を擁して天下の実権を握った天下人の一人である三好長慶の父親にあたる人物といった方が通りが早いかな。


「正直こんな場所でお会いできるとは思いませんでした」


俺は僅かに苦笑いを浮かべながら頭を下げる。


「ほお、それがしの事情をご存知とはそれはちょっと嬉しいですな」


 三好元長さんは嗤う。そう笑うではなく嗤う。


「それで、阿波の御大が安芸の田舎者に何のご用事でしょうか?」


 とりあえず卑屈にお伺い。少しでも機嫌を損ねるとヤバイと思ったからだ。


「畝方殿は毛利家でどれくらいの権限をお持ちか?」


 三好元長さんが聞いてくる。

 俺の仕事は、第一は御伽衆という情報機関のトップなので情報操作もお手の物だ。最近は筑前(福岡北西部)、長門(山口北西部)、周防(山口南東部)、伊予(愛媛)の国人を揺さぶっている最中である。

 第二は石見(島根西部)にある矢滝城とその一帯の統治。第三は石見銀山の開発。第四は毛利領の農地開発。第五が商業振興。第六が船舶の建造管理。第七が山陰と明の貿易だ。

 過労死レベルだど思うだろうけど、この辺はチートのように習得できるスキルや称号がガンガンにいい仕事をしてくれているので大丈夫。あと、学校を作って良かったよ。1年もすれば使える文官が出てくる予定だ。


それがし、色んな意味で殿の御用聞きなので権限はありませんな。毛利と尼子の連絡係だったり国人みたいなこともしていますが」


「そうでありますか・・・」


 しょんぼりと顔色を変える三好元長さん。


「あ、殿に直接の進言が赦される分、他の方よりは早く情報は上がりますが?」


 その言葉に三好元長さんの顔色も僅かに戻る。


「では、毛利殿にこの手紙を。内容は、山陰と瀬戸内海の過所船旗かしょせんきの発行依頼です」


 三好元長さんのその言葉に、今日彼がここにきた理由を悟る。過所船旗は、海上航行の際に船首などに掲げて水軍に通行料を払っているということを示す海上通行証のことだ。これが無いと敵対勢力からひゃはーされてしまうという大事なもの。毛利氏の場合、瀬戸内海を航行する際は家紋の「一文字に三つ星」と最近傘下に収めた来島、因島、能島の村上水軍旗が掲げられている。

 山陰?「一文字に三つ星」の船を襲える船なんてないよ。そして依頼に関して言えば、山陰航路は裁可して問題ない案件だった。


「承りました。必ずお届けいたします」


「それはありがたい」


「筑前守さま畝方さまもてなしの準備が整いました。こちらにどうぞ」


 武野信久さんがそう提案してきたのでご相伴に預かることになった。


- 京 某所 -


「お喜びください、三四郎殿。朝廷より、毛利殿に從五位下右馬頭と分郡安芸守護代が内示されました。ついでに三四郎殿は正七位上石見介となられました」


 逍遙院さんがにこにこしながら、そう告げた。

 え?と聞き返すと、どうやら朝廷工作の際に逍遙院さんがこっそり手を回していたらしい。ちなみに俺の石見介は国司としての石見守の次に来る朝廷での官吏の官位。有名な○○介といえば織田信長の上総介だろうか?

 ちなみに武家社会では全く価値の無い肩書だ・・・と思う。

 あと、元就さまを安芸の分郡守護、確か安芸武田氏が貰っていたのと同じ役職に、尼子三郎四郎くんを通して尼子経久さんを出雲守に任命するよう幕府に働きかけていて、これもほぼ確定しているとか。


それがしが近い将来に畝方石見介元近ですか」


「手紙にはそう書いてくださいね」


「何か偉くなったような」


「実際偉くなったのですよ。石見介殿」


 逍遙院さんがにこにこの度合いを深める。


「欧仙。お主に限っては、幕府にお伺いをする手間もなく既に石見介じゃ」


 隣りにいた司箭院興仙さんが悪い笑いを浮かべぱんぱんと手を打つと、一人のお公卿さんが姿を現す。お公卿さんは俺の上座に座ると書状を取り出す。


「畝方元近。従三位藤原朝臣稙通より宣る。勅を奉るに、件人宜しく正七位上石見介に任ずべし者なり。大永5年1月26日。大外記兼助教清原朝臣業賢奉る」


 そう言って書状を俺に渡す。・・・あ、正式に元就さまより早く官位貰いました。

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