死神討伐、レイド・イベント【幕間】

【“業剣カルマ”】

「ぐぁっ――! お、俺の筋力を、上回って――!」


 筋骨隆々とした大男さえ、単純な力比べで押し負ける。

 大剣に縦真っ二つに両断され、惨劇を見せんとばかりに即座に消え去った。


 これにて、2日目終了。


 初日から続けている個人戦を繰り返す戦法は、未だ通用している。

 が、さすがに2、3人程度の顔見知りで組み、コンビネーションで攻める戦法を企てるチームも現れ始めたが、その程度なら些事にもならない。


 だがさすがに、いくつかスキルを要さなければならなくなってきた。

 レイドイベント仕様ということで、こちらにはほぼ無尽蔵と言っていいMPが与えられているが、節制することに無意味ということはないだろう。


 何より、このレイドイベントのために女神と死神とで創り上げたスキルを、早々に見せてしまうのは余りにももったいない。

 創造主らが文句を言っても対応しないしさせないタイミング――具体的には6日目以降。早くとも、5日目後半に披露する形にしたいところだが、今のところ、心配の必要もなさそうだ。


 残り、120時間を切った。


≪ご主人様には準備運動ウォーミング・アップにもなってないよね≫

〖ここまでは、ね〗


 序盤でやって来るプレイヤーなど、所詮は数で押せると侮って来る低レベルプレイヤーだ。

 中堅のプレイヤーや高レベルのプレイヤーは、大抵後半にやって来る。

 序盤は、先に挑んだプレイヤーやチャット掲示板などから情報を収集し、対策を立ててくる。

 遅くても、4日目以降からは参戦して来るだろう。


 本番はここから、と言っても過言ではない。


〖まぁ、高レベルプレイヤーは元々、死神の強さをよく知ってるはず。だからこそ、私達の作ったスキルは、彼らにこそ使いたいところね〗

≪それこそ、あの2人とか?≫


 アルタイルとベガ。


 現在最高レベルを誇るこの2人。

 死神を唯一追い詰めるだろう可能性を秘めた2人は、確かに一番の脅威と言えるだろう。

 だが、女神は首を傾げて唸る。


〖彼ら相手には、返って奇をてらわない方が得策かもね。今まで2人だけで挑んできたから、大所帯も一緒になっての戦闘はそこまで経験ないでしょうし。むしろ今まで通り戦った方が、彼もやりやすいと思うわ。尤も、2


 まぁそれを言うと、彼らがこのイベントに出てくるのかさえ疑わしい。

 普段と違う環境下。他のプレイヤーと組んで挑んできたこともない彼らが、果たしてこの状況で挑んで来るだろうか。


 仮に挑んできたとしても彼らにはやりにくい戦況だろうし、実力を充分に発揮することは難しいだろう。

 彼らの戦法は、普段から心通わせている真の相棒だからこそ出来るものであって、その場にいる人間が急遽参加できるようなものではない。

 むしろ参加されても邪魔になるだけ。彼らの実力を発揮できないまま終わることは必至。


 プレイヤーの実力がレベル、及び各種ステータスという形で数値化されている以上、プレイヤーの中で最高値の2人に依存した戦法を取るだろうことは、目に見えている。

 強者にはすがり、弱者にはたかる。それが知恵を持った唯一の生命体。創造主ら人間という種族の特性ならば、確実にそうするだろうと、女神は考えた。


〖皮肉な話ね。最強だからこそ邪魔になる。最強に縋って、頼る結果、足を引っ張ることになる。だからあの2人にとって、周囲のプレイヤーは雑兵どころか邪魔でしかない。足手にまとわれるくらいなら、枷になられるくらいなら、最初から出てこない方がいいのよ〗


 と、考えているのだが、見当違いの結果になる可能性も、なくはないだろう。

 こちらの知らぬ手段で連携されるかもしれないし、2人にも何か隠し玉があるかもしれない。

 可能性はあくまで可能性の域を出ることはなく、断じることは出来ない。


 故に女神としては、2人に出てくるなと思っているのだが、さて――


〖まったく。知恵じゃなくて、勝利を司る女神だったらよかったのに〗

≪なんで?≫

〖……勝利の女神はね。笑うだけで、勝たせたい方を勝たせられるからよ〗


 まぁ、そんな仕様に創られていたなら、それこそ批判も非難も避けられず、創られて早々、データを改竄かいざんされていたかもしれないが。


 だが、勝利など司っていなくとも、死神なら勝つと信じている。

 あれこれ考えているものの、勝利する未来しか見えていない。


 何せ目の前の扉が、死神以外の誰かによって開けられたことは、一度としてないのだから。

 それでも心配なのは、果たして杞憂か虫の知らせか。


 女神の振るダイスの目は未だ出ないまま、回り続けている――

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