死神・レイド

レイド・イベント

 某国が解き放った騎士の形をした怪物による騒動が終息し、ひと月。


 『Another・Color』各国運営は全プレイヤーに詫びの品を用意し、課金による損失をカバーするためのアイテムを用意する、もしくは返金するなどあらゆる処置を取ったが、今度の騒動で大きく信頼を失い、完全に引退するプレイヤーも続出。

 運営開始から今日こんにちまで、絶えず黒字続きだった『Another・Color』は、初めてにして絶望的な赤字となった。


 結果、運営に求められたのは失った客と、低迷した『Another・Color』の評判を取り戻すためのアイデアだった。


  *  *  *  *  *


〖それが、死神討伐レイドイベントってわけ〗

『そうだ』


 レイドイベント。


 HPも攻撃力も、各ダンジョンの最奥に君臨するボスを遥かに超える巨大モンスターを倒すべく、全プレイヤーが協力して挑む討伐イベント。

 参加は自由で、イベント期間中に与えたダメージや貢献度などで貰える報酬が変わってくる。


 それこそ、1人から1000人まで相手してきた死神には特別変わりないと思うかもしれないが、普段のイベントと違う点を、少なくとも3つ、女神は指摘出来た。


 1つは、期間中絶えずプレイヤーが挑んで来ること。

 戦いに区切りはなく、休息もない。ただひたすら、死神は戦い続けることとなる。


 2つ目に、1度に相手するプレイヤーの数が確定されておらず、倒したとしてもすぐさま再戦されることもあるし、より強い装備を整えてから挑んで来ることもあるだろう。


 3つ目に、これが女神としては一番重要なことだ。

 死神には、何1つとしてメリットが存在しない、ということだ。


 戦闘に限りはなく、区切りもなく、休憩も休息もない。

 絶えず自分の命を狙い来る攻撃が、刃、魔法、召喚獣。あらゆる形で襲い来る。

 遠慮も躊躇もなく、仮初の命だからと狩りに来る。


 期間は1週間。

 時間にして168時間――普段の42倍にも及ぶ時間、戦い続けなければならないわけだ。

 時間帯によっては、1度に相手する数も変わるだろうが、全世界各国の時差を考えれば、常時100人を下らないと考えていい。


 168時間、絶えず命を狙われる。

 命を狩る武器を、攻撃を向けられる。

 創造主らでさえ、置かれれば混乱は免れない状況下に何故、彼らの都合で置かれなければならないのか。


 そこまでして、彼らは死神に死んでほしいのか。


 奇しくも女神は、死神と同様に最初の感情として憤怒を覚える。


 彼らに利点があって、こちらには何もなく。死神はただ、与えられた役目を全うしてきただけだというのに、強過ぎると批判され、今度はその強さを逆手にとって、今まで無敵だった死神を倒せるチャンスとしてイベントを設けられる。


 現実世界において、死神は一体どんな存在なのだ。


 現実では晴らせぬ怨み、鬱憤をぶつけるための的か。

 的に返り討ちにされるから批判し、非難するのか。


 寄って集って、攻撃し続ければいずれ倒せるなどと、人工知能の演算を使わずとも思いつく単純計算。

 死神がこの戦いに無事生還できる可能性は、酷く少ない。


『応じなければ、おまえ達のいる世界が崩壊する。おまえ達のいる世界、『Another・Color』というゲームそのものが無くなれば、用済みのおまえ達はどうなるだろうな』


 下手な脅しだ。


 他国が競ってくるような人工知能を、おいそれと捨て置くことなどするはずもない。

 スーパーコンピューターに組み込まれるか、他国のセキュリティーを突破してハッキングするツールに成り果てるか――可能性は多数あるが、望むような結末はないだろう。


 そういう意味では確かに、下手な脅しと言い捨てることも出来ないか。


『時期は今から20日後を予定している。ヘヴンズ・タワーはそれまで完全に封鎖しよう』

【随分と期間を要するのだな。我々を創造せし賢者ともあろう者達が】

『神は、我々のいる世界を創造するのに、7日要した。それと同じだ。今回のイベント専用に、死神、おまえの決戦場を設ける。おまえに相応しい場所にしてやろう。要望があれば、聞いてやらんでもない』


 それがせいぜいの慈悲か。


 その程度しか、彼らはくれないのか。

 神が7日掛けて齎したものが世界であって、彼らが20日もの時間をかけて施してくれるものは、たったそれだけなのか。


【要望か。では、1つ頼まれてくれるか】

『――何、それは』

【出来ぬ、とは言うまいな】

『……わかった』


 死神が要望を言ったことにも驚いた。

 だが何より、提案した内容に驚かされた。


 通話が切れると、死神は隣にいた女神に視線を配る。

 一瞥ではなく、見つめられているのが気になって見返すと。


【頼みがある】


 と、初めて自ら面を外して、赤い双眸の輝く顔を晒して見せた。

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