vs純白の騎士
vs純白の騎士
死神が大剣を構えると、騎士は巨大なランスを振り回しながら突進してきた。
刺突を主な攻撃手段とする形状でありながら、戦斧の如く振り回して迫り来る騎士の一撃をはね除けた死神の横一閃。放たれた漆黒の閃光が純白の甲冑ごと、騎士を焼く。
甲冑ごと灼熱の閃光に晒されれば、蒸し焼きも同然。だが、現実ならざる世界の怪物に、現実における必然は通用しない。
閃光の中から飛び出してきた騎士はもはや言語機能を失い、理性を失った狂戦士の如く、咆哮高らかに轟かせながら、ランスを振り回して飛び掛かってくる。
直後、仕掛けられていた地雷を踏んで緋色の閃光が炸裂。飛ばされた箇所に仕掛けられていた更なる地雷が炸裂し、飛ばされて、更に次の地雷が弾ける。
知恵を司る女神の権能を用いて、次の落下地点を予見、予測した女神が地雷を仕掛ける無限地獄。今までこの手から逃れた者はない――とは言っても、これが初めてなので、当然のことなのだが。
「毎回参っちゃうマイン――ってところかしら」
【汝の権能はネーミングセンスに関しては働かぬのか。甚だ疑問を抱かざるを得ない】
遠巻きながらダサいと言われて、女神の高度な演算が狂う。
地雷の威力を間違えて計算し、騎士が吹き飛んだ距離よりも短い場所に間違えて仕掛けてしまったため、急ぎ解除。
すぐさま地雷を張るが、逆に突撃の威力を上げるためのブースターに使われる。
【退け】
戦闘経験値なら、計るまでもなく死神の方が上。
女神は気位を捨て、すんなりと前を譲る。
直後、飛び込んできた騎士が繰り出す刺突を受け止めた死神は勢いのままに後退させられるが、弾いた次の瞬間にアッパーカットで下顎を打ち抜き、甲冑にまとわれた見るからに鈍重な騎士を天井高く殴り飛ばした。
更に、死神の追撃は止まらない。
漆黒の大剣を高々と掲げ、漆黒の剣閃を天を衝くまでに高々と伸ばす。
悪魔の絶叫。死神の跫音。創造主らが聞いたことのない空想上の音が絶叫する閃光が、床にランスを突き立てて停止。降り立った騎士の前で黒く光る。
【“
命を焼き尽くす漆黒が、疾く、純白の騎士を呑む。
破滅を司る崇高なる死の剣閃が、世界の中心で天を衝くが如く聳える塔より、作られた世界の最端まで走る。
創造主――つまり運営から、体力が残り一割を切った場合にのみ使用を許された技故、日の目を見ていなかったのだが。
【まぁ、現状での使用もまた、日の目を見たとは言えぬであろうがな】
「……そうね。日の目を見なかったことにした方が良さそう」
“
文字通り相手を確実に殺す即死効果の強い技なのだが、騎士はまだ動いていた。
いや、生き返ったというのが正しいのか。
時間制限内の蘇生薬の投与もなく、スキルも魔法も必要とせず、蘇った。
もはや元より搭載された機能であるかの如く。当然とばかりに立ち上がった。
〖キルキルキルキルキルキルキルキリキルキリリリリリリリリリリリ――!!!〗
生物の咆哮と機械音とが混じったような、機械的かつ怪奇的な音がする。
もはや思考回路がまともに働いているとは思えない。
そも、知能を与えられているとさえ思えない。
【生物を殺すことしか出来ぬ、物の怪の類いか】
奇声とすべきか機械音とすべきか。
もはや単なる殺戮プログラムと化した、騎士型のウイルス。
死神や女神からしてみれば、思考回路を焼かれて理性を失った生物兵器。
加減も調整も知らない破壊が繰り出したただの暴力を、死神は大剣を振りかぶって返す。
刺突が
「死神……」
女神と死神の間で、一瞥程度のアイコンタクトが交わされる。
自らをも破壊しかねないほど震えながら吠えて、ウイルスが迫り来る。
ランスを落としていることなど構うことなく、素手で殴りかかってきた騎士の拳を斬り落とし、お返しとばかりに下顎を殴るが、力を加減してその場に留めさせ、衝撃が純白の鎧を震動し、伝わっている間に大剣を振りかぶって、先ほど繰り出した漆黒の剣閃を構えた。
〖しっししっし! 死が! しぃにがぁぁぁぁぁぁぁっ――!〗
【“
純白は再び漆黒に呑まれ、騎士の五体は灰燼と帰す。
しかしすぐさま蘇生――再生され、復活する。
もはや死神の施す仮初の死さえ超越し、意味がないと言わんばかりに立ち上がってくる。
が、死神に折れる心はない。
後方で、女神が演算をしているからだ。
今までにない事象故に手間取っていたようだが、さすがは知恵を司る女神。
すでに演算は、この戦いを終わらせる方法は、導き出したようだが。
顔色が優れない。あまり、いい結論には至らなかったようだ。
【演算結果を提示せよ】
「……極めて単純よ。それが消えるまで殺し続ける。ただ、それだけ」
【なるほど。確かに言われるまでもなく、至極単純な結論。一度殺して死なぬなら、死ぬまで殺し続ければ良いだけであるか――重畳】
もう何度目になるのか、重ねる咆哮。
もはや寂寥さえも覚え始めたが、容赦はない。
殺すことしか出来ぬウイルス兵器と化した破壊の権化に、同情したところで何になる。
それこそただ破壊の限りを尽くし、殺戮の限りを実行し、何もなくなれば、最期には自壊するだけの傀儡なれば、ここで確実な死を与えるのみ。
「大丈夫? 残りMP、どれだけ残っているの?」
【……さすがに、酷使し過ぎたらしい。すでに半分は使い切っている】
そしてそのことをわざわざ口答で説明するよう求める辺り、女神も今の演算にかなりの要領を使ったようだ。
相手はプレイヤーに非ず、外界より投じられた未知の存在。中身を探るにも、時間も手間も要領も、厖大な量を必要としたのだろう。
皮肉にも、死神もまた同じ。
つい興奮して、平静を保つことを忘れて使わずとも良かったかもしれない大技を連発してしまった。
それでも尚復活してくるのだから、本当に質の悪い。
【して、女神よ。あれは後、何度殺せば死に果てる】
「正直に言って、わからないわ。本来の耐久スキルでもなければ蘇生薬の使用でも魔法でもないから。でも一度の蘇生で、かなりのMPとHPを消耗しているはず。私の演算通りなら、おそらく後、14回」
【……なるほど】
ランスを拾い上げた騎士が再び迫り来る。
より巨大な瓦礫を選んでランスで弾き飛ばし、死神を撹乱せんと飛ばしてくるものの、死神は大剣で軽くあしらって叩き落とす。
その隙に懐に入り込んだ騎士のランスが、死神の胸ぐらに刺突を叩き込もうとした瞬間、大剣から二刀の漆黒刀へと変えた死神の連続斬りが、騎士のランスよりも先に届き、衝撃は騎士を吹き飛ばす。
踏み止まった直後、鎌へと変えた死神の薙ぎ払う一閃が、騎士の首根を刎ね飛ばした。
【これで13……まだ死に足りぬか】
「油断しちゃダメよ。私もなるだけ援護するけれど、正直私の私の手持ちのリソースだと、あれを仕留めるには至らない。あなたの一撃だけが、あれを屠るに至るのよ」
【承知。なればすべて、奴を屠るための一撃として集約するのみ】
首の繋がった騎士は唸る。
与えられた知識の上でしか知らないが、さながら二輪自動車のエンジン音のよう。
そう思うと、奴には与えられた知性のすべてはすでに、一切残すことなく抹消されたと考えるのが、妥当なのだろう。
【来るが良い。殺戮に意味を持たぬ獣よ。喰らうことさえせず、屠ることしか脳にない憐れな殺戮者よ。汝の与える死がただの暴力なれば、我の与える死は断罪。心して掛かれ。屠ると殺すとでは、意味合いが異なることを知れ】
死神と騎士の戦い、再開。
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