序章 その7
「ちっ!……調子に乗ってんじゃねえぞ、動物がああ!」
天歌は境内を暴れて走る怪物の背に飛び移ると、刀を山羊の頭目掛けて叩き下ろす。
ガキイイン!
山羊の角に当たった刀が甲高い音を立てて折れてしまった。
怪物は激しく暴れて背中に取りついた天歌のことを振り落としてしまう。
地面に投げ出された天歌はすぐに起き上がった。それと同時に彼は素早く駆け出さなければならない。山羊が大きく口を開き、今にもあの火炎を吐き出そうとしていたからだ。
「焼かれてたまるかよッ!」
天歌は火炎の息をスライディングでかいくぐった。怪物の腹の下にもぐりこんだ彼は左腕を伸ばして、山羊の下あごを鷲づかみにした。
彼は片手で懸垂するように左腕の力だけで浮かび上がると、右手に持った折れた刀をつかい、山羊の首を掻き切ってみせた。
怪物が断末魔の悲鳴をあげて大地に沈み、天歌は怪物の巨体の下から這い出してくる。
「すごーい。すごいよ、天歌!やったねー!」
大牙の明るい歓声が響く。天歌は彼を見ることなく状況を察した。
あのバカ、酒飲んでやがる。少年は若い首を横に振りながら、獅子の頭を足で押さえつけて、そこに突き立てられたままになっていたサムライの槍を引き抜いた。
「―――おい、大牙」
「なんだーい?」
「テメー、術つかってこのバケモノと合体しやがれ」
「はあ?合体ぃ?……ああ、『合身の術』のこと?」
「名前なんか知らねえよ。アヤカシを手足に封じて、その力を使えるんだろうが?」
「あれはねえ、文献で読んだことがあるだけでー、使ったことはないよー」
「テメーのことだ、どーせ、ここの治療所でも死にかけの兵士で実験していたんだろ?」
「……さあ、どうだったかなー」
「術に関しちゃお前は天才だ。どうせ成功させちまうんだから、今やれ」
「でも―――」
「―――ケガしているとはいえ、百戦錬磨のサムライどもがあっという間に殺されちまった。戦力がいるんだよ、この修羅場を乗り切るにはな」
天歌は槍の穂先を大牙に向ける。大牙はおどろくが、天歌は眉ひとつ動かさない。
「おい、腰抜け野郎。酒で現実逃避してる内にバケモノどものエサになりたいのか?……そんなみじめな死に方させるのはダチとして忍びねえよ。戦力になる気がねえんなら、バケモノじゃなくて、このオレさまがお前のことを殺してやる」
「……あはは。そういうセリフを本気で言っているから、怖いよね。うん……分かった。僕だって、できることなら死にたくはないんだ。それに、君のことも死なせたくないし」
「だったら、さっさとしやがれ。時間は稼いでやるからよ」
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