第8話 しかしヒロ、てめえは別だ

 またイヤミなことを言ってしまった…。


「梅子…」

「ワフッ?」

 フラフラと帰宅し、愛犬の梅子を抱きしめるヒロ。

 何が何だか分からないが、飼い主に構ってもらって嬉しい梅子。ぐるぐる回る梅子の尻尾がかわいい。


「梅子…俺は桜子に嫌われてしまったかもしれない…」

 梅子の顔を両手で包み、真剣な表情で打ち明けるヒロ。

「ワフ?」

意味が分からない梅子。


「桜子……」


 梅子は同じポーズに飽きていた。

顔を包む両手も離して欲しいし、どうせならナデナデしてほしいし、遊ばないのなら放っておいてほしい。この別宅には自分を構ってくれる人間が大勢いるのだから。


「さk…ぶべっ!」

 梅子がヒロを振り払い、尻尾でヒロの顔を殴打して走り去った。


 ヒロは素直になれないヘタレな思春期男子だった。



-------


「クポー!!」


 一方、隣の家ではコバたんが荒ぶっていた。

子供の頃からヒロをライバル認定してきたコバたんにとって、ヒロはもともと気に入らない相手だ。


「コバたん、落ち着いて」

「クポ!」

 真っ白い羽を広げて怒りを表現するコバたん。

「ヒロはコバたんのライバルですものね」

「クポ!」

「ふわふわで真っ白い羽毛はコバたんのチャームポイントなのよ?」

「…クポ!」

 白い羽毛は自慢だが、丸まるとしたボディはコンプレックスなのだ。


 しかしデレ顔で自分をなだめる桜子に抱きしめられると、いつまでも怒ってはいられなかった。


「ふわふわ…」

「クポォ」

「コバたんは世界一可愛いわね」


 このまん丸でフワフワなボディはコンプレックスでもあり、自慢でもある。

 世間から『かわいい~』と、もてはやされるポイントが、このまん丸モコモコな身体であるという自覚はある。

 最愛の桜子が、このフワもこボディを気に入っているのも分かっている。



 しかしヒロ、てめえはクズだ。

絶対に桜子との関係を邪魔してやると心に誓うコバたんだった。

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