第19話 歩みながらの情報交換
ソフィーとエミールは人目を気にすることなく外を歩いていた。
周囲には魔術によって別人の姿として映っているので二人は何の気兼ねもなく言葉を交わしているとエミールは予想外な話を彼女の口から聞くこととなった。
「何故ボクが生き返ったこと知っている……!?」
驚く彼の姿にソフィーもまた驚いていた。
「まさか本当に伯爵の言う通り甦ったと言いますの…?」
「事実だ……だが何故それを彼が知っているんだ…」
「伯爵は普段からホラか与太としか思えない話ばかりしますの。だから あまり深く考えない方が良いですわよ」
「ホラ話?」
エミールが聞くとソフィーは思い出すだけでも呆れるといった様子で語った。
「バビロンの都を見たことがあるとかイエス・キリストに会ったことがあるとか、そんな話ですわ…」
確かに胡散臭い、もし事実なら彼は千年以上生きていることになる。
「他にも
「
「世界を裏から支配している秘密結社のことですわ……その秘密結社の人間が秘密を喋っていて何が秘密なのかしら……」
説明している彼女はまるで眠たそうな瞳のように目を細めた呆れ顔で感想を漏らす。
「ところで今から向かう その教会にはいったい何がありますの?」
話題を変えるようにソフィーは聞いた。
「何も、強いて言うならボロさと古くささがあるくらいだ」
「……ならどうして そんな所に向かっていますの?」
「そこの神父は形骸化した教会の権威を取り戻したそうにしていたからだ。その上、墓の中から目を覚ましたばかりのボクを見て かの救世主と同じような存在と思っていたからな、話せば協力者となってくれるだろう」
「それだけですの?」
「アテが無いんだ地道にやるしかない」
するとソフィーがエミールより前に出て歩みを止める。
「それではカドゥーダルを助けるのに間に合わないですわ」
その名前を言われエミールは記憶をたどり思い出す。
「カドゥーダル?……ああ、地下で戦った……確かナポレオンに気に入られて部下になればカドゥーダル含め部下全員に恩赦を与えると言われたにも関わらず断ったと聞いたな
一人一人処刑されたから、もう部下も残ってないだろ たった一人助けるにはリスクが高すぎる」
エミールに言われソフィーは苛立ちながら返した。
「見捨てますの?」
言われてエミールは淡々と答えた「切り捨てる以外ないだろ」と
すると彼女は苦虫を噛み潰したような表情で黙った。
「合理的かと思えば感情的…どっちが君の本当の顔なんだ」
「五月蝿い…」
どうやら助けるのが無理そうなことは理解しているようだ。
しかし、心が理性ほど聞き分けがないといったところだろうか、それ以上、彼女は追求しなかった。
変わりにまた次の話題を持ち出した。
「……話を変えますが さっき、生き返ったばかりで救世主と同じような存在と思われていたと言っていましたわね」
「ああ…」
不遜な話だ。それに気でも悪くしたのかとも思ったが答えは違った。
「その事についてですけど伯爵がソレに関係するような話をしていましたわよ」
また眉唾物の話かそれとも真実か……エミールはそれを黙って聞きながら教会へと向かっていった。
※
小さくボロく、とても荘厳とも呼べない古びた教会の前まで来ると魔術を解き元の姿に戻る。
そうしてエミールは教会の扉を開いていった。
開かれた音を耳にし神父が入り口へと目を向け言った。
「おお…アナタ様は…」
「どうも、お久し振りです」
世話になった相手だというの何の感慨もなくエミールは声を返し彼にいくつも話をした……
※
話終えると神父は言った。
「今日まで苦労されたようですね……私としても陛下が玉座に返り咲き教会の威光を取り戻して下さると言うのであれば協力は惜しみません」
難しく考えることもなく神父は了承した。ありがたい話である。その上で彼女は聞いた。
「ところで神父さま。アナタは彼の復活は救世主の復活と同じものと考えていたそうですわね。どうして そう思ったのかしら?」
「……お気に触れましたかな?」
「いいえ、
聞いた話では、アナタ方 教会側の中に非業の死を遂げたルイ17世を生き返らせることで、かの救世主の再来を謳い教会の権威を取り戻そうとしたとか…」
ソフィーの語る内容は、エミールがここに来るまでに聞かされた話だ。それを神父に聞かせると返事がくる。
「仮にそうだとして……それでどうします?」
「自分の失った心臓を取り戻したい」
それに答えたのはエミールだった。
「知っているのなら教えて欲しい」
そう願うと、なぜ知りたいのか問われた。
「自分がこんな状態でも生きているのは自らの命の概念と切り離されているからだ
自らの身を守るためにも心臓の在処を知りたい」
死と関わる概念を肉体から切り離し、その身を不滅とする魔術は珍しくはない
例えばヘブリディーズ諸島に伝わる物語の中に自らの心臓を秘密の場所に隠すことで不死身となった黒魔術師の話が存在する。
その彼は最後には自らの秘密を暴かれ死んでしまう。
〈そんな最後は御免だ〉
かつては自身の聖遺物への悪用を恐れたが今では自分の身のためにエミールはそう思った。
「……確かに教会内では革命中の世の乱れ…その罪 穢れを一身に背負った象徴的存在であるアナタ様を甦らせることで救世主の再来を謳おうとしていた者たちがいました
しかし長らくお目を覚まさないために失敗したとも言われておりました。そんな中アナタ様の目覚めを知ったとき私は…「長い!要点だけ話せないのかっ!!」
要領の悪い語りにソフィーがキレた。
「心臓の在処についてだけ話せ!」
叱責を受け渋々と神父は話を続けた。
「マルローという名の神父が革命中に王家の聖遺物を手に入れたと話していたことがありました。おそらく彼が持っているのではないかと…」
「その神父は何処に?」
「ヴァル=ド=グラース教会におります」
エミールが聞くと神父は直ぐに答えた。そして…
「陛下。私は誓ってアナタ様を利用しようなどと考えてはおりません…」
自己弁明が始まった。
最初からそうしようと思っていたのだろう。だからソフィーは要点を掴まない語りに苛立ち必要な答えだけを先に聞いたのだ。
二人にとってはどうでもいい話なので神父の扱いを適当に済ませると次の目的を定めヴァル=ド=グラース教会に向かうことを決めた。
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