第181話

「雛よ……」


「ん?」


 今上帝は、雛の白いうなじに唇を付けられた。

 雛はピクリと身をよじるのだが、ここまでは何時もの事だ。

 すると直ぐに雛が今上帝の下半身に手を持って行くので、 今度は今上帝がピクリと身を捩らせてその手を制止する。これが此処の処の恋人達の逢瀬だ。

 この先は、どうしても進まない。

 今上帝は以前から、妙に耳年増な雛が、奉仕の行動を取ろうとするのに困惑を覚えられた。その行為は受けた事が無いといえば嘘になる、愛情のない自分が強いたのかもしれないし、寵愛を得ようと相手が奉仕したのかもしれない。だがそれを、雛がいくら知り過ぎているとはいえ、雛のままでさせるのは厭だ。そしてそれを雛が毎回しようとするから、二人の仲は進む事ができない。今上帝が制止した時点で、行為事態が終わるしかないからだ。それでも今上帝は愛おしくて抱きしめる、かつてのかのお方に抱いた感情とはまるで違う愛おしさだ。


「雛よ私はそなたに、この様な事を望んでおらぬのだ」


 今上帝は毎回同じ事を言う。

 すると雛は潤んだ瞳を向けて、ただ黙っている。

 それを拒否と、受け止めているのかもしれない。

 そう思うから何時も、先に進まない。

 ならば今上帝はそれを受け入れようと思われるが、やはりそれを雛にさせるのは厭だ……。それを受け入れれば、互いに溶け合えるのだろうか?

 身も心も、溶ろけ合えるのだろうか?二つの躰が一つになれるのだろうか?


「雛よ、ただ私を受け入れよ。私のなすがままと致してくれ……」


 今上帝は切なげに言った、そうしないと何時までも堂々巡りだ。

 そして雛の白丁しらばりに、御手をおかけになられる……すると雛はその手を制して、下半身に手を向ける。愛するものに求められるのは嬉しいが、果たして手慣れた行為の雛を見たくはないのか?

 いたいけな少女を、汚す行為は憚れるくせに、手慣れた仕草は厭だというのか?何たる我儘な己の心だろう。

 今思えば、初恋のかの方は手慣れていた。 それも当然で、かの方はずっと父院に染められていたのだから……。

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