第180話
伊織が後悔したのは当然で、雛と上手い事して頂いて、とにかく皇子を……と思ったのに、雛はどうやら女になれないらしい……。
これは困った事になってしまった。
あの今上帝の御性分ならば、雛を寵妃にすると宣言した時点で、雛しか御相手はいないという事だ。
つまり雛が御子様を頂けねば、今上帝には御子様が存在しない状況に陥ってしまう。それは一番伊織の中で避けたい状況なのだ。
ゆえに今上帝にズバッと申し上げたのに、一体自分は何という事を宣ってしまったのかと、自責の念にかられる感がひとしおだ。
だがもう遅い、今上帝は決めているし、それ以外に目もくれなくなるのがこのお方だ。
我が子に苦痛を与えても譲位された法皇と、同じ血を流されておられる。
つまり雛を失えば、後先など御考えになられる事なく、御譲位される事だろう。仮令御子様が存在されなくとも……。そんな事はこのお方達にしてみれば、後の者がどうにかすればいい事、なのだ。
「はぁ……」
伊織は帰りの牛車の中で、大きな溜め息を吐いた。
……こうなってしまえば、中宮の腹の子が惜しい。
御子様を為されぬならば、同じ血を引く弟君に譲られてもよかったかも?……
なんて考え始めてしまって、我に返って苦笑する。
……ああ、せめて弟君でもおわされれば……
伊織は思わず考えてしまう。皇太弟ならばよくある事だし、法皇の兄弟に遡ってゴタゴタするよりマシだ。
法皇には、何人兄弟がいただろうか?
年も行っているし、かなり政治的な事も絡みそうだし……ヤバいかもしれない。
それよりゴタゴタくらいならいいが、血で血を洗う様な事になったりしたら、かのお妃様が出張って来そうだ……。
あのお方は、平安なる治世にかなり煩いという噂……否々伝説があるくらいだから、乱世などになろうものなら、かなりのご立腹だろうなぁ……。
などと、溜め息交じりに一人吐露したりしている。
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