第178話

 そんな事をズバズバと言えるのは伊織だけだから、伊織は雛が油を売りに女房女官達の所に行っている隙に、一応の御進言を申し上げる。

 さすがに男好きの浮名を流してしまわれては、今上帝として御在位に御在りになられる限り都合が悪い。

 同性云々という事は、この国では何の障害も無いのだが、今上帝だけは都合が御悪い。何故ならば、後の天子を御残しになられるのが、お役であるからだ。

 それが天子となられた時点で、一番のお勤めとなられる。

 何人かの皇子をお持ちであられれば、まぁ同性をお相手とされてもいいかもしれないが、今現在今上帝には、御子様がおいでになられない。まして同腹異腹の御兄弟も御在りになられない。異腹の内親王が二、三人御いでだけで、この内親王は、法皇の御成人の砌の御相手の、女御のお産みになられた内親王だ。そしてもう一方の女御の、内親王であられる。

 今上帝の御母君が入内されてからは、御寵愛が一心に注がれたから、男御子様は今上帝だけなのである。つまり法皇は一途に、今上帝の御母君を愛されていたのは真実であった。

 つまる所、今上帝には是が非でも後宮の女御に、御子様を授けて頂かねばならず、そうでなければ、法皇の兄弟に遡って跡目を継いで頂かねばならなくなる。そうなれば当然の様に貴族の陰謀策略が蠢く事となり、今ですら危うい治世が完全に乱れる事となる。

 それはどうしても、避けたいが伊織だ。

 あの伝説のお妃様がご自身の御子様を、お遣わし下されている以上、世の乱れは絶対に有り得ない事だからだ。その原因を作るものは、きっと容赦なく排除される。


「この際にございますゆえ、后妃となされてください」


 伊織は、至極真顔のまま今上帝に言った。


「はぁ?今何と?」


「ゆえに雛を后妃に……此処で睦まじくして御いでより、皇子様を頂けましたならば、その方がよろしいかと存じます」

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