第156話
今上帝はここのところ、御
父院の法皇の所に行かれてからずっと、御鬱ぎのご様子だ。
最愛なる妻の中宮を亡くされた父院は、御誕生の今上帝へ御心をお掛けくださる余裕は、御有りにはなられなかった。
ずっと亡きお方を思われ放心しておいでであられ、御仏に御
その甲斐あってか、法皇は少しずつ御元気を取り戻され、幼帝となられた今上帝の周りの変化に御気づきになられた。
一番に頼りとされ信頼されていた関白を摂政とし、今上帝を託され譲位されたものの、その関白が身罷らられ後がまとなったその摂政は、関白家の息子達を陥れて実権を我が物と致そうとしたのだ。
法皇は能力から人格まで、後がま摂政が御気に召されなかった……。
それは、我が子の幼帝の為というよりも、自分の意図する政とは違っていたからである。ゆえに法皇は、その摂政だけに政を任せる事はおできになられなかった。
幼帝であった今上帝の、後見としてその御力を御現しになられたのだ。
……だが法皇のそれ等は、只それだけの事だった。
御子様であられる今上帝に対する御心は、御有りにはなられなかった。
つまり今上帝は御父院の愛情という物を、与えられずに御育ちになられた。
与えられるは、天子としての教えだけであった。
そしてそれは亡き関白の忘れ形見の姫を、法皇が御引き取りになられ、御養育なされてから判然と今上帝は御理解された。
かの姫は法皇様の膝に抱かれ、溺愛されて御育ちになられた。
今上帝は御誕生の砌より只の一度たりとも、御父院に抱かれた事はおありになられなかった。それは記憶にある無しの問題ではなく、確かな事であったのは、乳母子の伊織が母から聞いている事であった。
つまり、伊織がずっと思い続けていた事は、父院は今上帝を最愛なる妻の御子様でありながら、決して愛してはいないという事だ。
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