第142話
今上帝は真顔を作って、伊織を睨め付けられる。
「主上の胤でないからには、その御子に群がる亡者共が存在致します。主上の権力の危機は青龍の最も嫌うもの。大好物の権力が奪われる事を避ける為に、その元となる御子を食らうのでございましょう……ゆえにそれを手放せば、御子は食らわれる事はございませぬ……神仏達はそれを諭し、中宮様に主上に許しを求める様に促しておるのでございます」
今上帝の顔容が、神妙に変化した。
「……そして中宮様の御子様は、もはや皇子様との事」
「その様な事が解るのか?」
「神仏であれば当然かと?」
神妙な面持ちのまま、二人は見つめ合う。
「……ゆえに必ず、青龍は御子様を食らいます」
「……中宮は如何致すと思う?」
「御気持ちは無いかと……ゆえに神仏は毎夜現れ、中宮様は悪夢にうなされ、今や眠る事すら御できになられない……」
「ならば?如何致すのだ?……と申しても、こればかりはあやふやな話しだ。元に食らうとは思えぬ……ゆえに中宮も思いきれぬのであろう?」
「さようで……これは真に、あやふやな話しでございます。この話しを信じて、大事を捨てる馬鹿はございませぬ……ゆえに、主上が中宮様にその御子様には、決して権力を御与えにならぬ宣言を御下しください。したらば御子様は、食われる事は無くご誕生頂けます」
「確かに、私の胤ではないのか?」
そこの処が、今上帝の悩ましい処だ。
心ならずも今上帝はあの時、中宮の策に乗ったのだ。
策を弄されていると、知りながら乗ったのだ。
あれは今上帝の過ちであり、その為に生涯自分の子かもしれないと、疑心暗鬼に陥らねばならなくなった。中宮を憎悪しその子を疎もうとも、疎み切れない弱みを作ったのだ。
だから神仏がお出ましくださり、それを否定してくれる事は、あやふやながらにも、今上帝は縋りたい御気持ちがおありになられる。
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