第115話

 最近の今上帝は、穏やかな日々を過ごされている。

 それは、雛が側に居てくれるからだと認めて御いでだ。

 今上帝は上申書を一通り見終えられると、側で退屈そうにしている雛を見つめられた。

 視線を落ち着きなく泳がせたり、欠伸をしたり、思い出し笑いをしたり。

 あちらを掻いたりこちらを掻いたり、見ていると飽きる事がない。

 可憐で可愛いと心底思っているからだろう事は、もはや充分大人の今上帝にはわかり切っておいでだ。


「雛よ……」


「あー?」


 雛は大きな欠伸をし終えて、今上帝を見つめた。


「暫し時を止めるか?」


 今上帝が悪戯ぽく言われると、雛はパッと明るい笑顔を浮かべた。


「今上帝。昨今のそなたは、節操が無いな……」


 とかなんとか言いながら、時を止めたのか?

 恥らう事すら知らずに、今上帝の側に寄った。


「雛よ。時を止めるか?とは言うたが、そなたの期待とは別物だ」


 今上帝は、雛を熱く見つめながらもそんな事を言われる。

 すると雛は、近づいた身を引いてムッとする。


「なんだのか?……ならば、時を止める事はなかろう?」


 抗議するよりも早く、雛は手を引かれて今上帝の膝の上に身を置かれ、そのまま抱き包められる。

 もはや幾度も幾度も繰り返している行為は、それは長き時を抱き包められるだけだが、その行為にすら雛は溺れていく、今上帝の体温を覚え今上帝の香りを記憶していく。そして甘える様に自ら求めるは、愛に拘る鸞ゆえか余りに妖艶だ。

 とても雛とは思えぬ程の、艶を放ち始めている。

 包め込まれた腕の中微かに顔を上げ、潤んだ瞳で今上帝を誘い続ける。

 その美しさに、今上帝の理性も吹っ飛んで行きそうだが、を踏み止める為にも、今上帝はこうやって昼間に時を止めさせて触れられる。そうでなくてはとても、御自制する御自信も御なりになられない。


「そなた願い通り后妃となるか?」


 今上帝は切なげに、雛の耳元でお囁きになられた。

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