第68話

 最近の今上帝は、中宮様の所の女房女官に御手を出される事が無くなった。

 ……というより、女御をお召しになる事が無くなった。

 2、3ヶ月の内にニ人だか三人に御手をつけられ、関白家の姫を女御とされ、左大臣家からも入内の話しが出ている……。

 今は本当に遅くまで雛をお側に置いて、一体何をしているのかと……伊織は屋敷に帰っても気が気ではない日々を送っている。

 ……というのも、雛が余りに可愛いものだから、たぶん宮中の者達全てがと認識していると思うのだが、雛に恋文を送る不届き者が現れた。

 それも一人や二人では、ないので吃驚だ。

 此処中津國なかつくには、恋愛に関してすこぶる寛大な国なので、性別に対する偏見とか差別は皆無だ。

 さすがに男を妻として、公的な立場を取らないにしても、恋愛は妻通い同様に行われているし、偏見なく受け入れられているから、あれ程可愛い雛が恋多き貴族達に、目をつけられても全くおかしくはない国だ。

 だがさすがに、雛の貞操に危険があるという事で、なんと今上帝から雛を伊織の屋敷に住まわせる様に命を受けた。

 それも、屋敷の対屋を一つあてがえよ、との仰せであるから伊織は全く辟易だ。


「そなたと共に参内せよ」


 との仰せなので、雛も共に牛車で参内。

 その後清涼殿で今上帝にかしずき、それからずっと夜までお側に置かれている。

 御政務の時すら、隅の方に置かれているというのだから、伊織は雛が気の毒にならぬでもない。

 そんな雛なので、側近中の側近と宮中で知らぬ者がいない伊織よりも、今は長く今上帝の側に居る事となっているから、遅くなる帰宅は共にできない心配をしておれば


「チョチョイと致すから安心致せ」


 などと言って、本当にチョチョイと帰宅して来る。

 それをいい事に今上帝は、それは夜遅くまで雛を側に置いておられるのだ。

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