第19話

 愛だの恋だのは有り得ない。

 強力なる後見を得てこそ成り立つ座であり、そういう天子を望まれそういう子が望まれる。

 つまりは、力のある一族のものの子である事が前提だ。

 そうでなくては、それぞれの貴族達の思惑に掻き乱され、内側から乱れていく。

 かのお方も長きに渡り、外戚なる伯父に実権を握られておられたが、最後の最後迄全てを譲らず、最後にはその一族を排除された。

 その後摂関を置かずに、親政を貫かれた尊きお方で、その時に最愛なる皇后様の父に当たる摂政だったゆえに、皇后様を思われて送られた歌が、後世の今でも乙女達の心を捉えている程に、皇后様に愛をお捧げのお方だった……はず……。

 だが、今の雛瑞獣の話しを、よくよくと思い起こせば……。

 長兄君はたぶん、かの瑞獣のお妃様の親王だ

 弟帝様はどう考えても、かのお方しか有り得ない……。

 待てよ待てよ……。かのお方は、実は腹違いの兄と……?


 ……マジかぁー……


 今上帝の心の叫びだ。


 ……いや、いやいや……アリかもしれない……


 今上帝は唖然としたまま、雛瑞獣を見つめて思った。


「そなた、お母君様似なのか?」


 我ながら問うて、嘲笑してしまう。


「お?私は父君様似なのだ……母君様に瓜二つの長兄君様は、それはそれはお美しいのだ……ゆえに私はそなたにも、多少似ておるかもしれぬ」


 今上帝は雛瑞獣を見つめて、生唾を飲み込んだ。


 瑞獣の世界というのは、一体どんな世界だ?

 面前の雛瑞獣よりも、美しいもの達とは……。

 皇后様一筋のかのお方が、唆されても仕方ない様にも思えた。

 どんどんどんどん愛らしさが増すばかりの雛瑞獣を見て、今上帝は再び嘲笑を浮かべた。


「しかしながら残念だが、そなたはお妃様の様に后妃とはなれん」


「な、何故だ?お母君様の様に、美しくはないからか?」


「……ではない。内裏の后妃とは女体しかなれぬのだ」

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