第438話 新王都訪問

 ダンジョンのベースキャンプに戻って、王家からの呼び出しの件をライオスに相談したのだが、意外にもレイラはこちらに残ると言った。


「だって、のんびり王都見物をしに行く訳じゃないんでしょ? こっちはニャンゴが抜けた分を全部カバーは出来なくても、可能な限り支えなきゃいけないし、お楽しみは発掘が一段落した後ね」


 確かに、発掘やアーティファクトの研究の助言などをしなければならないし、王都で遊んでいる暇は無い。

 という訳で、王都までは俺一人で可能な限り速く往復することとなった。


 俺達と入れ替わりで休日に入るライオス、シューレと一緒に地上に上がり、ギルドのロッカーから騎士服や靴、剣などを取り出して拠点に戻り、翌朝早くに旧王都を出立した。


「じゃあ、行ってきます」

「あぁ、気を付けて行って来い」

「食べ過ぎちゃ駄目よ……」

「うっ、努力はするよ」


 シューレに釘を刺されたけれど、王城へ行けば美味しいものが食べられそうな気がする。

 旧王都から新王都までは、馬を飛ばせば二日、馬車なら三日から四日掛かる距離だが、今日のうちに到着するつもりだ。


 飛行船でひとっ飛び……と行きたいところだが、生憎と強い西風が吹いている。

 なので、エストーレから帰ってきたジェットコースター方式を選んだ。


 まずは、荷物を背負った自分に重量軽減の魔法陣を張り付けて、ステップと連続ジャンプで上空へと上がった。

 風は強かったけど雲一つ無い快晴なので、やがて遠くに新王都の街並みが小さく見えた。


「よし、ここからコースを作って、スタート!」


 底をツルツルに作った座席とツルツルのハーフパイプのコースを作り、一気に滑り降りる。

 コースを継ぎ足したり、座席が浮き上がりそうになったのでスポイラーやカウルを追加したりしながら、猛スピードで新王都を目指す。


「よし、更にスピードアップだ!」


 座席の後ろにオフロードバイクで使っている風の魔法陣を使った動力ユニットを接続、一気にスピードを上げた。


「にゃはははは、速い、速い、過去最速だ!」


 旧王都から新王都までは、途中を遮る山なども無いので一直線に進める。

 広々とした空の下なので速度の感覚が無くなってくるが、時速百キロ以上は確実に出ているはずだ。


 出発してから一時間少々で、もう新王都にあるファティマ教の尖塔が大きく見えている。


「速いなぁ、これならアツーカ村まで一日で戻れそうだにゃ。あれっ、でもどうやって止まろう……」


 風の魔法陣を使った動力ユニットを消し、コースを下り傾斜から平坦に変更したが、余り速度が落ちた感じがしない。


「にゃにゃにゃぁ……このままじゃ、新王都に突っ込んじゃう。ブレーキ、ブレーキ……そうだ、パラシュート!」


 座席の後ろにパラシュートを付ければ止まると思ったのだが、パラシュートなんて作った覚えが無い。

 そこで、風除けに使っているカウルの面積を増やしてみた。


「止まれ、止まれ、もっと大きくして……止まって!」


 カウルの面積を拡大していって、どうにかこうにか王都に入る門のギリギリで停止できた。

 てか、城門の上で警備している兵士さん達に、槍を突き付けられちゃってるよ。


「な、何者だ!」

「お騒がせして、すみません。ニャンゴ・エルメールと申します。ちょっと旧王都から急いで来たもので……」

「し、失礼いたしました!」


 ギルドカードと王家からの手紙を見せると、兵士達は一斉に槍を引いて敬礼した。

 いや、失礼しちゃったのはこっちの方なんだけどね。


 ステップで地上へ降りて、王族貴族用の入口を通って王都の中へと入った。

 王族貴族専用の道を風の魔法陣の動力を付けたキックボードに乗って進む。


 なんだか電動キックボードで高速道路を走っているようだ。

 第二街区に入る前に専用道を外れて、冒険者ギルドに向かった。


 王家からの手紙には、まずは新王都の冒険者ギルドに出向くように指示されている。

 いきなり城に出向いたところで、王様にも都合があるだろうし、新王都のギルドにも情報を流せということなのだろう。


 ギルドに出向くと、まだ朝の混雑の真っ最中だった。

 イブーロのギルドでも、この時間には凄く混雑するけれど、王都のギルドは更に上をいっている。


「こりゃ、暫くは無理そうだにゃ」


 名誉騎士になろうとも、猫人の体格が他の人種なみに変わった訳ではないので、あの混雑に突っ込む気にはなれないし、受付の行列に並ぶ気にもなれない。

 グルっと周囲を見渡すと、新王都のギルドでも酒場を朝の軽食用に開けているようだった。


 お茶を一杯飲んだだけで飛び出して来たので、まずは腹ごしらえすることにした。

 イブーロギルドの酒場では朝のセットは一種類のみだったが、五つのメニューから選べるようになっていた。


 その中からチリドッグとカルフェのセットをチョイス。

 カルフェにはミルクと砂糖も入れてもらった。


「うみゃ! チリドッグ、うみゃ! トマトソースのザクザク野菜と豆の食感、スパイスの組み合わせも絶妙で、うみゃ!」


 ギルドの酒場だから微妙なレベルの味を覚悟していたのだが、意外や意外、チリドッグはなかなかの味わいだった。

 チリドッグとカルフェをゆっくりと味わって、混雑が解消したところで受付に向かった。


「おはようございます、今朝はどのようなご依頼ですか?」


 ウサギ人の受付嬢は、猫人の俺を見て依頼を出す側だと思ったようだ。


「おはようございます、こちらに出向くように指示されたのですが……」


 カウンターにギルドカードと王家の手紙を出すと、受付嬢は顔色を変えた。


「エ、エルメール卿、しょ、少々お待ちいただけますでしょうか」

「はい、いいですよ」


 俺が頷き返すと、ウサギ人の受付嬢は脱兎の勢いで上司のところに走っていった。

 何やら小言を言われた後で、ガチガチに緊張した様子で戻って来た。


「ど、どうぞ、別室へご案内いたします」

「あぁ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「は、はひぃ!」


 緊張をほぐそうと笑い掛けたつもりなのだが、あまり効果は無かったようだ。

 依頼の相談をする応接室に案内されて、お茶を出してもらったところでギルドマスターのベートルスが現れた。


「お久しぶりです、エルメール卿」

「ご無沙汰しております。呼び出しを受けて参上しました」


 こちらもソファーから立って挨拶をしたが、初対面の時のように俺を試すような芝居がかった仕草はなしだった。


「ダンジョンでのご活躍は、新王都まで伝わって来ていますよ」

「悪い噂でないと良いのですが」

「とんでもない! 悪い噂である訳がないですよ。これまでの常識を覆すような発見を次々になさっていると、学院はひっくり返るような騒ぎですし、商人達も目の色を変えていますよ」


 ダンジョンで発見された品物は、当時の日用品であってもビックリするような高値で取り引きされたりする。

 新区画の建物一を最初に探索した時に見つけた、アルミフレームに嵌った小さな手鏡なども、ここ新王都に持ち込めば相当な高値で取り引きされるはずだ。


「まぁ、たまたま良い条件が重なった結果ですよ」

「実動するアーティファクトを発見されたそうですね?」

「興味がありますか?」

「勿論です。王家からの招待もそれが目的でしょうし、貴族や学者、大商人、みんな一目見たいと思っていますよ」

「そうですか……これが実物です」

「えっ……」


 鞄からスマホを取り出してテーブルに置くと、ギルドマスターを務めているベートルスが目を見張って動きを止めた。


「これ、本物なんですか?」

「はい、本物ですよ」

「おぉぉ……」


 スイッチを入れて画面を点灯すると、ベートルスは更に前のめりになった。

 一旦スマホを持ち上げて、顔認証させてホーム画面を開く。


「今のは?」

「俺の顔形を登録してあるので、他の人では使えないようになっています」

「そんな事も可能なんですか……」

「はい、こちら側のこれと、こっちのこの部分が風景を写し撮る魔道具になっています」

「風景を写し撮る?」

「えぇ、例えば……これが俺達が発掘を行っている建物です」

「おぉぉ……なんと鮮明な」

「見たままの状況を写して記録することができます。これは静止画ですが……動画の撮影も出来ますよ」

「う、動いて……声まで……」


 動画を再生してみせると、ベートルスは絶句した後でゴクリと唾を飲み下した。


「実動するアーティファクトと聞いていましたが、これほどの物とは思ってしませんでした」

「まぁ、俺は発見しただけで、これと同じ物を再現なんて出来ませんけどね」

「いやいや、エルメール卿がいらっしゃらなければ、ダンジョンの新区画は発見されていなかったでしょうし、このアーティファクトも眠ったままだったはずです」

「そうかもしれませんが、見つけた遺跡は今よりも遥かに高度な文明だったようで、そこに追い付くのは容易ではないと思います」

「そうかもしれませんが、こうして実物の見本があるのですから、全く何も無い状態よりも文明の進化が加速するのは間違いないですよ」


 新王都のギルドには、来客用の宿泊施設があるそうで、そこの一室を提供してくれるそうだ。

 既に王城には俺が到着したことが知らされているそうで、追って登城の予定が知らされるそうだ。


 それまでは、用意してもらった部屋で寛いでいようかと思ったのだが、なかなかベートルスが解放してくれなかった。

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