第420話 探し物は見つからず
「教授、ちょっと映像機器の売り場に戻っても構いませんか?」
「勿論です、エルメール卿。なにかあったのですか?」
「ええ、ちょっと探したいものがありまして……」
映像機器の売り場も見て来たのだが、ざっと見て回る感じで詳しく見て来なかった。
ディスクを確認して、売り場にあるはずのものを思い出したのだ。
「ニャンゴ、何を探しているの?」
「俺の持ってるアーティファクトと似た感じのもの……無いなぁ……」
俺がまた何かを探し当てたと思っているのか、レイラが目を輝かせているが、先程通ったところに目的の品物は無かった。
「裏側は?」
「こっち? あっ……あった!」
映像機器の陳列台の裏側、隣りの列を眺めてみると、目的の品物があった。
探していたのは、モニター一体型のディスクプレーヤーだ。
「エルメール卿、これは何ですか?」
「表示部分とディスクの再生部分が一体になっているものです」
「では、これの可動品が見つかれば、当時の映像が見られるのですね?」
「目的の品があれば……ですが」
モニター一体型のプレーヤーといっても、個室に置いて使うタイプ、デスクに置けるタイプなど、その大きさは様々だ。
俺が探しているのは、持ち運んで外出先でも見られるタイプだ。
「うーん……」
「どうしたの、ニャンゴ」
「ちょっと、思っていたのとは違うかな」
一体型のプレーヤーは発見できたのだが、俺が求めていた物とは少々仕様が異なっている。
「エルメール卿、この魔導線に魔力を流せば使えるのですか?」
「たぶん……教授のおっしゃる通りだとは思いますが、問題はどの程度の魔力を流すかですね」
劣化して筐体の壊れてしまった物を調べると、内部に充電池ならぬ充魔器が組み込まれて、魔導線から魔力の供給を受ければ充填される構造になっている。
これを可動させるには、一定の強さで魔力を供給し続ける必要があるが、その強さが分からないし、人間が供給し続けられるものなのかも不明だ。
いずれ解析が進めば使えるようになるのだろうが、今すぐは無理だ。
俺が探していたのは、スマホのように魔力回復の魔法陣を使って魔力の補充ができるタイプだったのだが、そのような商品は置いてないようだ。
「教授、やはりあと一つ、動力源について解明がなされないと映像は見れないようです」
「そうですか……ですが、映像や音の資料が残っていることは確認できたのですから、今はその功績だけでも喜ぶべきでしょう」
「そうですね、一定の強さで魔力を供給する規格について解明が進めば、この時代の映像はいくらでも見られるようになるはずです」
この後、二階の倉庫を確認すると、一体型のプレーヤーの在庫が確認できた。
通常の段ボールは虫に食い荒らされていたが、商品の写真がプリントされたタイプの外箱は無事だった。
念のために内部を確認すると、中の梱包材に固定化の魔法陣がプリントされていたから、おそらく可動品だろう。
また、倉庫にもディスクの在庫品が置かれていて、中にはシリーズものと思われるBOXタイプの商品も置かれていた。
アニメーションと思われるキャラクターが描かれたパッケージや、グラドルらしき水着写真のパッケージもあったのだが、残念ながらアダルトタイトルと思われるものが見当たらない。
もしかすると、この世界ではアダルトコンテンツに強力な規制が掛けられていたのだろうか。
「セルージョがガッカリしそうだにゃ……」
「セルージョがどうかしたの?」
「にゃ、にゃんでもにゃい!」
危ない……レイラが一緒なのを忘れてた。
ジト目で見られてるけど、頭の中まではバレてないよな。
「なーんか怪しいわねぇ……」
「な、なんでもにゃいって……」
レイラは、チラっとケスリング教授やレンボルト先生の様子をうかがった後で、俺の耳元で囁いた。
「ニャンゴの前世でも、同じような物はあったの?」
「うん、大きさとかは違っているけど、似たような物はあったよ」
「どんな内容?」
「基本的には、これまでに見つかった写真集のような内容で、絵が動いて、解説の音声とか音楽が一緒に流れる感じ」
「へぇ……でも、この時代の言葉が分からないと、解説を聞いても理解できないわね」
「うん、でもたぶん子供の教育用のディスクとかもあるはずだから、それを使えば言葉を覚えられるかもしれないよ」
言葉を覚え始めた幼児向けの教育タイトルなども、探せばみつかるはずだ。
そうしたディスクを使えば、言葉を理解して、ディスクの解説も理解できるようになるかもしれない。
二階の探索を終えたところで、一旦休憩することにした。
階段近くに、自動販売機やベンチが置かれたスペースがあったので、利用させてもらった。
近くにトイレもあったので、安全を確認してから使う。
この遺跡の探索で助かるのは、トイレを使えることだ。
下水管が生きているので、水の魔道具さえ持参すれば使用後は水で流せる。
ただし、流れていった先がどうなっているかまでは不明だ。
たぶん、最下層の横穴の更に下が一番深い場所だと思うが、もしかするとその辺りに汚物が堆積して、魔物の温床になっているかもしれない。
休憩中、ちょっと興味が湧いて自動販売機を開けてみることにした。
この世界の自動販売機は、俺の前世である日本のものとよく似ていて、コインを入れて好きな商品の下のボタンを押すと、缶入りのドリンクが出てくる仕組みのようだ。
空属性の探知ビットを使って鍵穴の内部の様子を調べ、空気を固めて合い鍵を作ってみた。
「にゃっ、開いた……」
鍵が回ると取っ手が手前に引き出せるようになり、それを回すとロックが外れた。
「ニャンゴ、何が入っているの?」
「この時代の飲み物の販売機だと思う……」
「この時代の味が楽しめるのね?」
「無理、無理、無理、いくらなんでも無理、中身は傷んでいるから飲めないよ」
「そっか……残念ね」
「固定化の魔法陣でも張り付けてあれば、飲める可能性もあるかもしれないけど……」
更に内部をいじっていると、硬貨をゴッソリと回収できた。
隣の建物の書店では、自動精算機の中身が回収されていたが、この自販機はお金を回収する余裕が無かったか、忘れ去られていたのだろう。
「これは……紙幣なのかな?」
自販機の内部にあったからなのか、虫に食われずに紙幣が残されていた。
透かしやホログラムなどの偽造防止技術が使われているようだ。
「紙の通貨ですか?」
「えぇ、こんな感じで偽造されないように特殊な印刷が施されています」
「おぉ、確かに……こんな印刷を見たのは初めてです」
ケスリング教授もレンボルト先生も、発見した紙幣を灯りの魔道具に透かしてみたり、ホログラムの光加減を確かめながら唸っていた。
「ニャンゴ、これ物凄く細かい線で印刷されてるわよ」
「うん、虫眼鏡で見るともっと凄いのが見えると思うよ」
「これがお金なら、同じものが沢山印刷されているのよね?」
「うん、そうなるね」
「あぁ、でも写真が印刷できて本になっているなら、この技術も不思議じゃないのか」
「うん、でも紙幣の印刷技術は写真のものよりも高度な物が使われているはずだよ。じゃないと高額紙幣とかは偽造されちゃうからね」
ケスリング教授とレンボルト先生が明かりの魔道具の近くで紙幣を確認するのに熱中しているから、油断してレイラと普通に話していたら、ハウゾが近くで話を聞いていた。
ハウゾは俺に疑わし気な視線を向けながら、表情を引き締めて訊ねてきた。
「エルメール卿、あなたは何者なんですか?」
「にゃっ……にゃいしょ?」
「はぁぁぁ……」
小首を傾げて可愛いアピールで誤魔化そうとしたら、呆れたような大きな溜息をつかれてしまった。
「私ごとき冒険者が言うことではないのでしょうが、この国のトップクラスの教授よりも詳しい知識を次から次へと披露される様は、正直に言って異常です」
「まぁ、そう見えるよねぇ……理由はあるんだけど、それは冒険者の秘密だから教えられないや」
「そうですか……」
「それとも、全部教えないと一緒には行動できない?」
「いえ、それは個人的な興味ですし、エルメール卿の知識のおかげで多くの新発見がなされています。実は、探索の成果によっては俺達の報酬も上がる契約なので、ドンドンやっちゃって下さい」
ハウゾは、それまでの厳しい表情を緩めて、ぐっと親指を突き出してみせた。
まぁ、言われなくてもガンガン探索進めるつもりだけど、変な気を使わなくて済むのは有難い。
「へぇ、そんな護衛契約の仕方もあるんですね」
「えぇ、何も目新しい発見が無かった場合には報酬減額だったんですが、これだけの人数を揃えて新王都から遠征するのですから、何かしらの発見はあるだろうと踏んでいました」
「では、報酬が増えてホクホクですね?」
「いやぁ、チャリオットの皆さんに比べたら、吹けば飛ぶほどですよ」
ハウゾ達の増額がどのくらいになるのか分からないし、チャリオットの儲けも確定していないが、たぶん、ハウゾの言うことは正しい。
セルージョではないけど、二つの建物から発見された物だけでも、チャリオットの面々は一生遊んで暮らせるぐらいの金額を手にするはずだ。
そのためにも、さっさと学術調査を終わらせてもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます