第401話 発見と疑問
翌日、再びセルージョと一緒に七階の本屋に向かった。
昨日は売り場の書棚に積もった繭や埃を掃除したけど、目ぼしい品物は見つからなかった。
そこで今日は、倉庫の部分を捜索してみることにした。
とはいっても、どこもかしこも繭と埃で埋もれてしまっていて、どこが倉庫かも分からない。
「まぁ、倉庫が売り場の真ん中には無いだろう。壁際から探していったらどうだ?」
「そうだね、そうしよう」
という訳で、本日もニャンゴサイクロン掃除機を作って、繭と埃の壁に挑む。
ズボボボボ……っと、吸い込んで固めていくと、会計レジらしいものを発見した。
「にゃ? セルフレジ?」
「セル……なんだって?」
「お客が自分で会計する機械みたい」
液晶パネルがあって、硬貨や紙幣の投入口らしきものがあって、読み取り用のセンサーと思われるものもある。
どう見ても、セルフレジにしか見えない。
「お客が自分で会計って、店員は何やってんだ?」
「店員は、店員にしかできない仕事をやって、それ以外の部分は機械に任せてたんだと思う」
「随分と便利な世界だったみたいだな」
「うん、今とは色々違ってたと思うよ」
「ニャンゴの前世も、そんな感じだったのか?」
「うん、よく似てるけど、魔力じゃなくて電気で機械を動かしてたけどね」
チャリオットのみんなには、俺が日本で生きた記憶を持っている事は既に話してある。
俺の前世では、スマホに決済機能も搭載されていたと話すと、セルージョは分かったような分からないような顔をしてみせた。
「そんじゃあ、その板っぺらが財布になってたのか?」
「情報をやり取りできる機械だから、スマホも、レジも、銀行の機械も繋がっていて、取引の情報が共有されてたんだ」
「何だかピンとこねぇけど、そいつを落として誰かに拾われちまったら、財産を根こそぎ盗まれちまったんじゃないのか?」
「そこは個人認証とかパスワードを設定するようになってたから、めったなことでは盗まれなかったよ」
「盗まれることもあったんだな?」
「まぁ、いつの世にも悪い奴はいるからね」
「そらそうだな」
セルフレジの中にお金が残っていないかと思ったのだが、残念ながら全部開けられて中身は取り出されていたが、埃を吸い取っていくと硬貨が落ちていた。
「にゃっ、お金だ!」
「おぉ、こいつがこの時代の金か……うぉぉ、すげぇ細かい彫刻が施されてるな」
「たぶん、偽造防止のためじゃない?」
硬貨は五百円玉ぐらいの大きさで、片面には数字らしき文字、裏面には太陽と月をデザインした彫刻が施されている。
側面にも文字列が刻まれ、外側が銀色、内側が金色の二種類の金属が使われているようだ。
「この時代にどれぐらいの価値があったか知らねぇが、今なら大金貨数枚になるんじゃねぇか」
「本屋の床に落ちてたんだから、当時は銀貨ぐらいの価値しかなかったと思うよ」
「だろうな」
セルフレジの後ろ側にはスタッフ用のスペースがあったが、在庫を置いている倉庫ではなく販促用のPOPなどを置く場所のようだ。
「ほぉ……この時代の女もなかなか色っぽいじゃんか」
グラビアアイドルなのだろうか、等身大の水着姿のポップを見つけて、セルージョの顔がニヤけている。
「ニャンゴ、こっちも掃除してくれ」
「しょうがないなぁ……」
俺としては早く無事な本が無いか探したいのに、セルージョに水着のポップを五枚も掃除させられてしまった。
「なぁ、ニャンゴ……」
「もういいでしょ」
「いや、なんでこいつら尻尾が無いんだ?」
「えぇっ?」
セルージョに言われてPOPを見直してみたら、全員尻尾が無かった。
POPの一部は後姿も印刷されている両面タイプだったが、水着の尻から尻尾は出ていない。
それだけでなく、全員の耳が目の横の位置にあり、いわゆるケモ耳ではないのだ。
最初に探索した時にも等身大POPを見つけたが、あの時はレイラに俺が前世の記憶を持っているのがバレそうで、ジックリと観察しなかったから気付かなかった。
「猿から進化した世界だったのか……?」
「こいつらは全員サル人なのか? それにしても尻尾が無いのは変だろう」
この世界にもサル人は存在しているが、尻尾が有るのが普通だ。
POPの女性たちからは、この世界のサル人というよりも、前世日本に存在した人類の雰囲気を感じる。
「人類が支配していた世界だった? だとしたら、その人達はどこに行ったんだ? 獣人はどこから来たんだ? 獣から今の姿に進化するほど時間が経っているなら、こんな遺跡は残っていないのでは?」
「おい、どうしたニャンゴ……ニャンゴ!」
「えっ……」
セルージョに肩を揺さぶられて現実に引き戻されたが、背中に嫌な汗が流れている。
スマホとかを発見して気分が昂ぶっていたが、よく考えてみるとこの遺跡は色々おかしい。
それが、POPの女性の姿を認識した事で、一気に押し寄せてきた感じがする。
「大丈夫か、ニャンゴ」
「なんか、色んな疑問が湧いてきて混乱してる」
「この時代は、ニャンゴが前世で生きてた世界なのか?」
「ううん、それは違う。俺が生きてた世界には魔法が無かったし、この世界の文字も見たことがないから、違う世界だと思うんだけど……」
「だけど……なんだ?」
「俺達の祖先は、いったい何処から来たのかとな?」
「はぁぁ? 祖先って、爺さんの爺さんの爺さんとかか?」
「いや、もっともっと前の文字も文明も持っていなかった頃」
「さぁな、そいつは偉い学者さんにでも聞いてくれ。てか、それを知りたいなら、探し物を続けた方が良いんじゃねぇのか?」
「それもそうか……てか、セルージョが何枚も掃除させるから時間が掛かったんじゃないか」
「ばっか、そのおかげで発見があったんだろう、俺は最初から何か変だと思ってたんだよ」
「えぇぇ……胸とか尻しか見てなかったくせに……」
「それは、尻尾が無いから気になっただけだ」
セルージョの言い訳は置いといて、この時代の男もやっぱり巨乳好きだったみたいだ。
寄せて上げてのポーズは、異世界でも共通にゃんだな。
セルフレジのスペースを出て、壁伝いに移動していくと金属製の扉があった。
扉の周辺を掃除すると、何やら名板が貼り付けられていたが、当然なんて書いてあるのかは読めない。
「開けるよ……」
「ちょっと待て、ニャンゴ。中に何がいるか分からないんだから、不用意に開けるな」
「そっか、ごめん」
「まず、ほんの少しだけ開けろ。隙間から俺が探知魔法で中の様子を探る」
「分かった」
取っ手を回し、ぐっと力を込めて少しだけ扉を開ける。
「ふにゃぁぁぁぁ!」
内側にへばり付いていた繭が剥がれて埃が舞うと同時に、ガサガサっとゴキブリに似た虫が数匹這い出して来たので、思わず扉を閉めてしまった。
「なんだよ、ただの虫だろう」
「いや、急に這い出して来たからビックリして……」
「まぁ、こっちよりも虫が固まってそうなのは分かったな、ほら開けろ」
「えぇぇ……ちょっと待って、内側の空気を固めて扉を開けても崩れないようにするから」
ぶっちゃけ、転生してからもゴキブリへの生理的な嫌悪感は消えていない。
開口部に密着するように薄いシールドを立ててから、改めて扉を開けた。
「うぇぇぇ……」
「おーおー……すげぇ有様だな」
ガラス板のようなシールドには、扉の内側にへばり付いていた繭と埃が捕らえられていて、その向こう側をゴキブリのような虫やゲジゲジがウジャウジャと蠢いていた。
「セルージョ、ここは封印しよう」
「馬鹿、なに言ってんだよ。この中には、本を食い荒らしていた奴らも混じってんじゃねぇのか? あるいは、そいつらを食い物にして、こいつらが繁殖してんじゃねぇのか?」
「かもしれないけど……」
売り場の方にも小さな虫が沢山いて、繭や埃と一緒に掃除機で吸い取っているが、ここはちょっとレベルが違う。
それだけ多くの本が残されていた可能性が高いが、ここに足を踏み入れるのは精神的に厳しい。
「ニャンゴ、その掃除機ってのは魔法で操れないのか?」
「あっ、そうか。囲いの中から操作して、吸い取ってしまえば良いのか」
掃除機を作り直すついでに、タンクの部分に温熱の魔法陣を仕込む。
吸ったそばから全部駆除してやる。
内部が赤熱したところで、お掃除開始だ。
俺とセルージョを空属性魔法の壁で囲い、開口部に密着させていたシールドを解除し、掃除機のノズルを遠隔操作して虫ごと埃の壁を吸い込む。
売り場の方へと逃げた奴もいたが、今は目の前の埃の山に集中する。
扉の内部は、やはり倉庫だったようだが、売り場以上に繭と埃が積もっていて何が置かれているのか全く分からない。
どこからか入り込んでいたフキヤグモは、頭を粉砕の魔法陣で吹き飛ばしてやった。
「うげぇぇぇ……これ、本の山だったんじゃない?」
「みたいだな。全部食われて虫の糞になってるんだろう」
売り場の書棚にあった残骸と同様に、加工された紙と糊の部分を除いて本は食い荒らされていた。
何度も何度もタンクを交換して、掃除を続けても、出てくるのは本の残骸ばかりだ。
「ここも駄目そうだにゃぁ……」
ゴキブリ、ゲジゲジとの殲滅戦に心が折れそうになっていたら、突然本の山が現れた。
「出たじゃねぇか、ニャンゴ」
「うん、ちょっと待って、周りを掃除しちゃうから」
お宝を発見したと胸を躍らせて周囲の埃を吸い取り、慎重に一番上の一冊を取り除いてみると、綺麗な風景の写真集だった。
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