第394話 おもちゃ売り場
東側の駐輪場と思われる場所で、魔導二輪車と自転車の残骸を回収した後、調査は三階へと移った。
三階の北側は、二階から続いているシネコンの劇場で、南側は子供用品の売り場のようだ。
服や鞄、靴などの売り場には興味は無いが、おもちゃ売り場は調査せずにはおれないだろう。
空属性魔法で明かりの魔道具を作って広範囲を照らすと、かつておもちゃ売り場だったフロアが照らし出された。
かつてここには、館内放送やBGM、ゲーム機の電子音などが溢れ、子供たちの歓声や笑い声、走り回る足音などが響いていたはずだ。
色あせて剥がれ落ちたポースターらしきもの、天井にも飾り付けがされていたらしいが、今はクモの巣まみれになっている。
ぬいぐるみなどは、かろうじて原型を留めている物もあるが、樹脂製のおもちゃは殆どが劣化して壊れてしまっている。
ゲーム機と思われるコーナーには、ポータブルゲームと思われるものが置かれていた。
展示台から垂れ下がっているチェーンは、持ち逃げされないようにゲーム機に取付けられていたものだろうが、本体が劣化して外れてしまったのだろう。
ボロボロに劣化したポータブルゲーム機と思われる樹脂製の物体をそっと裏返して調べていると、モルガーナ准教授が話し掛けてきた。
「エルメール卿、何を調べていらっしゃるのですか?」
「これを動かす動力源……」
「動く? これが動くんですか?」
「あぁ、移動するという意味じゃなくて、稼働させるための魔力とかを溜めておく物を見たいんだ」
裏ブタに爪を引っ掛けて外すと、中には電池のような物が入っていた。
大きさは、単三電池よりも一回り大きく、形も円柱ではなく四角柱だ。
乾電池とは違って端子は一つしか無く、接続も直列ではなく並列接続のようだ。
これは、アルカリ乾電池やマンガン乾電池のような使い捨てなのか、それともニッケル水素電池のように繰り返し使える物なのか。
このゲーム独自の畜魔器なのか、それとも蓄魔器の共通規格なのか。
汎用品ならば、他のゲーム機や魔道具にも使えるかもしれない。
そうした説明をすると、モルガーナ准教授は俄然やる気を見せ始めた。
というか、休憩は挟んでいるけど、調査の間ずっと『おぉぉぉ……』とか、『あわわわ……』とか声を上げながら動き回っていて疲れないのだろうか。
調査が終わった途端に、気が抜けてポックリ逝ったりしないだろうね。
まぁ、モルガーナ准教授ならば、アーティファクト欲でアンデッド化して研究を続けそうだな。
ゲーム機では無い別のおもちゃの中の動力を調べてみると、同じ畜魔器を使っているものがあった。
どうやら、乾電池のような共通規格らしい。
店の表の調査を待ちながら店の奥を調べると、同じ形の畜魔器が十本セットできる充魔器があった。
店の展示品の魔力が切れたら交換するように、ここで魔力を補充していたのだろう。
これは、どう見ても業務用だから、家庭用に二本とか四本をセットして魔力の補充が出来るものがあったはずだ。
店の表や裏を探し回ってみたけれど、どうやらここには置いてないらしい。
その代わりと言ってはなんだが、携帯型のゲーム機や、据え置き型のゲーム機の新品が見つかった。
どれも、外箱はボロボロになっていたが、中側の箱には例の品質維持のためと思われる魔法陣が刻まれていた。
携帯ゲーム機はカートリッジで、据え置き型はディスクでゲームアプリを読み込む形式のようだ。
カートリッジとディスクの新品も見つかったが、携帯ゲーム機は畜魔器が無いから動作がたしかめられない。
据え置き型のゲーム機は、コンセントから魔力の供給を受けるようで、どの程度の魔力を流したら良いのか分からないし、ディスプレイが無いから動作の確認ができない。
「モルガーナ准教授、この機械はとても重要ですから、壊したり、盗まれたりしないように注意してください」
「その重要だという理由を教えてもらっても良いですか?」
「この機械は、この円盤に書き込まれている情報を読み取って、外部のモニターに表示する機能を持っているはずです。ここにある円盤は、殆どが遊ぶためのものですが、別の場所には読んだり、鑑賞したりするための円盤も存在しているはずです」
「それを見られれば、当時の生活の様子が分るかもしれないんですね?」
「その通りです。これは、その情報を読み取るために重要なのです」
今の所、DVDプレーヤーのようなものも見つかっていないし、パソコンや液晶モニターの新品も見つかっていない。
まだ三階までしか調べていないが、どうもこの建物には家電量販店のようなものは無い気がする。
ディスクを再生するのに液晶モニター付きのDVDプレーヤーみたいなものがあれば最高なんだが、今はこのゲーム機を確保しておくことが重要だ。
ただし、映像を見るためには、新品のモニターや接続ケーブルを確保し、魔力をどの程度供給すれば良いのか調べる必要がある。
「うーん……何とかディスクは再生できるようにしたいにゃぁ」
おもちゃ売り場で、ゲーム機以外に気になったのは、ドローンらしきものだ。
手のひらサイズで、プロペラが四つだったり、六つだったり、いくつか種類があった。
ここに置かれているのだから、本格的なドローンではないだろう。
専用のコントローラーも無いようなので、もしかするとスマホに連動させて飛ばすものなのかもしれない。
ただし、おもちゃとしては興味あるけど、冒険者活動に役立てようとは思っていない。
空属性魔法で熱気球とかを作れば空だって飛べちゃうし、上空からの偵察ならばステップで歩いていけば良い。
でも、俺以外の冒険者にとっては、偵察用のドローンとかは喉から手が出るほど欲しいアーティファクトじゃないかな。
ドローン以外に気になったのは、銃のおもちゃだ。
水鉄砲に低年齢向けエアーガン、高年齢向けのエアーガンなどが置かれている。
今の時代にも魔銃は存在しているが、こんなに洗練された形はしていない。
こちらの世界の銃は魔道具だが、この時代の銃も魔道具なのか。それとも火薬を使ったものなのか興味が湧いて来る。
そういえば、現代に出回っている魔銃は、ダンジョンで発見されたものを模倣して作ったのだろうか。
使い手が魔力を込めるタイプならば、弾切れを心配する必要は無いが、弾速とかは火薬を使った銃の方が速い気がする。
ただ、こちらの世界では火薬を見た覚えがない。
あの王都の『巣立ちの儀』の会場が襲撃された事件でも、砲撃に使われていたのは粉砕の魔法陣だった。
粉砕の魔法陣の悪用でも物騒なのに、火薬なんてあったら更に危険度が増してしまう。
ダンジョンに来てから耳にしなくなったが、反貴族派の連中が火薬なんて手に入れたら目も当てられない事になりそうだ。
そう言えば、旧王都を越えた先の何とかっている領地でも反貴族派が暴れているとかオラシオ達が言ってたけど、どうなったのかな?
下手に首を突っ込むと、ダンジョンの調査を続けられなくなりそうだから、この話は忘れてしまおう。
おもちゃ売り場の一角には、乗り物のコーナーがあった。
当時の車をデフォルメしたと思われるカートが数台置かれていて、よく見るとコインの投入口のようなものがある。
たぶん時間制で動く子供用のカートなのだろう。
ぶつかっても大丈夫なように、カートの周囲はバンパーで囲まれていて、ペダルは一つしか付いていない。
ブレーキが必要なほどのスピードは出ないのだろう。
丸いハンドルの他にT字型のレバーが付いていて、前進と後退を切り替えるようだ。
「エルメール卿、ここにあるものも子供のおもちゃなのでしょうか?」
「子供が乗って遊ぶ、魔導車のおもちゃだと思いますよ」
コインの投入口やハンドル、レバーについて説明すると、モルガーナ准教授はカートの周囲を回りながら、上から、下から角度を変えて観察を始めた。
「エルメール卿、これは実際の魔導車にも使われている仕組みなのでしょうか?」
「いやぁ、違うと思いますよ。これは、あくまでも子供用のおもちゃでしょう。安全のために、実用するほどの速度は出ないように作られているんじゃないですか?」
「なるほど、なるほど……」
モルガーナ准教授は、腕組をしたままカートを凝視している。
うん、明らかに乗りたがってるよね。
体格的には女性でも小柄だから、乗って乗れないことはないと思うが、座席は埃だらけだし、ボロボロに劣化しているし、体重を支えられずに壊れる恐れがある。
「先生! 遊んでないで調査を進めて下さいよ!」
「わ、分かってますぅ!」
イレアスに怒鳴られて、モルガーナ准教授は頬を膨らませながら戻っていく。
子供か……。
でも、調査が進むほどにモルガーナ准教授とイレアス達は良いチームワークを発揮しているように見える。
このまま順調に調査を進めて、俺達の懐を早く潤してくれ。
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