第385話 後続の冒険者

 良いユーザーインターフェースは、言葉が全く分からなくても記号だけで直感的に理解が出来る。

 大昔のスマートフォンに搭載されていた、カメラのユーザーインターフェースはかなり優秀だった。


 動画と静止画の切り替え、撮影モードの変更、明るさ、彩度、コントラストなどの調整が直感的に行える。

 当然、撮影した動画を再生してみせると、ライオスや兄貴は勿論、レイラも目を見開いて驚いていた。


「ニャンゴ、これ大発見間違い無しよ」

「ただ、この機能を再現するには、ものすごく高い壁をいくつも乗り越えていかないといけないと思うよ」


 撮影するには、映像素子、演算処理機能、記憶メモリーなどが必要だし、レンズの工作精度も求められる。

 前世でもスマートフォンはあったけど、カメラの発明からは二百年ぐらいの年月が必要だったはずだ。


 大昔のスマートフォンは、触っていたら使えちゃった……なんて説明で通るほど初期設定が簡単ではないので、ライオスと兄貴にも異世界日本で生きていた記憶があると告白した。

 二人とも理解するまでに少し時間が掛かったけど、スマートフォンを使っている様子や兄貴はオフロードバイクにも乗せているので納得したようだ。


「なるほど、ニャンゴには別世界だが、もっと文明が進んだ世の中の知識がある訳だな」


 ライオスはスマートフォンと俺を交互に見比べながら、何やら考えているようだ。


「ニャンゴ、どうして俺達家族にまで黙っていたんだ?」

「だって、別人の記憶があります……なんて話したら、気持ち悪いと思われそうだし……信じてもらえないと思ったんだ」

「そうか、確かにちょっと信じられない話だけど、お前の今までの破天荒ぶりを見てると納得だな」


 今は兄貴も納得してくれているが、これが魔法を使えるようになる前だったら、到底信じてもらえなかっただろう。


「ニャンゴ、そのスマなんとか……の他にも、先史時代の魔道具が眠っていると思うか?」

「たぶん……ここを見て」


 俺が指差したのは、スマートフォンが入っていた発泡スチロールの箱で、側面には魔法陣がプリントされている。


「それは、これが収められていたケースか?」

「うん、この魔法陣は固定化とか品質維持のためなんだと思う」


 展示品として置かれていたものは樹脂部分に劣化が見られたが、ケースにしまわれていたものには劣化が殆ど感じられない。


「店に展示されているものは、長い年月の経過によって壊れてしまっていると思うけど、新品ならば劣化せずに使えるものもあると思う」

「これは、学者共が踊り上がって喜びそうだな」

「ダンジョンの方でも、同じようなものは見つかっていると思うけど、発見した冒険者が箱から出して確かめるうちに壊してしまったりしたのかな」

「その可能性は高いな。ダンジョンに潜る冒険者は、発見したものの価値を自分の目で確かめないと気が済まないような連中ばかりだからな」


 例え、新品のスマートフォンが発見されても、起動できるか分からない。

 起動しても、すぐに充電不足で機能停止してしまう。


 起動しなくなったスマートフォンなんて、ガラスと樹脂でできた板っぺらにしか見えないから、その本当の価値を知るのは難しいだろう。

 スマートフォンをいじり倒しながら、兄貴がドアを設置するのを待っていたら、通路の向こうから話し声が聞こえてきた。


 通路の入り口はガドとシューレが見張っているのだが、それ以外の人間の声も聞こえる。

 どうやら他の冒険者が来たようだ。


「ニャンゴ、レイラ、ちょっと様子を見てきてくれ」

「了解、何かあったら連絡するよ」

「頼むぞ」


 今の所、この建物の探索はチャリオットの独占状態だ。

 この後、学術調査が入るとはいえ、お宝を独占している状態だから反発を招く可能性がある。


 ガドもシューレも腕利きの冒険者だが、大勢の冒険者を相手にするのは大変だ。

 力ずくで押し入ろうとする奴がいたら、雷の魔法陣でも食らわせてやろうと思ったのだが、そんな荒んだ感じではなかった。


「おぅ、丁度いい、ニャンゴが来たぞ」

「エルメール卿!」


 ガドが俺が戻って来たことを告げると、二人組の冒険者は跪いた。


「あぁ、そういう堅苦しいのは無しにしましょう。ダンジョンの中ですし、お互い冒険者同士ですから」

「分かりました、俺はダンジョン探索を専門にしているパーティ―、シルバーモールのリーダーでヒュストといいます。こっちはメンバーのウェダムです」


 ヒュストは冒険者としては小柄なシマウマ人で、ウェダムは大柄なクマ人だ。

 シルバーモールは、風属性のヒュストがリーダー兼シーカーで、ウェダム他四人が土属性、それに水属性のメンバー一人の六人組のパーティーだそうだ。


 極力戦闘を避けて未発掘の部分を掘り進め、安全にお宝をゲットするのがシルバーモールの方針らしい。

 今日は、新たな発掘エリアが見つかったと聞いて、下見に訪れたそうだ。


「我々は、安全と効率を第一に考えていますので、まずは状況を確認しようと思って来たんですよ。率直に聞かせていただきますが、お宝が出る可能性は高いんでしょうか?」

「どの程度のものをお宝と言うのか分かりませんが、ダンジョンで見つかるような過去の遺物はたくさん残されていますよ」


 対岸の建物の規模を伝えると、ヒュストはウェダムと拳を打ち付け合って喜びを露わにした。


「ただ、学術調査が入る予定ですから、早いもの勝ちの探索はできませんよ」

「えぇぇ、そうなんですか? いや、それは参ったなぁ……」


 ヒュストは学術調査と聞いた途端、今度はウェダムと一緒に頭を抱えた。


「調査が入るとなると、その建物の遺物に関する権利はチャリオットのものだと保証されてしまいますよね?」

「たぶん、そうなるとは思いますが、対岸の建物は一つではありませんから、調査が行われている間に別の建物を掘り当てれば、そっちの権利は手に入るのでは?」

「えっ? まだ他に建物があるんですか?」

「えぇ、どの程度の規模かは分かりませんが、街が埋まっているはずです」


 ヒュスト達は、単にダンジョンに新しい掘削エリアが発見されたと聞いていたらしく、ダンジョンは海上都市で、新しく掘っている部分は対岸の街だと説明すると、目を見開いて驚いていた。


「こ、ここが地上で、その下は海だった?」

「そうです、そっちに外壁に沿って掘った穴がありますから、下りてみれば貝の化石とか確認できますよ」

「ホントですか? ウェダム、ちょっと見てこよう」


 ヒュスト達が穴に下りていった直後、驚きの声が聞こえてきた。

 そりゃ、こんな地下深くで貝の化石とか見れば驚くだろうね。


 興奮した様子で戻ってきたヒュスト達に、ギルド職員のモッゾから聞いた今後の発掘方針などを伝えると、装備を整えてメンバー全員で出直してくると決めたようだ。


「はっきり言って、ギルドの指示に従って通路を広げたりする工事自体は、あまり旨みの多い仕事ではありませんが、貢献度によっては優先的な発掘が認められたりするんですよ」

「優先的な発掘が認められると、当然実入りも良くなるんですよね?」

「まぁ、ドカっと稼げる場合もありますが、あまり意味が無い場合もあります。ただ今回は、エルメール卿の話を聞く限り、優先権を獲得しないという選択肢はあり得ませんね」


 対岸の建物を発見したチャリオットには別格の優先権が与えられるが、発掘作業を円滑に進めるためのギルド主幹の工事に貢献した人にも、優先権が与えられるそうだ。

 ヒュストの予想では、対岸までの通路、対岸の道路などを共同で掘り進めながら、地中を探知して建物を指定、その建物の権利を得る……といった発掘方式になるようだ。


「学者どもは強欲ですから、全ての建物を調査しないと気が済まないでしょうね。我々がお宝を手にするのは少々先の話になりそうです。それだけに、どの建物を選択するかは重要ですね」


 一度建物を指定すると、その建物までの掘削を進め、内部の様子を確認するまでは他の発掘には加われないらしい。

 それだけに、どの建物を選択するかは重要で、ハズレを引けば実入りが少なくなる。


 俺達チャリオットは、大規模ショッピングモールを掘り当てたから、既に勝ち確定状態だが、飲食店などの建物を引き当ててしまうと実入りはガタ減りしそうだ。

 この後、モッゾが設営を進めている居住区の様子や、俺達が掘り当てた建物の入口を確認すると、ヒュスト達は弾むような足取りで地上へと戻っていった。


 モッゾの報告、そしてヒュスト達が噂話を広げれば、さらに発掘作業に加わろうとする冒険者が増えるだろう。

 発掘作業の様子を記録映像に残しておくのも良いかもしれない。

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