第253話 新たな脅威
魔法陣の検証作業(途中から空の散歩)を終えて拠点に戻ると、ライオスにリビングに集まるように言われた。
「カバーネに向かう」
「ターゲットは?」
セルージョの問いにライオスは不敵に笑ってから答えた。
「ヴェルデクーレブラ」
「マジか……また厄介な野郎が出やがったな」
「討伐報酬は大金貨三枚だが、上手く仕留めれば素材で稼げる」
「とは言っても、俺達だけじゃ無理だろう」
「ブロンズウルフやワイバーンの時と同じく、野次馬含めて押しかけるだろうから何とかなるだろう」
「まぁな、うちには王国一危険な貴族様もいるしな」
セルージョとライオスは、俺に視線を向けてニヤっと笑ってみせた。
「俺みたいな可愛らしい名誉騎士をつかまえて、危険な貴族とは心外ですね」
「よく言うぜ、ワイバーンの胸板に風穴開けちまうような貴族なんてニャンゴの他にいないだろう」
「いやいや、王族貴族は曲者揃いですから、俺なんかと違って実力を隠してそうですから分りませんよ」
「それでも、空を飛ぶ貴族はいないだろう」
「えっ……?」
「えっじゃねぇよ。お前、空を飛んで遊んでやがっただろう。噂になってんぞ」
セルージョの話では、イブーロの周りで飛行船のテスト飛行をしていたのを目撃されたようだ。
結構高いところを飛んでいたので気付かれないと思っていたが、こっちの世界の人は前世の日本よりも視力が良い人が多いから発見されたようだ。
バレてしまったならば仕方ないので、飛行船について簡単に説明すると全員に呆れられた。
「ニャンゴばっかりズルい……」
「いや、ズルいと言われても、シューレを乗せて飛べるほどの大きさは……作れない事もないか」
「じゃあ、カバーネには飛んでいくわ……」
「いやいや、魔力が切れたら落ちて死んじゃうから」
「飛んでいくわ……」
「いや、だから」
「飛んでいくわ……」
「もう……考えとく」
「ふふっ、やっぱりニャンゴは超有能……」
「空を飛んで遊ぶのは、ヴェルデクーレブラを仕留めた後にしてくれ」
シューレに押し負けたが、ライオスに待ったを掛けられてしまった。
「ヴェルデクーレブラって、どんな魔物なんですか?」
「簡単に言うと、緑色のデカいヘビだが倒すのは難しいぞ。夜行性で昼間に姿を現すのは稀だ。大きいものは牡牛を丸呑みにするし、既に羊が何頭かやられているそうだ」
討伐の報酬がブロンズウルフの三倍なのも、それだけ危険な魔物である証拠だろう。
更にセルージョが重要な情報を付け加えた。
「デカいだけじゃねぇぞ、毒を持ってやがるからな」
「毒ですか……でも、どのみち噛み付かれた時点で助からなそうだし……」
「そうじゃねぇ、毒を噴き付けて来やがるんだ」
ヴェルデクーレブラの毒は、体を麻痺させるタイプだそうで、皮膚に触れるだけでも効果を発揮するそうだ。
「体に触れても駄目……霧になったのを吸っても駄目よ……」
「シューレは戦ったことあるの?」
「無いわ、話を聞いただけ……討伐では毎回犠牲が出るらしい……」
夜行性で毒を持ち、巻き付かれたら体の骨がバラバラになるほど締め付けられる。
動きが速く、背中側の鱗は堅い……など、討伐を難しくする要素が揃っているらしい。
「ただし、ライオスも言ってたように、上手く仕留められれば素材の報酬が大きいぞ」
セルージョ曰く、ヴェルデクーレブラの革は鮮やかな緑色が美しく、背中側は防具として、腹側は高級革製品の素材として人気が高いそうだ。
肉の味も良く、高級品として取引されるらしい。
「仕留めた後の金勘定も良いが、ヴェルデクーレブラではワシ一人では押さえきれんぞ」
ブロンズウルフ相手に一歩も引かなかったガドだが、ヴェルデクーレブラに大しては分が悪いようだ。
「頭と尾が別の生き物のように動くし、毒持ちだから正面から受けていたら身が持たん」
ヴェルデクーレブラの毒は急激に命を奪うものではないらしいが、麻痺が長く続くらしく、まともに食らってしまうと一週間ほどは戦闘不能に陥るらしい。
「毒を吐く時に、なにか前兆みたいなものは無いんですか?」
「前兆か、あったかのぉ……」
ガド達も、主力としてヴェルデクーレブラと戦った経験は無いそうだ。
まだ駆け出しの頃に、討伐の様子を遠巻きにして見ていただけらしい。
「その時は、どんな感じで討伐したんですか?」
「とにかく、大勢で取り囲んで、魔法や矢を撃ち込んで体力を削り、弱った所で首を斬り落として仕留める感じだな」
「一番怖いのは頭ですよね?」
「そうじゃが、尾を使った一撃も十分警戒が必要じゃぞ」
振り回された尾は、屈強な冒険者を二、三人まとめて薙ぎ倒すほどの威力があるそうだ。
「でも、尾だったらガドも不安無く受け止められるよね?」
「まぁ、そうじゃな、尾だけならば何とかしよう」
「ライオス、俺が空属性魔法を使って何とか頭の動きを止める。そうしたら仕留められるよね?」
「そうだな、横から攻める体制に持ち込めれば勝率は上がるな」
「てかよ、ライオス。そんだけニャンゴにやってもらって、仕留められないようじゃ俺らBランクを返上ものだろう」
「ニャンゴが拘束……私の魔法で止め……愛の連係を見せるわ……」
「へーへー、愛ねぇ……何でもいいけどニャンゴの足を引っ張るなよ」
「それの言葉は、そのまま返すわ……」
普段はいがみ合っているくせに、実戦ではちゃんと連係してみせるのだから、セルージョもシューレも互いの実力は認めているのだろう。
「問題は、どうやって見つけるかだな。やつは闇夜でも相手が見えるらしい」
ライオスの話では、ヴェルデクーレブラは新月の夜や曇っていて真っ暗な夜にも狩りをするそうで、闇を見通すほど目が良いと思われているようだ。
たぶん、獲物の赤外線を感知出来るピット器官のようなものを持っているのだろう。
「ライオス達が見た討伐では、どうやって探していたんです?」
「あの時は、たぶん色んなパーティーがあちこち探し回って、見つけたら大声で知らせあっていたな」
「結局は人海戦術しかねぇだろう」
「そうじゃな、昼間は姿を見せんからな」
羊を飲み込むほどの大きさならば、昼間でも見つけられそうな気がするが、動きが速く、行動範囲も広いので、見つけるのは難しいらしい。
「シューレの風属性魔法でも見つけられない?」
「動かない相手を見つけるのは……」
「だよねぇ……」
ヴェルデクーレブラの捜索については、現地に到着してから考えることになった。
「出発は明朝、依頼の場所はカバーネの向こう側になる。どの道到着は明後日になるから、慌てて出発するつもりはないが、今日のうちに支度を整えておいてくれ。それと、貧民街の騒ぎで通常の依頼が滞っているから、オークやオーガに遭遇する可能性もあると頭の片隅にでも覚えておいてくれ」
カバーネはイブーロから東に馬車で一日ほどの場所にあり、酪農と畜産が中心の村だ。
家畜を狙う魔物が頻繁に現れるので、イブーロのギルドで討伐の依頼が一番多い村でもある。
今回の依頼は、そのカバーネから更に東に半日ほどの所を流れる川の近くだ。
ヴェルデクーレブラは水辺を好み、水の中に姿を隠している場合も多いそうだ。
「野営は、川から少し離れたところに、牧場の一部を利用して設けられる野営地で行う」
「ワイバーンの時みたいに野営地が襲われたりしませんか?」
「それは大丈夫だろう。夜間は篝火が沢山焚かれるから心配要らないだろう」
「てか、今回は夜間に捜索、昼間は休みの生活だろう」
「それって、セルージョの普段の生活じゃない?」
「おぅ、言ってくれるじゃねぇかニャンゴ。夜中に居眠りしててバクっとやられるなよ」
「ノコノコ出て来たら、すぐあの世に送ってやりますよ」
「まぁ、うちの……いや今やイブーロのエースだからな、期待してるぞ」
「そうですね、サクっと倒して大金貨に化けて貰いましょう」
みんなで夕食を食べに行き、戻って来てから明日の準備をしていると、足音を忍ばせてミリアムが階段を上がって来た。
屋根裏部屋の半分は、みんなの荷物置き場になっているので、何か取りに来たのかと思ったが俺に話があるようだ。
「ねぇ……怖くないの?」
「ヴェルデクーレブラ?」
「そうよ。私達猫人だったら丸呑みにするぐらい大きいんでしょ?」
「みたいだね」
「みたいだねって……そんな他人事みたいに」
「だって、これまで戦ったブロンズウルフも、ワイバーンも、僕らを丸呑みに出来る魔物だったからね。今更だし、簡単に丸呑みされるつもりも無いからね」
オークやオーガを相手にする時だって、油断をすれば俺達猫人では即死するようなダメージを食らいかねない。
ライオスやガドのような体格の冒険者だって、頭に痛手を負えば助からないだろう。
「自信が無いなら、馬車に残っていたって構わないんじゃない? 実際、兄貴はワイバーン討伐の時には馬車に残って出来ることをやってたよ」
「そうなの? でも、あたしに出来ることなんて高が知れてるし……」
「そう? たとえば、今回は捜索は夜間になるみたいだから、みんなが戻ってきた時に温かい食事が出来るだけでもありがたいと思うよ」
「そっか……」
「それと、昼間寝ている時に、シューレの抱き枕を務めるとか……」
「それは、もう諦めてる……」
抱き枕の話をすると、ミリアムは心底嫌そうな顔をしてみせた。
まぁ、気持ちは分かる。
向こうは良くても、こっちとしては一人で寝させてくれと思うからね。
「兄貴もそうだったけど、猫人に出来る事には限りがある。無理をして討伐の最前線に出ても餌になるだけだし、駄目だと思ったら冒険者は引かないと長生き出来ないよ」
「そうね、その通りね」
シューレと一緒にいれば、嫌でも自分との差を感じさせられてしまうだろうし、ミリアムとしては焦りもあるようだった。
「あたしも、フォークスみたいに立ち位置が定まれば楽になるのかしら?」
「だろうね。どう足掻いても、今出来る以上の事は出来ないけど、今のミリアムにもみんなの為に出来ることはあるはずだよ」
「うん、話してみて少し楽になった……諦めて抱き枕になりにいくわ」
笑みを浮かべて階段を下りていくミリアムの尻尾が、機嫌良さそうに揺れていた。
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