第140話 連射

 兄貴と一緒に土の採掘場に行った翌日、ギルドの射撃場に足を運んだ。

 ワイバーンの討伐で魔銃の魔法陣は威力を発揮してくれたが、まだ使い勝手には改良の余地があると感じたからだ。


 動かない相手ならば威力の高い攻撃を叩き込めるが、動きの速い相手には攻撃を当てることすら侭ならない。

 改良点としては、速射性と連射性の向上だ。


 今日もギルドの射撃場は閑散としている。

 せっかくの設備なのに使われないのは勿体ないと思うが、冒険者は実戦で使いたがるものだし、今は討伐の依頼が溜まっているので殆どの者が現場に出ているのだろう。


「まぁ、変な奴に絡まれなくて済むから助かるけどねぇ……」


 今回は、速さの改善なので、狙いはアバウトにして発動させることに集中する。

 まずは、待機の状態から2連射の速さを高めていく。


 2連射にするのは、最初の1発は意識しないようにしても、どうしても意識してしまうので、ある程度の速さは確保出来る。

 でも、2発目までは意識出来ないので、純粋な発動までの時間が現れるからだ。


 パーン……パーン……


「うわっ、遅っ……」


 前回、鉄の的を壊した時には、複数個の同時発動の練習はしたが、連射の練習はしなかった。

 1発目を撃ってから2発目を撃つまでに間があり過ぎて、これでは接近戦では使えない。


 原因は、1発目の発動を確認してから2発目の魔法陣を作り始めているからだ。

 まだ魔銃の魔法陣を使い慣れていないので、確実に発動させようと意識してしまうのも連射性を落とす要因になっているようだ。


 そこで、1発目の発動を確認せず、2発目の発動に集中してみた。


 パーン、パーン……


「うん、さっきよりも全然いいね」


 ほんの少し意識を変えただけだが、連射性は大きく向上した。

 次は、2連射から5連射まで発射数を増やしてみる。


 パーン、パーン、パーン……ボッ……

 パーン、パーン……ボッ、パーン……

「ふぅ……今度は不発か」


 連射を続けようとすると、気持ちが焦って魔法陣の形が崩れ、発動しないケースが出て来た。

 しかも、発動した魔法陣の威力も落ちている気がする。


 威力が落ちた時の魔法は、あの粗悪な魔銃のような感じだ。

 コケ脅しには使えるけど、威力も弾速も褒められたものではない。


 速さも欲しいし、威力も欲しいというのは贅沢なのだろう。

 ここから先は、地道に練習するしかなさそうだ。


 魔法陣の質にこだわって、しっかりと威力のある魔法で5連射、とにかく連射の速さにこだわって5連射を交互に繰り返していく。

 そうそう、壊さないように、途中で別の的へ移動しておく。


 パーン、パーン、パーン、ボッ、パーン……

 パーン、ボッ、ボッ、パーン、パーン……

 パーン、パーン、パーン、パーン、ボッ……


 不発こそ無くなったが、まだまだ威力が安定しない。

 連射の速さも、まだまだ理想には程遠いが、今は5連射を確実にして、次は10連射、20連射と弾数も増やしていきたい。


 時々、的を移動しながら、ひたすら連射を繰り返し、どうにか確実に10連射が出来るようになったところで手を止めると、ギルドマスターのコルドバスに見られていた。


「やはり、ワイバーン討伐は伊達じゃないな」

「みゃっ! い、いつから見ていらしたんですか?」

「少し前からだ。集中力は素晴らしいが、気配の察知はまだまだだな」

「うっ……ここはギルドの中ですし……」

「そうだな。だが、ボーデのような奴もいるから、あまり無防備にはなるなよ」

「はい、気を付けます」


 コルドバスは、お気に入りのオモチャを見るような笑みを浮かべていたが、不意に表情を引き締めた。


「ニャンゴ、子爵からの呼び出しだ」

「えっ……呼び出し?」

「あぁ、すまん。呼び出しというよりは招待と言うべきだな」


 今回のワイバーン討伐では、ラガート子爵とエスカランテ侯爵が、どちらが早く倒せるか勝負していた。

 俺がワイバーンに止めを刺したのは川のこちら側だったので、勝負はラガート子爵の勝ちとなったはずだ。


 その勝利の立役者となった俺を労うために、居城へと招待してくれるらしい。


「俺、1人ですか……?」

「いや、チャリオット全員という形にしてもらった。さすがに1人で行くのは気が引けるだろう?」

「それは勿論。みんながいてくれた方が安心です」


 1人で領主の居城を訪問……なんて考えただけでも胃が痛くなりそうだ。

 ライオスたちが一緒にいてくれれば、心強いに決まっている。


「ニャンゴ、子爵からは騎士への取り立てを打診されると思うが、断わって構わんからな。と言うか、断われ」

「にゃ? 断わっても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。今や、お前さんはイブーロギルドのエースと呼んでも過言じゃない。騎士の役割も重要だろうが、ギルドの戦力を削られてたまるか」


 ワイバーンの素材でチャリオットは大きな利益を出したが、ギルドもまた素材の売却によって少なからぬ利益を出しているらしい。

 チャリオットが討伐してきたオークの肉は高値で取り引きされているし、やり方を真似しているボードメンも儲けているようだ。


 冒険者が儲かればギルドも儲かる。

 そのサイクルを回す原動力となっている、俺を引き抜かれたくないらしい。


 一旦、魔銃の練習を切り上げて、ギルドの酒場でコルドバスと昼食を共にする。

 前世の俺なら、組織の偉いさんとの食事なんて間違いなく逃げ出していただろうが、冒険者として活動していくならばコネは多い方が良い。


「昨日も、だいぶ派手にやってきたみたいだな」

「派手……というか、採掘場での作業が安心して出来ないと、色々と影響が出ますよね?」

「まぁ、そうだな。近年、イブーロの陶器は評価が上がっている。その評価を固めていくには安定して製品を供給する必要があるからな」


 コルドバスによれば、そうした地場産業の振興にラガート子爵は力を入れているらしい。


「陶器以外では家具製品、チーズ、魚の養殖、馬の繁殖……色々だな」

「それは、単純に領地を豊かにする為なんですか?」

「まぁ、エスカランテ侯爵への対抗心もあるのだろうが、産業が増えれば、それに関わる人も増え、結果として領地が栄えるのは確かだ」


 住民の数は、領地の豊かさを示す一番の指標だ。

 住民が多ければ、それだけ税収も見込めるし、有事の際に動員できる兵士の数も増える。


 住民を増やすためには、生活の基盤となる産業の育成は欠かせない。

 いくら人が増えても、貧民街で暮らす人が増え続けるのでは意味が無いのだ。


「子爵も、ニャンゴのような存在は手許に置いておきたいと思うだろうが、騎士としてではなく冒険者として街の振興に寄与してほしいとも考えているはずだ。今回の招待は、どんな奴なのか、顔を見せに来い……みたいなもんだ。騎士として誘われたとしても、断わって構わないから心配するな」

「分かりました。せいぜい美味い物でも食べさせてもらいますよ」

「はははは……子爵の城は湖の畔にあるのだが、色々な魚の養殖の研究も行っている。今の時期なら脂の乗った魚を食わせてもらえるだろう」

「それは……確かに期待できそう」


 マルールよりも美味い魚がいるのなら、是非とも味わってみたい。

 いや、毎日美味しい魚を食べられるならば、いっそ子爵家の騎士になるのも悪くないかもしれないな。


 コルドバスとの昼食の後は、射撃場に戻って練習を再開した。

 求めるのはマシンガン並みの連射性能、理想とするのはバルカン砲のような高速連射だ。


「10連射が安定してきたから、次は3点バーストかな」


 発射数を減らすかわりに、更に連射速度を上げていく。

 連射の練習を繰り返してきたので、魔銃の魔法陣は意識しないでも発動できるようになってきた。


 あとはタイミングなのだが、音をイメージして速度を上げていく。

 パーン、パーン、パーン……から、パ、パ、パーンになるように練習し、バババ……を経由して、最後はドリュ……って感じを目指す。


 本来、魔銃の魔法陣を作るだけだから構える必要は無いんだけど、何となく右手でガングリップを握り、左手を添える形で構えてしまう。

 やっぱりイメージは大切だよね。


 空属性魔法を使って魔法陣を作るから、ハンドガンの大きさをイメージしても、将来的にはフルオートでの連射も出来るはず。

 というか、ハンドガンサイズのバルカン砲とか良くない? しかも、左右2丁持ってガン=カタとか良くない?


 ゴブリンの巣に単身で乗り込んで行って、2丁拳銃をぶっ放して壊滅させる……うん、いいね。

 ちょっと馬鹿っぽい未来を想像しながら、夕方まで魔銃の練習を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る