第96話 検証
ゾゾンの討伐を行った翌日、俺はレンボルト先生を訊ねた。
例の魔銃について色々と聞いてみたかったからだ。
学校は、襲撃に巻き込まれてショックを受けた生徒が少なからずいたので、5日間の休校措置が取られているそうだ。
校門を通り抜けようとすると、警備をしていた兵士の皆さんが集まって来て、握手攻めにされてしまった。
どうやら兵士の皆さんの間では、片目の黒猫人の冒険者が賊を一網打尽にしたと知れ渡っているらしい。
誰が言い出したのか知らないが、俺を見かけると幸運が訪れるなんて言う者さえいるそうだ。
俺としては、ゴリマッチョな皆さんにワっと囲まれると逃げ出したくなる。
何せ体格が違いすぎて、圧が凄いんだよ、圧が……。
研究棟のレンボルト先生の部屋を訪ねると、思った通り魔銃の解析を頼まれていた。
解析作業を見せてもらうと同時に、魔銃の魔法陣も教わろう。
「これが、先日の魔銃に使われている魔法陣なんだが、分かるかな?」
「なんだか、魔法陣がギザギザしていますし、線の太さも不揃いですよね」
「その通り。この魔法陣の部分の工作精度が魔銃の威力に大きく関わってくるんだ」
「確か、魔銃一丁で王都に一軒家が建てられるとか聞きましたけど……」
「そうだよ。キチンとした精度で作られた物は、中級の火属性魔法を撃ち出す事が出来るし、銃の耐久性も高い。一方、この魔法陣では威力の高い火属性魔法は撃てないし、五十発も撃てば壊れてしまうだろうね」
実際、解析中の魔銃の魔道具部分は、黒く煤けているし、微妙に歪みが生じてきているようにも見える。
「やっぱり、魔法陣の滑らかさは重要なんですね」
「そう言えば、ニャンゴ君が空属性で魔道具を作る時にも、滑らかさには気を使っているのかな?」
「はい、魔道具の形を何度も頭に思い浮かべて、模様の部分が滑らかになるように、陣を構成する模様の太さが均一になるように、何度も練習を繰り返します」
「そうか、ニャンゴ君が高い威力の刻印魔法を使える理由は、その辺りにもあるようだね」
レンボルト先生が、解析を頼まれた魔銃の魔道具部分を守備隊で説明するそうなので、同席させてもらう事にした。
分解した状態で魔道具を作動させたりもするそうなので、見物する価値はありそうだ。
守備隊と学校は、一部の施設を共有しているそうだ。
例えば、攻撃魔法の射撃訓練を行う施設は、守備隊の施設を生徒も授業で使えるようにしているらしい。
これは流れ弾が外部に飛んでいったりしないように、対魔法用の防御が施された射撃場の中で訓練を行うためだそうだ。
射撃場は、幅30メートル程度、奥行きは150メートルぐらいある。
石造りのトンネルのような感じで、壁も天井も見るからに頑丈そうだ。
150メートル先に的が設置できるようになっていて、背後の壁は分厚く作られているし、対魔法用の防御結界が施されているらしい。
ギルドの訓練場の上位版みたいなものだろうか。
ちなみに、ギルドのアリーナに使われていた物理魔法耐久力アップの魔法陣はシッカリ書き写してきて、もう練習を始めている。
フルアーマーのパーツを作る時には、刻印として入れるようにしている。
厳密に計測したわけではないが、模様のごとく面全体にちりばめると、強度が3倍以上に上がるようだ。
もともとフルアーマーは身に着けても重さは殆ど無いのだが、薄く出来ると動きの邪魔にならなくて済む。
守備隊の訓練場には、隊長のトーラスの他に、ヒョウ人の若い士官が待っていた。
「やぁ、ニャンゴ君も一緒かい」
「はい、見学させて下さい」
「あぁ、勿論構わないよ」
「トーラス隊長、この少年が例の……?」
「そうだ、彼が襲撃犯の捕縛に貢献してくれたニャンゴ君だ。ニャンゴ君、彼は子爵家の騎士候補生ヒューゴだ」
「Cランク冒険者のニャンゴです」
「Cランク……いや、失礼、騎士候補生のヒューゴだ」
さすがに騎士候補だけあって素晴らしい体格だし、握手もメッチャ力強い。
念のためにと、身体強化しておいて良かったよ。
互いの挨拶が終わった所で、早速レンボルト先生が説明を始めた。
黒尽くめ達の魔銃は、魔法陣の工作精度が劣っているだけでなく、材質や、組み立て精度などにも数々の問題を抱えているようだ。
煤けて歪んだ魔道具部分を見せながらの説明に、トーラスもヒューゴも頷いていた。
次に、魔道具部分の実際の発動状況を見ることになった。
台上に設置した魔銃の魔道具部分を、台の下に潜った兵士が作動させてみるそうだ。
大丈夫なのかと不安になるが、炎の弾が撃ち出されても天井まで対魔法の防御が施されているから大丈夫らしい。
まぁ、実際に食堂で使われたのを見たけれど、石造りの壁が煤けた程度だったから、射撃場の石造りの天井でも同じ結果にしかならないのだろう。
でも、魔道具自体が信頼の置けない代物だし、念の為の準備はしておいた。
「準備は良いか? 撃て!」
「はっ!」
台の下に潜った兵士が魔力を送り込むと魔道具が作動して、火の玉が撃ち出された。
「うわっ、シールド!」
火の玉は真上に飛ぶどころか、15メートルほど離れて見守っていた俺達に向かって飛んで来た。
念のために用意しておいたシールドを展開したので、行く手を遮られた火の玉は壊れて消えた。
完全に油断していたらしく、棒立ちしていたトーラスが驚いた表情で訊ねてきた。
「ニャンゴ君、今のは君の魔法かね?」
「はい、そうですけど……あの魔道具は危なすぎですよ」
「いや、まったくだ、レンボルト先生……」
「申し訳ない、ここまで酷いとは思っていませんでした」
台上の魔道具を改めて確認すると、大きく歪んで今にも壊れそうだった。
「魔銃の魔道具部分は動作の際に急激な温度の上昇が起こるので、熱耐久性の高い材質で作る必要があるのですが……これは、思った以上に粗悪な材質のようですね」
この後、ラガート子爵家所有の魔銃と威力の比較が行われたが、もう比較するだけのレベルに無いのは明らかだった。
同じ高さの台上に据え付けた状態で実際に発射して比較したのだが、黒尽くめ達の粗悪な魔銃からボフっと鈍い音を残して発射された火の玉は、100メートルも飛ばないうちに地面に落ちてしまった。
一方、ヒューゴが撃ち手を務めたラガート子爵家所有の魔銃は、パーンと乾いた発射音と共に銃を名乗るのに相応しい速度で炎弾を放ち標的の藁人形を爆散させた。
トーラスの話では、中級の火属性魔法フレイムショットを高威力で放ったものと同等らしい。
ただし、撃ち手が魔力をチャージするまで5から10秒ぐらいの時間を要するし、その間ずっと狙いを保持しなければならない。
威力としては申し分ないが、実用的かと聞かれると少々首を傾げないといけないようだ。
「ところでニャンゴ君、君の盾で魔銃の弾丸を防げるかね?」
「どうでしょう……こればかりはやってみないと分からないですね」
「では、試させてもらえるかな?」
新たな的の藁人形が用意され、俺はこちらからシールドを張る。
最初は普段使っている盾にしてくれと言われたので、強化の刻印無しのフルアーマーの3分の2程度の強度で張ってみた。
「撃て!」
「はっ!」
ちょっとしたタイムラグの後、ヒューゴの魔力を注がれた魔銃がパーンと乾いた音と共に火を噴く。
シールドは耐え切れず霧散したが、威力を削がれた炎弾も藁人形を燃やしたが爆散まではさせられなかった。
壊されてしまうのは癪に障るが、壊れないと目を付けられそうなので、この程度と想定したが上手くいったようだ。
我ながら、絶妙な手加減としか言い様がない。
「ニャンゴ君、もう少し盾を強く出来るのかな?」
「やって出来ないことはないですが、魔銃の発射と同じぐらいの時間は掛かります」
「そうか、やってみてくれないか」
今度は、刻印入りのフルアーマーと同程度の強度のシールドで試させてもらう。
対魔法防御、対物理防御、双方をアップさせる刻印が入っても、空属性のシールドは透明なので見分けられることはない。
従来のフルアーマーと比較すると厚さは半分だが、強度は五割増し。
さっき壊されたシールドの倍ぐらいの強度は有るはずだ。
「撃て!」
「はっ!」
シールドに命中した炎弾は、直径5メートルほどの炎を噴き上げたが、それだけだった。
シールドも壊れていないし、もちろん的の藁人形も健在だ。
魔銃の威力は確かに高いが、属性魔法のように威力の調整は出来ない。
魔道具ゆえに、どんなに魔力を注ごうともこれ以上の威力は出せないのだ。
「凄いな……あれを防ぐのか」
「と言っても、発射されてからの距離がありますからね。もっと近い距離で撃たれたら防ぎきれませんよ」
「なるほど……だが、ニャンゴ君には勝算がありそうに見えるが……」
「そうですね。こう、盾を斜めに構えれば、炎弾の威力を逸らせるかもしれませんね」
「試してみるかね?」
「いやぁ……それよりも、魔銃で狙われないようにしますよ」
「はははは、確かに、それが一番当たらない方法だろうね」
この後、レンボルト先生も加わって、魔銃の実戦配備の可能性について話をしたのだが、歓談の最中に言葉少なだったヒューゴから、値踏みするような視線を向けられていたような気がした。
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